(その大きな手は好き)


学校が終わりそのまま、今どき1日4時間だけのバイトへと直行する。
なぜ4時間なのかというと、その時間になるとてっちゃんたちの部活が終わることとちょうどリンクしているからだ。
高校に入っても部活をやる気がなかった私はせめてもとお母さんにバイトをしたいと願うと毎回てっちゃんたちと一緒に帰るなら許してあげると言われ、初めはその気は無かったのだがてっちゃんたちにバイトをするとバレたときにてっちゃん自身から迎えに行くまで1人で帰るなと言い出したのだ。
なんとも過保護だと研磨に文句を言うと研磨も1人で帰ってはいけないと言われて、もう反論できなくなった。

そんなこんなでそのバイトも終わり裏口から出るとそこには既にてっちゃんと研磨がいた。
待たせたと思い携帯でゲームをしている研磨と壁を背もたれにして立っているてっちゃんの元へ駆け寄ると、それに気づいたてっちゃんが笑った。

『ごめん…』
「いや。たまたま練習が早く終わったのと、研磨がなまえのオムライスが食べたいってうるさかったから切り上げてきた」
『オムライス?』
「…無性に食べたくなった」
『いいけど、ライスの具材あったかな…』
「どっか買いに寄るか?」
『そうだね。研磨行くよー』
「…ん」

この時間まで開いているスーパーに向かう。
いつも帰りに寄っては晩ご飯も材料を買って帰ることが多い。
今日は話の流れ的にてっちゃんも研磨もうちで食べるみたいだな。
私の家には基本お母さんはいないと黒尾家にも孤爪家にも認識されていて、今日みたいに私が家で作って3人で食べるか、どちらかの家で3人揃って食べるかのどれかだ。
大体決定権は研磨にあって、そのときの研磨の気分で変わる。
いろいろと必要なものをスーパーで買い、2つの買い物袋を何故か自然と1つずつ持つてっちゃんと研磨に笑みを浮かべて帰宅した。

普段ならあまり感じることはないが、平均身長を軽く越えた人が1人入るだけで見慣れた家の中が狭く感じるのは気のせいだろうかと最近密かに思っている。
買ってきたものを袋から冷蔵庫へと移しているとてっちゃんが私の足元に置いていたもうひとつの袋から中身を取り出して冷蔵庫へと移したり棚に置いたりしていく。

「なまえー。これはここでいいのか?」
『うん。ありがと』

てっちゃんも研磨も私の家のどこに何があるのかを把握していて、2人とも第2の自宅のように寛いでいる。
まぁ私からすればその方が気楽でいれると言われているようで嬉しかったりするのだが。
晩ご飯の用意を手伝ってくれるてっちゃんと、いつも通り小さ目のソファーで寛いでゲームをする研磨。
前に研磨も手伝おうとしてくれたのだが、あまりの危なっかしさにてっちゃんと声そろえて座っていろ!と叫んだのはいつだっただろうと思うほど前の話だ。
ご飯を食べたあとはいつも研磨とのんびりゲームタイム。
結構ゲームをする方で一緒になってやっているとてっちゃんが拗ねてしまうときがあるほど夢中になるときがある。
最近はてっちゃんの膝の間にてっちゃんを背もたれにして座るのが定番となりつつある。
ちなみにてっちゃんは月刊バレー雑誌を読んでいる。

「…なまえ。寝るならベッドに行けよ」
『んー…。まだ寝ない…』
「さっきから頭揺れてるぞ」
「…クロ」
「なんだ、研磨」
「…帰るのめんどくさい…」
「お前もか…。つかなまえ寝るなって。先に風呂入って来い」
『…入ってくる』
「おう。研磨もなまえが上がったら借りろよ」
「うん…」

てっちゃんと研磨の会話を背中越しに聞きながらカラスの行水みたくお風呂に入り、それと交代するようにてっちゃんと入れ替わった。
先ほどと変わらない定位置のソファーに半ば寝転ぶような形で座っている研磨に話しかけた。

『あれ…。てっちゃんが先に入るの?』
「うん。今ちょうどいい所だから」
『なるほど』
「洗濯するよね…?」
『うん。てっちゃんと研磨の分のYシャツと練習着も洗わないといけないし。下着とかは置いてあったよね?』
「うん。クロもオレも脱衣所のボックスに置いてある」
『なら大丈夫だね』
「確かスウェットも置いてある」
『それは知らない…。いつの間に置いてたの』
「忘れた。1セット置いてたら便利かなって思って」
『そっか。まぁいいけどね』

そんなことを話しているとてっちゃんが上がってきた。
研磨が言っていたようにてっちゃんもスウェット姿で上がってきたから、きっとてっちゃん&研磨用のボックスにいれていたのだろう。
いつも思うけどやっぱりお風呂に入った後のてっちゃんは別人みたいで、この姿はかっこいいと思うけど学校の女子軍団はこんなてっちゃんの姿は知るはずも無く…。
だから余計にてっちゃんがモテている理由がよく分からなかったりするというのは本人には内緒だ。
っと言ってもバレていそうだけど。

「研磨。それ止めて入って来い」
「うん」
「あとなまえはちゃんと髪乾かせ」
『めんどくさい…』

こういうときのてっちゃんは何だか面倒見のいいお兄ちゃんみたい。
現代っ子というワードで括られている私と研磨とずっといたからてっちゃんは面倒見がよくなったんじゃないかと密かにバレー部で言われていたのを聞いたことがある。
当の本人はそんなつもりはないらしいが。

「ったく、やってやるから来い」
『ん…』

ゲームをしていたときと同じようにてっちゃんの膝の間に座るとドライヤーを当てて髪を乾かしてくれる。
何気にてっちゃんの大きな手が好きで、その手で触れられるとすごく安心する。
だから実はというとてっちゃんに髪の毛を乾かしてもらうのが好きだったりもする。

そして、正直に言うともうこの時点でなかなかの睡魔に襲われていた。
それに加えてっちゃんの大きな手が頭を撫でるように優しく触れている感覚がとても気持ちよくて、もう寝ろと言われているようなものだ。
何となく視界に研磨が入ってあぁ上がったんだなと思いつつ、気づいたら私の意識は飛んでいた。

(なまえ終わっ…ったく寝てんのかよ…)
(あれ、なまえ寝たの)
(ついさっきな。…おやすみ、なまえ)
(なまえ、おやすみ…)


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