一度目のサヨナラ

未来は不思議だと言っていいほど、ヴァリアーの中で馴染んでいった。
仲間以外、時に仲間すら寄せ付けない孤高のヴァリアーだったが、未来を大して避けることなく受け入れていった。
勿論、家族同然、とまでは行かないが、未来が話しかければ返答くらいはするようになった。


「ベル、少しだけ特訓付き合ってよ」
「あー? ……ししっ、俺に殺されても知らねーよ?」
「確かに僕は皆と比べて弱いけど、そこまで軟じゃないと願いたいなぁ」


そんな会話が為されていくヴァリアー邸。
ここまでになるのにかかった時間は、およそ一週間。
初日は、話しかけても無視されるかどうかだったのがここまで進歩したのなら上出来だと言えるだろう。
酷く傷つくこともなく、「そりゃそうか」と割り切れた未来も未来で、なかなか利口だった。

だがそれもすべて、一通の手紙が届くまで。


「……急遽ボンゴレ9代目のもとへ戻られよ……何コレ」


そう手紙を読み上げた未来に向けられたのは、嫌悪の眼差し。
ボスを氷漬けにされた恨みは今もまだ彼らに深く根付いていて、だからこそ9代目に関わるものすべてが疎ましかった。
そんな視線を受けて、未来は深いため息をつく。

一週間ほどかけて築き上げた絆も、ここまで簡単に脆く崩れてしまうのかと思うとやるせなくなる。
そう思いながら、未来は片手で手紙を封筒ごと握りつぶした。


「……行くの?」
「そりゃあね」


言いながら、未来はテーブルの上に置かれていたマッチに手を伸ばす。
擦れる音が響いて、マッチに火が灯る。
未来はその火を使って、戸惑うことなく手紙を燃やした。

燃えカスが床に落ちていく様を、誰もが無表情で見つめている。
誰も口を開かない。
静寂だけが部屋の中を包んだ。
最初にその静寂を破ったのは、未来だった。


「……行くよ」


問いかけてきた雪に答えると同時に、自分に言い聞かせるように。
未来はもう一度だけ、そう呟いた。
椅子に掛けてあった彼女愛用のジャケットを肩にかける。
ジャケットに腕を通す未来は、いつもの挑戦的な笑みはなくただ無表情だ。

誰も言葉を発さない。
ただ、未来の動向を探るようにじっと未来を見つめるだけだ。
そんな居心地の悪い視線を浴びながらも、未来は何一つ言葉を発することはなく、ましてや少しも動揺することはなかった。

そしてジャケットを着終わった未来は、改めて幹部らを見る。
スクアーロ、ベルフェゴール、ルッスーリア、レヴィ……そして、ユキ。
築いた絆は、手紙が来た時点でとっくに崩され去ってしまっていた。
もう失うことは何もないと、未来は息を吐く。
そして深く息を吸い込み、彼らを見据えた。


「……僕は9代目の命令には逆らえない」


誰も何も言わない。


「理由は、君らとよく似ていて全然違う」


誰も何も言わない。


「君らにとってボスであったXANXUSがそれほど大切だったように、僕にとっても育て親である9代目がそれほど大切だから」


誰も、何も言わない。

未来はジャケットの裾をはためかせ踵を返す。
向かう先にはヴァリアー邸の玄関がある。

どこか冷静な頭で、雪は考えた。
「そういえば来るときも、未来は何一つ手荷物を持ってこなかったな」と。


「もしまた出会えるなら、その時はその時で」


振り返らず未来は告げる。
誰も返事をすることはない。
ただ去っていく彼女の背中を、目を細め見つめていた。


「この二週間近く、すごい楽しかった。ありがとう。もう僕のことは忘れていいよ。じゃあね」


未来の残した言葉は、あまりにも空虚だった。

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