初めまして

いつからだろうか、気づきはじめていたことがあった。
それは、心のうちから溢れる確かな感情。
あったかい? 冷たい? そんなことは触れなければ分からない。
だけど確かに心地いいと、そう思わせてくれた。

あの日味わった苦しみが氷山の一角だと思い知らされた時が何度もあった。
だけど、あなたは決してその手を離してはくれなかったね。
温もりを知った指先は寒さに弱いと知っていたのなら、
いつか私が永久にあなたを失うことを知っていたのなら、
私は、何か変われたのだろうか――……?



「初めまして! 北国 雪と申します。不慣れなことはたくさんあると思いますが、どうかよろしくお願いします!」


いまだに不慣れな日本語を紡ぐ。
不自然になっていないか少しばかり心配になりながらも、私はテレビとかで見たように頭を下げる。
確か、日本人にとってはこれが挨拶だったはずだ。

顔を挙げた先、ガタリという音が教室の端で聞こえた。
反射的にそちらを見れば、どこか懐かしい藍色。


「……ヴァリ、アー……」


彼女から紡ぎだされる言葉。
それは、今私がもっとも聞きたくない言葉なのだけれど。

確かに彼女がこちらにいたことには驚いたけれど、言われてみれば予想はできた。
彼女がもし、私より早くあの任務を九代目から授かっていたのならば。


「どうした高城」


私と未来との間に流れる緊迫した雰囲気に気付くこともなく、教師はきょとんとした顔で未来を見つめる。
そんな教師の声にはっと我に返った未来は、ぼそぼそと謝罪の言葉を口にしてから席に着く。
その間も、未来からの視線が途切れることはない。
殺気交じりの視線ではなかったけれど、少なくとも歓迎されている視線ではないな。
はぁ、と私は憂鬱なため息をついた。


「北国。お前の席は山本の隣だ。山本、手ぇ挙げてやれ」
「うぃーっす」


黒髪の長身の男がだるそうに手を挙げる。
だが表情は人懐こそうで、私を見てニカリと笑みを浮かべた。


「俺、山本 武っつーんだ。趣味は野球! よろしくな、北国!」
「山本……くん? ごめんね、私イタリアから来てるからいろいろ不慣れなことがあると思うけど、よろしくね」
「え、イタリア? ってことは帰国子女か! 日本語うめーな!」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しい」


ふわりと人受けの良さそうな笑みを浮かべる。
むしろ日本語がうまくないとか言われたら心底ダメージを受けるところだった。
あの手紙を受けてから日本に来るまでの一か月間、ずっと九代目の幹部らと日本語の勉強をしていた。
彼らが日本語を知っているのには驚きだったけど、何より日本語の授業はとても厳しかった。
さらに言うなら、わざわざボンゴレのもとで言語の勉強だなんて屈辱でしかなかったし。

その苦しみを全部耐えて、今日やっとここに来れたんだ。
今までの努力が全部報われなかったら私、本当に泣くよ。


「んじゃ、HR始めるぞー。連絡事項は特にねぇなー」


出席を取り終えた先生が、クリップボードに目を通しながらやる気のなさそうに答える。
日本人の教師ってみんなこんな感じなのかな?まぁイタリアの教師とか知らないけど。


「あぁ、もうすぐ中間考査だからそろそろ準備しとけよー」


その言葉が聞こえた途端、クラス中からブーイングが聞こえた。
私は首を傾げ、隣の山本くんに向き直る。


「……チュウカンコウサ……って?」
「あー……なんつーんだろうな。でっけーテストみてぇなもんだ!」
「おっきいテスト……?」
「おう! いっぱい問題が出るんだぜ。っつっても、北国は転校してきたばっかだし関係ねぇか」
「……そういうもん?」

日本の学校はよくわからない。
まぁ、イタリアの学校のことも知らないけど。

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