(青とオレンジの空)


地区予選もなんなくクリアしていき、決勝リーグへの出場を決めた。
まぁ当然と言ったら当然かもしれないが…。

『あ、そういえば…。湿布とテーピング切らしてたんだった…』
「どうかしたんスか?」
『涼太。ちょっと備品の整理してたんだけど、湿布とテーピングがなくなってて。それにコールドスプレーもなくなってきてるし…』
「買い出しっスか?」
『うん。笠松先輩見てない?』
「笠松センパイなら、部室にいたっスよ!」
『ありがとう』
「一人で大丈夫っスか?」
『うん。大丈夫。行ってくるねー』
「気を付けて!」

部室にいる笠松先輩に事情を話して、部費を少し持って買い出しに出た。
場所は東京のとある場所。
そういえば、この近くに高校あったんだっけ?

『確かー…』
「あの…!」
『はい?』

学校の名前が思い出せなくて、考え込んでいると後ろから声をかけられた。
ピンクの長い綺麗な髪。
そして、男ならつい二度見するであろう体系。
どこかで見たことあるような…。
どこだっけ…?

「その制服って…。海常高校の人ですか?」
『そうですけど…?』
「あの…。バスケ部の人ですか…?」
『まぁ、はい』

そう答えると、彼女はパァッと表情を明るくした。
なんとも可愛い子だ。
これは絶対にモテるな、うん。
なんて、親父くさいこと思っていると、急に手を掴まれた。

『えっ…?』
「きーちゃん、元気ですか?」
『き…きーちゃん?』
「あ、えっと…。黄瀬くんです」
『あぁ…。元気だけど…?』
「なら良かった!」

涼太のことをきーちゃんって…。
帰ってから言ってみようかな…。

「急にこんなこと聞いてごめんなさい」
『いいえ』
「実はこう見えて帝光中男子バスケ部のマネージャーだったから…」
『そうなんだ!?』

そういえば、昔言ってたな…。
変なあだ名を付けたマネージャーがいるって…。
確か…。

『"桃っち"さん?』
「そ、そうです!もうきーちゃんったら…!」

この子が噂の"桃っち"さん。
情報収集に長けていて、今後のデータも出してしまうという…。

「きーちゃんとは仲いいんですか?」
『仲がいいっていうか、幼なじみなんで…』
「えっ…。じゃあもしかして、"唯一のキセキ"の?」
『あ、はい…』
「もうバスケしてないんですか?」
『怪我しちゃったから…。今は海常高校のマネージャーをしてる』
「一緒ですね」
『桃っちさんも?』
「はい。あ、自己紹介まだでしたよね。桐皇学園1年男子バスケ部マネージャーの桃井さつきです」
『海常高校1年男子バスケ部マネージャーのみょうじなまえです』
「なまえちゃんって呼んでもいい…?」
『もちろん』
「私のことはさつきでいいよ!」
『じゃあ、さつき』
「うん!そういえば、どこかに行こうとしてたんだよね…?」
『あー、買い出しに来たんだ。ちょうど備品切らしてて…』
「偶然!私も買い出しなの!」
『どこに?』
「この近くにあるスポーツ店に行くんだけど…」
『"佐原さん"?』
「そう!」
『私もそこに行くんだ。一緒に行く?』
「いいの?」
『うん!』
「ありがとう!」

