(大きくなりつつある存在)


お昼休み。
監督から今日の練習メニューを頂いてから、バスケ部スタメン3年生メンバーがいるであろう屋上に足を進めた。
少し錆びた重たい扉を押して開ける。
キィー…と不気味な音に反応した彼らはこちらを向いた。
そして、彼らと同じように座っていた人物に目を開いた。

「あ、なまえっ!」
『双子姉…?』

ドクンッと大きく脈打つ。
全身から嫌な汗が流れていく感じがした。

「ここにいたら来ると思ってたの!」
『そ、そう…』
「大坪くんも木村くんも宮地くんも話したらとても面白いね!」
『そっか。なら、よかったじゃない』
「うん!気軽に話せる男友達ができた感じっ」
『あのさ、双子姉…』
「ん?」
『こういうの…』

私の声を遮って後ろからルーキーたちの声が響いた。

「あぁーー!!やっぱ先に食べてる!!」
「うっせぇぞ!轢くぞ!」
「なまえサンもいるじゃないっすか!」
『うん。さっき来たところだよ。大坪くんちょっといい?』
「ん?あぁ」

優しい彼は文句1つ零さずにその場を立った。
そんな彼を見て扉の裏に移動する。

『これ今日のメニューです』
「いつも悪いな」
『いえいえ。個人練習のメニューはまだちょっとできてないんだ…』
「構わない。それは休憩時間にでももらうとしよう」
『ごめんね、ありがとう。じゃあね』
「?食べないのか?」
『友達と約束してて…』
「そうか。引き止めて悪かったな」
『ううん!また後でね』
「あぁ」

そのまま目の前の階段を降りていく。
私は逃げたんだ。
大好きな仲間たちが姉といるところを直面して逃げた。
あぁ、やっぱりみんなもあっちを選ぶんだ…。

**********

輪から抜けた大坪が1人で帰ってきた。
…1人……?

「大坪」
「ん?どうした宮地?」
「あいつは?」
「みょうじか?友達と約束していたらしいぞ」
「…あー…。わりぃ俺あいつに用あんだよ。て、ことで行ってくるわ」
「あ、あぁ?」
「(ブフォッ!素直じゃねーなぁ宮地サン)」
「(心配なのがバレバレなのだよ)」

あいつにもらった弁当を手に、先に階段を降りているだろうなまえを追いかけた。
それほど急いだわけではなかったが、思っていた以上に早く追いついてしまった。

「…おい」
『?宮地くん?どうしたの?』
「別に大したことじゃねーけど…」
『?』

意味がわからないと言った感じで、目の前のやつは首を傾げた。
そんなこいつの反応になんて鈍感なんだろうと思った。
いや、鈍感だと思い知らされたと言った方が正しいだろうか。

「どうせ友達と約束なんかしてねーんだろ」
『そ、そんなこと…』
「ま、どっちでもいいけどな。行くぞ」
『え?ちょっと行くってどこに?!ってかお昼ご飯は?!』
「うるせー。黙ってついて来ねぇと轢くぞ」
『意味わかんないしっ!』

文句をいいながらもついてくるなまえ。
鞄を持ってるし、教室に行く必要はないだろう。
旧校舎の2階の奥の教室。
そこは誰も使うことのない空き教室。
お昼には屋上といい勝負をするぐらいの穴場だ。
たまにテスト勉強をしたりするのにこっそりと使っている。

『こんな場所あったんだ』
「穴場だろ?」
『うん。日が当たって暖かい』
「だろ?」

先に適当に座るとそれに続いて、なまえは俺の隣に座った。

「あからさまに嫌な顔してたしな」
『え?』
「思いっきり顔に出てた」
『あ、そっか…』
「大坪と木村は気づいてなかったけどな」
『うん…』

俯いてしまったなまえの頭に手を置いた。
そのまま左右にぐしゃぐしゃと頭を撫でる。

『ちょ、ちょっと…!』
「しおらしくなってんじゃねーよ」
『悪かったね…!どうせうるさいですよーだ』
「そこまで言ってねぇだろ」

しょぼくれてると思えばぷんぷんと怒る。
本当に見てて飽きない。

『何か話してたの…?』

吹っ切れたのか鞄から弁当を出して広げだしたなまえ。
俺もそれに続く。

「大したこと話してなかった俺は紙パック飲んでたしよ」
『そっか…』
「メシ食おーぜ」
『うん』

きっと宮地くんは私の気持ちを汲み取って、それで一緒にいてくれるんだろう。
だと思うと宮地くんに悪いことをしたな…。
段々と自分の中の宮地くんの存在が大きくなっている気がする。
やっぱり双子姉に対してだけは平常心ではいられない…。
黙々と手と口だけを動かし、あれこれ考えているところを宮地くんに見られていたなんて全く気づかなかったのだった。


((私は弱いままだ…))
((こいつ、また変なこと考えてんな…))


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