慣れ合い

やがてHRは終わり、生徒たちはそれぞれ5分後の授業のための支度を始めた。
数人が雪に近づき、話しかけようとする。
だがそれは直前で、一人の少女によって阻まれた。


「……北国 雪。ちょっと、ついてきて欲しいんだけど」


***


まだ十月とはいえ、刺すように冷たい風が吹き付ければ肌寒くも感じる。
特に、風が遮るものが何もない屋上では、あまりの寒さに身震いすらしてしまうほどだ。

そんな屋上にたたずむ二人の少女の姿。
花も恥じらう中学生のはずの二人の間には、何人たりとも立ち入ることのできない張りつめた空気が流れていた。
12、3歳とは思えない彼女らの顔つきに、誰もいないはずの屋上の空気がどんどん低下していく。


「……どうして、ここに来たの?」
「そんなに嫌悪を抱かないで? 私は9代目の命令に従っただけだよ」


まるで歌うように告げる雪に、だけど未来はさらにその目を細めるだけだった。
何を言っても信じてもらえないのだろう、と最初からあきらめている雪はその視線を一身に受けても、ただため息交じりに空を仰ぐだけだった。
今日は曇りで、太陽がどこにいるのかさえ分からないほどに陰っている。
まるで自分の心のようだと、雪はふと思ってしまってからすぐにその空想をかき消した。

自分のこんなに穢れた心をあんなに澄んだ空に重ねてしまうなんて、笑えてしまうほど愚かなことだったと雪は気づいたからだ。

そんな様子に気付くはずもない未来は、その言葉をつづけた。


「ヴァリアーからどんな指令? ……まぁ、教えるはずもないって知ってるけど、とにかく僕は油断したりしないから。少しでも怪しい動きしてみなよ、見逃さないからね」


ひしひしと警戒が伝わってくる未来の言葉に、雪は口を噤んだ。
ヴァリアー、ヴァリアー、さっきからその言葉が彼女を苛む。
出来れば忘れてしまいたかった。忘れてしまえたら楽だった。
だけどそんなことは不可能だって、わかりきっていた。

それでも、願わずにはいられなかった。
その胸の苦しみは、12歳という年齢の彼女にとっては重すぎて、苦しすぎて、そして終わりを知らず雪を弄ぶ。
そんな雪の苦しみも知らず、未来はさらに雪を追い詰める。


「大体何のつもり? あんなにヴァリアーのもとを離れたくないって空気出しておいたくせに、もしかして綱吉がボンゴレ10代目候補だからって、偵察にでも……」
「Silenzo(黙れ)!!」


唐突に屋上に響き渡る少女の金切り声に、未来の体は大げさなほどびくりと震えた。
そして目を見開き、荒く肩を上下させる雪を愕然と見つめる。

二週間近くしか知り合うことが出来なかった。
それでも、未来は知っていた。
雪はどこか臆病で、物静かで、少なくともこうやって声を荒げるような子ではなかったことを。


「……ヴァリアーヴァリアーって……うるさい……。そうだよ……?」


苦しそうにくしゃりと歪められた顔で、未来を真正面から見つめる。
そんな必死な彼女の形相に、未来は思わず息を呑む。


「9代目(ノーノ)の命令でのこのここっちにやってきたんだよ! ヴァリアーを全員裏切ってッ! ファミリーを……家族を捨てて! なんて汚い人なの、あの人は! 私らの弱さにつけ込んで、無理矢理脅してまで命令に従わせて! おかげで私は……私はッ……!」


言葉を紡ぐのさえ辛そうなそんな雪を見て、未来は愕然とした。
まるで実父のように慕っていた9代目の仕出かしたことだとは思えない。
何か間違いがあるはずだ。そう思うことで、未来は自分をつなぎとめようとする。

……だけど心のどこかで、それが本当の9代目だということを未来は知っていた。
あの人は、悲しいほどに残酷で、残酷だ。
笑顔で人を突き離すことくらい、きっと他愛ないのだろう。

それが他人事ではなく思えて、気づけば未来は謝罪を口にしていた。
傷ついてしまった雪はあまりにも脆く、今にも崩れ落ちそうにすら見える。

そんな雪を自分と重ねてしまい、未来は見ていられず思わず目をそらしてしまった。

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