まさか、久しぶりの東京で、涼太の同級生に会うとは思ってもいなかった。
それも部活仲間だなんて…。

「そういえば…。海常って、誠凛に練習試合で負けたんですよね…?」
『うん…。残念なことにね』
「あ、ごめんなさい」
『いいの、いいの!おかげでうちもだいぶ変わったから!』
「……やっぱりテツ君に負けて変わったんですね…」
『テツ君って…。黒子くんのこと?』
「うん…。もしきーちゃんが負けて何か変わったんだったら…。うちのバカも変わるんじゃないかと思って…」
『うちのバカ?』
「えっと…。キセキの世代のエースの青峰大輝です。実は桐皇にいて…」
『バスケ部?』
「うん。…でも、練習もまともに参加してくれなくて…。試合も全力でしない…。バスケの楽しさを忘れてしまったみたいで…」
『…涼太も入部したてのときはそうだったよ?』
「そうなの…?」
『うん。でも誠凛に負けてから変わった。誰よりも遅く残るようになったし、それに最近楽しそうにバスケするの』
「っ!」
『だから負けてよかったかなって思ってる』
「……じゃあ、青峰くんも変われるのかな…」
『変わると思うよ!で、またバスケの楽しさを思い出すと思う』
「…そうだよね…!今まで一番近くで見て来たから…」
『その気持ちは分かるよ』
「…昔、一度だけ青峰くんが負けそうになったときがあるの」
『昔?』
「うん。6年生の頃だったかな…?偶然ストリートで会った女の子とワンオンワンをしたら引き分けになった。って言ってた。あのまま続けてたら確実に負けてたって…」
『え…?』
「今でも青峰くんは心のどこかで彼女を探してる。いつもは青峰くんについて行ってたんだけど、その日は特別に行けなくて…」
『(まさか、あの頃の彼は…)』
「名前聞く前に帰っちゃったって言ってた。今もバスケしてるのか。オレの相手になるかって気にしてるみたい」
『………』
「なまえちゃん?」
『…その子の特徴は?』
「特徴?」
『私さ、今はもうやってないけど、中学のときは選手だったし。バスケ部の女子には知り合い多いしさ』
「えっと…。確か、なまえちゃんみたいにオレンジ色の髪の毛で短髪だったって…」
『それだけ?』
「あと、奇妙なこと言ってたって」
『奇妙?』
「止まって見えるって…。何のことか全然分からないんだけどね」
『分かった。探してみるね』
「うん。ありがとう!」

そして、私はさつきと備品を買い、連絡先を交換してそれぞれの学校に戻ったのだった。
学校に戻ると、体育館にはまだレギュラーのメンバーが残っていた。

『今戻りました!』
「おー、おかえり」
「おかえりっス!」
「なまえちゃんがいなかったから、今日のゲーム誰のためにやろうか頭がいっぱいだったよ」
「森山…。ちゃんと集中しろよ!」
『ごめんなさーい。でも、これないとみんなのケアできないので…』
「いいんスかー?備品なくなったらなまえっちからケアしてもらえなくなるんスよー?」
「それは絶体絶命だ!」
「黄瀬!オマエも森山を乗せるな!」
『フフッ』

やっぱり、誠凛との練習試合から彼らは大幅に変わった。
練習試合の前では、涼太が一緒になってバカなことすることなんてなかったのに…。

「おい、みょうじ。今失礼なこと考えてたろ」
『そんなことないですよ?』
「あぁ!笠松センパイ!なまえっちに近づきすぎっス!」
「笠松!いくらオマエでも抜け駆けは許さん!」
「いい加減にしろ、オマエら!!」
「ったく、どうしようもないな」

そう言いながらも、小堀先輩の表情は穏やかだ。
小堀先輩は、例えるなら海常高校の母的存在だ。
笠松先輩はやっぱり父的存在かな?
森山先輩はー…どうしようもないぐらい女好きの長男?
早川先輩は落ち着きのない次男かな…。
涼太は…。

『うん。ペットだね。犬かな?』
「なにが?」

隣で呟いた私に、小堀先輩は不思議そうに聞いてきた。

『いや…。レギュラーのメンバーを家族の立ち位置で考えてたんですけど…。やっぱり小堀先輩はお母さん的存在だと思うんですよね』
「オレが…?」
『はい。だって、いつもみんなを見守ってるって感じだし』
「そうかなー?笠松は?」
『笠松先輩はお父さんです!』
「なにがだ?」

