秋
「スリザリンは嫌、スリザリンは嫌!」
私は手を組み、願う。しかし上手くいかないのが世の常だ。弱冠11歳にして、私は努力ではどうにもならないことを知った。
「スリザリン!!!!」
私が生をうけたブロウズ家は、没落した純血の家系の一つだった。家が傾いて行くことに絶望した母は毎日のようにヒステリックに叫び、父はそんな母をいないものとして扱う。純血の貴族とは名ばかりの最低の家だ。しかも貴族の家の噂というのは回るのが早い。ブロウズ家が落ちぶれた不吉な家、あのお方にも見捨てられた家という烙印を押されるのも早かった。ダンブルドア派にも入れず、ヴォルデモート派にも入れない。そんな家で生まれ育った私がスリザリンに馴染めなかったのは、当然のこと。1ヶ月も経つと同級生には無視か嫌味を、上級生からは直接的な暴力を受けた。私は身を守るために、勉強に励むしかなかった。スリザリンは実力のあるものを認める。私の存在を周りに認めてもらおうと必死になった。
「スラグホーン先生、質問が」
「あぁブロウズくん、座って少し待っておくれ。エバンスくんの質問が終わってから聞くからも」
「はい」
リリー・エバンス。名前だけは聞いたことがあった。赤髪の綺麗な少女。赤と金のネクタイが似合う彼女は、あの悪戯仕掛け人とも対等だという。彼女みたいに私も勇敢さに溢れていたら私はこんな風にならなかったのか。そんな夢見事を考えながら、質問をもう少しまとめようと羊皮紙を取り出して勉強にかかった。
「あなたすごいわね!」
急に赤髪が視界に入る。彼女はスリザリンである私に何も臆さず話しかけてきたのだ。逆に私は急に話しかけてきた彼女にびっくりする。思わず落としてしまった羽ペンを彼女はごめんなさいと拾ってくれた。
「えっあのこちらこそすいませんエバンス先輩」
「あなたアリアよね!スリザリンにすごい1年生がいるって先生方の評判になってたわよ」
「先輩こそ、すごいっていっぱいききます」
スラスラと話す彼女に反して私は段々と小さくなっていく。彼女ほど私は活発でないのだ。むしろ陰険な方だ。コミュ力のかけらもない。しどろもどろに言葉を返して行くが、失礼がないか心配になって行く。そんな私が恐る恐るスラグホーン先生について聞くが、いなくなっちゃったという言葉をいただいた。先生がいないのならしょうがない。勉強道具をしまい、立ち上がろうとした私に先輩は待ったをかける。
「私でいいなら答えるわよって思ったけどこれは私にも分からないわ....そうだ!助っ人呼んでくるわね」
「えっちょっと先輩...」
私がスラグホーン先生に聞こうとした内容は5年生の内容だ。自分で言うのもなんだが、友だちがいない私は勉強しかすることがない。気づいたら私はほとんどの教科で3年生以上の内容を理解していた。特に魔法薬学に関しては5年生の勉強も手につけはじめていたのだ。しかし4年生である流石のエバンス先輩も5年生の内容は分からなかったらしい。扉から出て行く先輩のローブを見て、私は大きくため息をついた。グリフィンドールの人を連れてきたらどうしよう。絶対にスリザリンの私を見て嫌な顔をするに違いない。机に顔を伏せ、私はまたため息をつく。
「連れてきたわよ!」
「あっ!」
エバンス先輩が連れてきたのはまさかのスリザリンの生徒だった。私にも積極的に話しかけてきたエバンス先輩にスリザリンの友だちがいるというのはあんまりおかしいことではないけれど、それがスネイプ先輩ということに驚く。彼はスリザリンでも浮いている存在なのだが、有能な魔法使いなため、寮内でも一目置かれている。私が精一杯勉強しているのは、彼ほどに勉強ができれば、きっと今の状況からは抜けられると思ったからである。彼は私の憧れであった。
「この子に勉強教えてあげて、同じスリザリンでしょう」
「君が教えればいいじゃないか」
「アリアったら私よりも勉強進んでるのよ」
「だったら僕でなくても」
「魔法薬学って言ったらセブルスでしょ」
「............」
「ねぇセブルスお願いよ」
目の前で言い合う二人になんだか申し訳ない気持ちになっていく。縮こまる私をよそにエバンス先輩はスネイプ先輩を言い負かしていた。エバンス先輩の口車に勝つのは無理だと思う。スネイプ先輩もそう思ったのか、先ほどの私と同じようにため息をつき目の前に座った。
「どこが分からないんだ」
「ここです」
ニコニコとエバンス先輩が眺めている中、私とスネイプ先輩は気の済むまでずっと魔法薬学について語り合っていた。
それからというもの私はなにかとスネイプ先輩とエバンス先輩にお世話になった。二人とも私が上級生にいじめられていたら間に入ってくれた。一緒に勉強をしたり、お話をしたり、私はすぐにこの優しい二人を大好きになった。
「スネイプ先輩!」
「どうした、ブロウズ」
スネイプ先輩に話しかけていく私にみんな驚いた様子だったけど、それが1週間も続けば嫌な目も少なくなった。私はスネイプ先輩に友だちが少ないことをいいことに、毎日のように食事のたびに彼の横に座った。スネイプ先輩は、ゆっくりと話す私を急かすこともなく、耳を傾けてくれる。
「今日ね同級生におはようって言えたの」
「よく頑張ったな」
「うん、頑張った」
「あとでリリーの元へ行こう。
ハニーデュークスで買ったお菓子をくれるそうだ」
「やった!」