俺はお前で、 | ナノ

お前は君と、 最終話
(22/23) 

それから友哉は結構な間入院した。もうそろそろ冬休みである。
期間で言うと二週間から三週間ぐらい。
思っていた以上に重傷だったらしい。

その間毎日の様にテニス部の奴らが見舞いに来た。


「今日はのぉ、赤也がまた綺麗に引っかかってくれたんじゃ。」
「なんだよ、また赤也かよ。真田とか柳生とかにもかけてみようぜ。」
「無理言いなさんな。ばれた時俺が損するだけじゃ。」

どんなペテンをどんな奴にかけたかと嬉々として語ってくる奴とか、


「おう!守本!!今日もお菓子持って来てやったぜ!そこのケーキ屋のガトーショコラとモンブランとショートケーキとか!」
「おー、サンキュ。」
「………。」
「…………。」
「…なぁ。」
「食いたきゃ食えよ…。」
「おおお!サンキュ!!」

お菓子を持ってきた癖に自分で全部食べちまう奴とか、


「よ、元気してっか?」
「まぁまぁだな。検温に来てくれた看護師がめっちゃ美人だった!」
「ハハ、それはよかったな。さっさと元気になって学校来いよ。また一緒に昼飯食おうぜ。」
「そん時はまた奢ってくれよ。」
「ハハハバーカ、自分で買ってくれ。」

立海スペシャルは持って来れないからと立海饅頭を毎回毎回持って来てくれる奴とか、


「舎弟にして下さいっす!」
「アホか、バカか。嫌だっつってんだろ。今回の事でこりごりだっつーの。」
「そんなこと言わずにお願いしますよー。」
「……あ、そう言えばこの前発売されたって言うゲーム、買ったのか?」
「はいっす!いやー、あのゲームは俺としてはいまいちっすねー。」

舎弟にして下さいが第一声で最終的にはゲームの話で盛り上がって話を逸らされる奴とか、


「守本、調子はどうだ?」
「それなりに、」
「そうか、それはよかった。で、俺が前回やっておくように言った問題、解いてみたか?」
「……ぅん?ヤッテミタヨ。」
「どれ…これは酷い……赤也と同レベルだな…。」
「え、何それ嫌だ。」

たまに勉強を教えてくれるが間違えたら開眼してくる奴とか、

「おや?守本君、生え際が少々黒くなっているようですが。」
「その黒が地毛ではないのか?」
「ん?あぁ、やっぱ入院中はブリーチ出来ねぇしなぁ…。」
「そうですか…。」
「あ?んだよ、その顔は…。」
「いえ、別に大した理由ではありませんよ。」
「そうだ。毎回染めるのも面倒くさいだろう。そのまま黒にしてしまえばどうだ?」
「だが断る!俺のアイデンティティを否定されてたまるか!!」

入院中で髪がプリンになり始めた時、微笑みやがった二人とか、

それから、それから…あれ?もう一人居てもおかしくないのに何故だか来ない。
むしろ会っていない気がする。

そして今日、テニス部が勢ぞろいして友哉の病室に訪れた。
そのやつ以外。

「…なぁ、幸村は?」

友哉のその一言で空気は止まった。
そして一番に動かしたのは柳であった。

「精市は、此処には居る。」

「あぁ、そうなんだ。じゃぁ何で来てねぇの?一番俺の事友達友達っつってたやつは、」

「来ないのではなく来れないと言った方が正しい…精市は…。」

「ここに、入院しとんじゃよ。幸村は、」

「え…?なんで、」

「幸村は…倒れたのだ。いきなり、目の前で…それから、この病院に運ばれて、今は…入院中なんだ。」

「私達は今日、皆でお見舞いに来たのですよ。幸村君の…しかし……。」

「すれちゃっててさー。俺らの事速攻で帰しやがったの。な、ジャッカル。」

「あぁ…。」

「へぇ……そっか、そっか…おい、ちょっと俺を幸村の病室まで連れて行けよ。」

「なんでじゃ?」

「いいから、連れて行きやがれ。」

友哉はなにか企むような顔をして連れて行けと命令した。
少し躊躇していたメンバーだったが、友哉が自ら幸村に会いに行くと言うのが珍しかったため連れて行った。

「幸村、再び失礼する。」

真田が扉を開け、その向こうには笑顔の無くなった幸村の姿があった。

「…何?また来たの?そう、だったら帰って。」

「む、俺達は…。」

「俺をここまで運んできてくれたんだよ。」

友哉を支えていた仁王と、柳、その二人が友哉を幸村のベッドの横にあった椅子に座らせた。

「!?友哉…。」

「久しぶりだなぁ、幸村ぁ…。」

「守本、これで俺達は失礼する。」

「おう、サンキュな。」

友哉に一言退室することを述べたメンバーはそのまま幸村の病室から出て行った。

それから二人だけになった病室に数分間の沈黙が訪れた。
その沈黙を破ったのは、友哉。

「……なんだよ、昼間っからパジャマ何て着て、ダッセェの。寝坊か?ププププ!
辛気臭ぇ顔すんなって、テメェは絶対零度の笑顔振り撒いてイップスの種ばら撒くのが好きなんだろ?」

「ッ…友哉、なんなの!?君、どういうつもりだい!?他人の不幸は蜜の味って言いたいのか!俺をそんなにバカにして楽しいのか!!病人をバカにして、…!!!」

「ハァ?今更何言ってんだ?俺は前々からこんなやつで、お前にもこうやって接してきただろう。お前がどんな状態だろうと俺は普通に接するぜ?」

「だからって!!」


「だって俺とお前、友達なんだろ?友達はどんなときだって普通に接するもんなんだろ?」


「ッ!?……………。」

「俺、もうすぐ退院なんだってよ。
だけど、お見舞い来てやるよ。それからお前の代わりに、外を見てそれを伝えに来てやるよ。
あ、勉強の方は勘弁な。」

「フ…フフフフ、それは頼もしいな。」

「俺はいつだって頼もしいぜ?」

「出来れば毎日来てほしいなぁ。」

「それは無理だって、でも週に数回は来てやるよ。」

「週に一回じゃないんだ。暇人だね。」

「うるせー。」

「でも…嬉しいな。
友哉がこうやって俺の事を友達って言ってくれるの。」

「あぁ、まぁ…気まぐれだ。」

「へぇ、でも…ありがとう。友哉。」


「こっちこそありがとうだ。」


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