泣き虫と青い鳥 | ナノ
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14 泣き虫と状況打破の可能性



とはいえ、と口を開いたのは、案の定立花くんだ。

「仮に本当に貴方が未来から来たのだとして、どうやったら戻れるかなんて見当もつかぬわけですが」

半信半疑と言った感じで、彼はその色白の顔を傾ける。つられて首を傾げながら、私は眉尻を下げた。そんなこと私にも見当がつかない。

「押入れに入って出てきたら小平太の部屋だったんだっけか」

難しそうな表情の食満くんが、同じく首を傾げながら言った。

「ってことは、押入れに入ったら戻れるんじゃない?」
「それだ」

柔らかいトーンで善法寺くんが発言して、それに食い気味に食満くんが頷く。そんな単純なことだけれど思いつきもしなかった私は「確かに」と目を見開いた。押入れに籠っている間に移動したのなら、押入れに再度籠れば戻れるか、最悪また別のところへ移動できるのではないだろうか。
えー、と声を上げたのは七松くんだ。

「せっかく面白いことになったのに、もう帰るのか」

中在家くんがもそ、と何かを言いながら七松くんの袖を引く。何と言ったのかは聞こえなかったけれど、恐らく諫めてくれたのだと思う。私は苦笑した。

「あの、着替えてすぐですけど、早速チャレンジしてみても良いでしょうか…!」

帯の下の布をぎゅっと掴んで声を上げると、潮江くんと七松くん以外の4名はすぐ頷いてくれた。我々も行こう、と立花くんが言ってくれ、口を尖らせている七松くんを中在家くんが引っ張り、先程よりも更に怖い顔になった潮江くんが最後尾からついてくる形になった。

「持ってきた荷物はそれだけか?」

部屋まで案内してくれる中在家くん(と引っ張られている七松くん)の後ろを歩きながら、横に並んだ食満くんが私の手元を見下ろした。頷く私の腕には、着替え終わったセーラー服と、ラベンダー色のタオルケットが抱えられている。時折カシャカシャと軽い音を立てるそうめん入りのビニール袋は、手首から提げていた。

「自分の部屋に帰ってきたばかりだったから、本当に何にも持ってなかったので」

言いながら、私は苦笑した。まだたった24時間も経っていないくらい、ほんの少し前の出来事。本当だったら、今日は夏休み初日で、ちょっと寝過ごしてからのんびり一日を始めようと思っていたのに。
けれども今日が夏休み初日だったからこそ、私の不在に気付いている人が誰もいないだろうというところは不幸中の幸いだったかもしれない。

「早く帰らないと、ご両親は心配しているだろうね」

善法寺くんが食満くんの横から覗き込むようにして私を見た。私は首を振る。

「両親は弟を連れて外国へ行ってしまっているから、私がいないことに気付いていないと思います」
「ガイコク?」
「えーと、海外。日本じゃなくて、海の外の…」
「もしかして南蛮かい?」
「あー…厳密に言えば行っている国は違うんですが、似たようなものですね」

何度か廊下を曲がりながら、迷いなく歩いていく立花くんを追いかけて私は首を傾ける。
南蛮というのは、イメージではポルトガルとかその辺りだけれど、この使われ方だとこの人達は外国=南蛮だと思っているっぽい。肯定して良いのかどうか迷うところではあるけれど、ここで肯定しても否定しても、その真偽をこの人達が知ることはないのだろう。

「それは仕事で?」
「そうですね。父の仕事の関係で」
「南蛮を相手取っての仕事だなんて、しんべえのお父上みたいだねえ」

初めて聞く名前が出てきた。
しんべえ、と反芻すると、後ろから「容易く別の人間の名を出すな」と鋭い叱責が入った。びくりと肩を震わせて振り返った先には、案の定怖い顔をした潮江くんがいた。同じく振り返った善法寺くんが、「そうだね。すまない」と困ったような笑顔を浮かべる。
余所者に、しかもスパイの疑いがかかっている者に、情報を渡すな、ということなのだ。怒られた理由をすぐにそう察したけれど、私は身を小さくする以外になかった。そうだね、と善法寺くんが同意したということは、こうして優しく話しかけてくれている彼でさえ、そう疑っているということだ。それは、何だかひどく悲しい事実のように思えた。




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