自分の名前を出されて気になったのか、今まで怒鳴っていたのをやめてこっちに来た。

「笠松はレギュラーメンバーの中じゃお父さん的存在だとよ」
「あ?何だ、それ」
「ちなみにオレはお母さんらしい…」
『ぴったりだと思いませんか?』
「あぁ…。それならなんとなく分かる気がする」
『でしょう!?』
「なんで分かるんだよ…」

笠松先輩の予想外な発言に小堀先輩は苦笑していた。

『で、森山先輩は…』
「どーしよーもねぇ女好きの長男だろ」
『あ、やっぱりそうですよね!私もそう思ってました!』
「後輩から、そう思われるってどうなんだ…」
「まぁ仕方ないんじゃないか?森山は」
「早川はどうなんだよ」
『早川先輩は落ち着きのない次男です』
「なるほどな…。じゃあ黄瀬は?」
『涼太はー…』

笠松先輩の質問に、私は一度涼太を見てから答えた。

『ペットです。ちなみにゴールデンレトリバーです』
「犬かよ!」
「しかも、犬種まで…」
『あれ?違いました?』
「違うくはねーが…」
「あ!笠松先輩!ワンオンワンしよーっス!」
『ほら、耳としっぽが…』
「「(確かに犬だな…)」」
「どうかしたんスか?」
「なんでもねー。ワンオンワンするんだろ」
「はいっス!」

先輩がたにとんでもないことを思われているとは、涼太は思ってもいないだろう…。
そして、家に帰って久しぶりに2人で私の部屋でご飯を食べていた。

「久しぶりっスね!」
『そうだねー。最近は外食が多かったし…』
「やっぱなまえっちの手料理が一番っス!」
『おだてても何もでないよー』
「中学の頃は、こんなの全然考えてなかったっスよー」
『あ…』
「どうかしたっスか?」

涼太の言葉で思い出した。
さつきと青峰くんのことを聞こうと思ってたんだった。

『今日ね、買い出し行ったときにさつきに会ったの』
「桃っちに!?ってか、ちゃっかり名前呼び…」
『会ったその日に仲良くなっちゃった』
「さすがっスね…」
『でね、その時に青峰くんの話も聞いたの…』
「!」
『青峰くん。ずっと人探ししてるんだって…。昔一度対戦した女の子を…』
「そ、スか…」
『でね、その子の特徴はオレンジの髪に短髪でね。その子は奇妙なことを言ってたんだって』
「奇妙なこと…?
『そう…。"止まって見える"って…』
「!…そうだったんスか…」
『その子に会ったのは彼が6年生のときなんだって』
「………」
『同じ年で、同じ体験をしてる。…ねぇ涼太』
「………」
『…私が昔対戦した男の子って青峰くんなのかな…?』
「…そうかもしんないスね」
『…いつか会うのかな…』
「早ければインターハイっスかね?」
『だよね…』
「……会いたくないんスか?」
『…できれば…』
「…もうバスケできないから?」
『…うん』
「…だったら、オレは青峰っちに何も聞かないっス」
『涼太…』
「なまえっちに傷ついてほくないっスから」
『うん…。ありがとう…』

ごめんね、青峰くん。
きっと、4年前。
私とバスケをしたのは青峰くんで間違いない…。
でも、もうあなたとはバスケはできない…。
会いたいと思う反面、会いたくないと思う…。
あなたに軽蔑されたくないから。

『(人生初の恋がこんなにも虚しいものなんて…)』

さつきが言ってた…。
最近はバスケが楽しくなさそうだって。
私とだったら、楽しめるんじゃないかって…。

『(ごめんね…)』

私は、さつきと青峰くんに心の中でそう謝ったのだった。

++++++++++

「青峰くん!」
「あ…?」

屋上で寝ていた幼なじみを起こす。
さっき知り合って仲良くなったなまえちゃんのことをどうしても話したくなった。

「んだよ…。練習ならしねーