親近感、それと違和感
「ここが資料室。過去の報告書とか歴史書だとかは全部こっちにあるから」
「へぇ、書庫みたいなもん?」
「みたいなもんっていうか、書庫かな。他にも参考文献とかいっぱい置いてあるの」
その部屋の中を一瞥してから、二人は次の部屋へ歩いていく。
ヴァリアーの屋敷は何年もそこにいた雪すら認めるレベルで大きいので、初めての未来には本気で案内が必要なのだ。
とはいえ、案内したところでそれらすべてを覚えきれるかどうかが問題でもあるが。
「次の部屋は――……」
雪の指差した先。
異様に豪華で、だけど同時に誰も寄せ付けない雰囲気を醸し出すその扉。
雪の動きが固まり、何も言葉を発さなくなった。
それを訝しく思った未来は首を傾げながら、件の部屋を眺める。
「……この部屋が、どうかしたの?」
「……」
何も言葉を発さない。
ただ、指差していた手をおろし、何も写さない瞳でその部屋を見つめる雪。
まるで何かを訴えかけるような瞳に、未来も思わず黙ってしまう。
長すぎるほどの沈黙のあと、ようやく彼女は言葉を発した。
「……ここ……ボスの部屋だったの」
「……だった……?」
過去形だということが気になり、未来は眉根を寄せながら聞き返す。
それを聞き返されてしまった雪は、ただ唇を噤む。
そして今一度息を吐いて、再び口を開いた。
「……今は、氷の中に閉じ込められてる。ボンゴレノーノ(9代目)のせいで」
「……ノーノが? ……あの人がそんなこと、するの?」
9代目は、未来にとって命の恩人も同様だった。
帰る場所もなく、ただひたすら歩くしか出来なかった未来に、生きる理由を与えた。
だからこそ、9代目がそんなことをするだなんて信じられなかったのだろう。
それが、雪の地雷を踏む。
キッと未来を睨み、雪は歯を噛みしめた。
何も知らない余所者に、父親同前のボスの敵である9代目の肩を持たれては不快なのだろう。
「あの人は私達の敵だよ……! 絶対に信用しない……絶対に……!」
「……わ、分かったから落ち着きなよ。確かに僕も、ノーノのことはあまり知らない。彼の裏の姿も僕は、見たことないんだし」
「……ボス……XANXUSは私に家を与えてくれたの……家族をくれたんだ……それなのに、ノーノがッ……!」
恨みと殺意に満ちている雪の瞳を見て、未来は押し黙る。
彼女の勢いに気圧されたのもあるが、何よりも瞬時に理解したのだろう。
彼女は、自分と同じであると。
孤独だった自分と同じで、家を与えられた時はきっとさぞ嬉しかったんだろうな、と未来は目を閉じる。
思い出してしまう。
9代目に拾われた、あの日のことを。
「……侮辱して悪かったよ。何も知らなかったんだ、僕は。さぁ、引き続き案内してくれる?」
「……うん」
少しだけ機嫌の直ったらしい雪は、再び歩き続けた。
「ボスの部屋は勝手に入っちゃだめだよ」という一言を残して、次の部屋に移動していく。
そこからはどうやらヴァリアー主要メンバーの部屋らしくて、順に紹介されていった。
どうやら未来専用の部屋もあるらしい。
それに舞い上がる未来は、やはり子供っぽい節が見られる。
「うん、大体暗記したよ。ごめんね忙しいのに」
「平気。今日の訓練はキャンセルになったし」
「訓練? 実践とかの訓練?」
「うん。スクアーロとかに、毎日扱かれてるんだ。ちょっと大変かも」
へぇ、と未来は相槌を打つ。
来たばかりの未来にはまだ誰が誰だか分からないが、確かスクアーロという人物は長く美しい銀髪の男だと印象に残っていた。
あの男はそんなに強いのだろうかと首を傾げる。
好戦的なのは、今も昔も変わらないことだ。
「じゃあ雪って結構強い?」
「毎日死にかけてるからね……ちょっとやそっとじゃ負けないかな」
「へぇ、強そう!」
そんな他愛のない話をしてから、二人はようやく案内を終えた。
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