仕返しはきれいに瓶詰めして

「うふふ」

今日こそはクラッカー兄様に仕返しをしてやるわ。クラッカー兄様、いっつもわたしのおやつをつまみ食いするんだから!いつもいつもやめてって言ってるのに、兄様はケタケタ笑ってちっともやめてくれない。それにわたしと比べて兄様の口はとっても大きいのに、遠慮なしにがぶりとやっていくもんだから腹が立つ!昨日はチェリーパイが半分、一昨日はタルトタタンを半分、その前はシュークリームをまるまるひとつ!思い出してまたいらいらしたけど、でも今日は仕返しをするの。きっととってもすっきりすること間違いなし!兄様の顔を想像しただけでにやにやしちゃう。腕の中のビンには、わたしにはちょっと大きいくらいのまんまるキャンディが詰まっている。見ているだけで幸せになるようなかわいいピンク色だし、においも嗅いだだけで涎が出ちゃうほどすてき!それも当然、だってペロスペロー兄様にお願いして特別に作ってもらったんだもん。こっそり工夫をお願いしたら驚いていたけど、クラッカー兄様のわるさの話をしたらほどほどにしてあげるんだよって笑ってた。大丈夫、きっとクラッカー兄様はふたつめを口に入れることなんてできないから!

「ふふふふふ!」
「なんだ、今日はやけに上機嫌だなァナマエ」
「あ、クラッカー兄様」

わたしはわざとらしく体をかがめて、ビンを隠してみせる。にやにや笑いも今だけはガマンよ。せっかく兄様のために、兄様のためだけに作ってもらったのに怪しまれちゃいけないもの。兄様は嫌がるわたしの様子にいっそう笑みを深くして、わたしの手から簡単にビンを奪ってしまう。ホントいじわるな兄様よね!でも今日だけは計算の内。

「返してよ!」
「ふぅん、今日はキャンディか。これだけありゃァ少しくらいいいだろう」

兄様がキャンディをひとつつまみあげて、わたしの目の前で口に運ぶ。そこでわたしはガマンできなくなって大きな声で笑った。

「ンン!?」
「ふっはははは!吐き出しちゃダメよクラッカー兄様!ペロスペロー兄様の作ったキャンディなんだから!」
「ンッン、ムグゥ!」

ペロスペロー兄様という言葉に、クラッカー兄様の肩がビクリと跳ねる。流石の兄様もペロスペロー兄様の作ったキャンディを吐き捨てようとはしない。それが例え炭酸入りのパチパチキャンディーだとしてもね!それも大きめにしてもらったから、しばらくは口の中でパチパチに苦しめられるに違いない!

「特別に作ってもらったの!兄様、炭酸がパチパチするの痛くて嫌いでしょ?」
「ンン、ン、ン!!」
「うふふふふふ!わたしのお菓子を勝手に食べるからそうなるのよ!ふふふふ!」

涙目になって口を押える兄様がなんだか訴えてくるが、残念だけどちっともわからない!わたしは笑いすぎて涙目になりながら、かわいそうでかわいい兄様の頭を妹や弟にするように撫でてあげた。睨まれてもこれっぽっちも怖くないわ!うぐうぐ唸りながら必死にキャンディを融かす兄様ったら本当にかわいそうで、わたしはこれまでの兄様の悪行をちょっとだけ許してあげる気になった。それより兄様の嫌がる顔がもっと見たいなって思ったから、わたしと兄様はちょっと似てるのかもしれない。やっと噛めるくらいの大きさになったキャンディをガリガリ噛み砕いた兄様がものすごい顔で見てくるけど、それもちっとも怖くない。

「…ハァ、まさか可愛い妹にこんなひどいことをされるとは!」
「え…そんなに痛かった?舌、けがしちゃった?」

素直にべっと舌を出して見せてきた兄様の口に、もうひとつキャンディを放り込む。そのときの兄様の顔ったら!

「うふふふふふふ!兄様、おいしー?」
「ンンンンン!!!」

そのあとビスケットの箱に閉じ込められたけど、兄様の顔を思い出したら愉快で時間なんてすぐに経っちゃったもんね!



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