ST!×1.5 | ナノ




 ――あいつ、一人で大丈夫なのか?

 アトラクションの仕様上、別れてしまったユウキを思い出して静雄はそう疑問に思っていた。
 ホラー系は大丈夫だと言っていたが、やはり体調のことが気にかかる。昼食はありったけの量を詰め込ませたが、出来るだけ早く合流した方が良いかもしれない。
 そう考えながら、懐中電灯の明かりを頼りに黙々と先へ進んでいく。

 すると不意に何かを蹴り飛ばしたような音が聞こえ、首を傾げて明かりを向けた。
 そこには妙に生々しくリアルな生首が転がっていたが、静雄はびくりともせずに足を進める。

 ――でも、躓いて転んだら危ねえな……あれ。

 そう考えてわざわざ一度戻り、生首を廊下の脇へ寄せてから再び歩き始めた。
 
 その後幸運にも徘徊するお化けに遭遇することなく五分を迎えた静雄は、渡されていたタブレットに灯りが灯ったことへ気づく。
 何かと確認してみると、この病院内の地図のようだった。そして『現在地』と『仲間』という二つの点が点滅し、再度電源が消える。


「……あ?」


 あまりにも短い点灯時間に、思わずそう眉を潜めた。


 ♀♂  


「じゃあ、私はこっちの階段から行きます。よろしくお願いしますっ」
「わかった」


 そう頷いて、ニット帽の人は廊下を走って行った。
 私もすぐさま階段を駆け下り、平和島さんがいたと思われる点滅ポイントへ急いで向かう。

 一人では行き違いのこともあって不安だっただろうけれど、なんという幸運か。
 親切な人が一緒に探してくれると言ってくれたのだ。これなら二つ考えられる移動ルートを、どちらも辿ることができる。

 そこまで詳細な話をしていないにも関わらず、まるで平和島さんのことを知っているかのような素早い判断をしてくれたあの人。
 本当に、なんて良い人だろう。

 そう一種感動しながら、飛び出てきた医者風ゾンビや首のない患者服の群れ、落ちている血みどろギミックを通り過ぎる。

 ここまで順調だった(ことにしよう)時間を、お化け屋敷の倒壊なんかに邪魔されてたまるものか。
 それを思えばお化けに反応している時間すら惜しい。そう、私は必死に走った。

 何十体のおどろおどろしいお化けとすれ違い、ようやく目的地へと辿りつく。
 あの点滅は確かにここで止まっていた。あのヒントを見てくれていたなら、ここで待ってくれているか、私のいた場所へと向かったはずだ。
 しかし、いざ辿りついてみると誰もいない。あの親切な人が辿ったルートを移動中、とか?

 それでも、見つけた場合はここで集合ということになっている。
 しばらく暗がりの中で待ちぼうけていると、誰かが階段を駆け下りてくる音が聞こえた。

 慌ててその方向へ懐中電灯を向けると、例の親切なニット帽の人だった。


「見つかったか?」
「いえ、見つかってません。ということは、そっちにも……」 
「ああ、見当たらなかった」
「……え」


 なんだそれは。
 

「も、もしかして、ヒントを見ていなかったんでしょうか」 
「かもしれねえ」


 考えるようにそう口を閉じたニット帽の人。
 ああでも、どうしよう。私がいて解決する問題ではないかもしれないけれど、お化け役の人がなにかの拍子にやらかしてしまったらどうしよう。
 少なくともフォローぐらいはできると思うのだけど、とにかく平和島さんと合流しないことには……。

 そう混乱しかけていると、「そうだな」とふと思いついたように声を上げた。


「確信はないんだが、下の階に行ったかもしんねえな」
「それは、どうして」
  

 この建物は三階建てで、私のスタート地点は三階。平和島さんがいたらしいのは二階。
 そして今私たちは二階にいる。もしヒント見て移動するなら、行動範囲は二階か三階のはずだ。


「いや、あの地図。目印になる様な名称もなんもなかっただろ。そうなると、上下逆さまでもわかんねえから」
「あ、だから、三階と一階を見間違えたかもしれないってことですか」


 なるほど、と思わず手を叩く。
 

「本気で見てなかったならお手上げだけどな」
「とにかく行ってみますっ」


 ♀♂


 一瞬だけのヒントを確認し、とりあえずそれが一階だということだけを読み取った静雄は、あからさま不機嫌な面持ちで廊下を進んでいた。
 わかりづらい地図や視界の悪さ、いつまで経っても合流できないもどかしさによるものだったが。
 あまりにも殺気立ち始めていたために、お化け役たちも迂闊に近寄れないでいた。
 それ考えれば、二次被害は防げているのかもしれない。

 ――おまけに足元悪すぎねえか……?

 演出なのかやたらと物が落ちている。
 コーヒーカップの出来事から、なんとなくユウキが躓きそうに思えてならない。
 確か足の出ている服装だったことを思うと、転べばひどく痛そうだ。

 最早なんの心配をしているのかわからなくなっていたが、そんな時。
 ふと廊下の先から誰かの走ってくる音が聞こえてきた。

 誰かと怪訝に思って明かりを先に向けると、同じように懐中電灯を持ったユウキが安心しきった表情で駆け寄ってくるところだった。


「平和島さんっ」 


 懐中電灯を遠慮なく振り回して走っているため、自己主張が凄まじいことになっている。
 というのはともかくとして、どことなく飼い主の下へ駆け寄る犬のような雰囲気を纏っていた。


「よかった、このまま見つからなかったらどうしようかと……」


 傍に立ち止ったユウキは、そうほっと胸をなでおろす。

 ――そんなに怖かったのか。

 あまりの安心っぷりにそう考え、静雄は「ほら」と午前中と同じように手を差し出す。
 対するユウキは「え」と動作を止めた。


「俺から見つけられなくて悪かった。手ぇ掴んどけば大丈夫か?」
「え、ええ、と」


 なぜか視線を泳がせて周囲を見渡したユウキは、ふと思い出したように「あれ」と声を上げる。


「どうした」
「いえ、平和島さん探しを手伝ってくれた人がいたんですが……はぐれたんでしょうか」


 お礼を言いたかったのに。

 そう残念そうに言うユウキに、どれだけ一人の移動が恐かったのかと再度考える。


「それなら、出口で会えるんじゃねえか?」
「そうだといいんですけ、ど――」


 それなら早く移動しようと、静雄はさっさとユウキの手を取って歩きはじめる。
 そして背後で唖然としている彼女には、まったく気が付いていなかった。



 ♀♂



「あ! ドタチンみっけ!」
「探したっすよ、門田さん」


 邪魔をするのも無粋だと判断した門田は、ユウキと別行動をとっていた時に確認したヒントを辿り、狩沢や遊馬崎と合流していた。
 思っていたとおりまったく怖がる素振りのない二人に、「おう」と声をかける。


「それでそれで、シズちゃんたち見つけた?」
「こっちは影も見つけられなかったっす」


 成果を期待する狩沢たちに対し、門田は一言だけ口にした。


「割とわかってるやつだった」
「なにそれどういう意味!?」
「まさか会ったんすか?」
「もういいだろ、そろそろ帰んぞ。夕方から仕事入ってんだよ」



 (いろんな意味でドキドキ)



 させられます


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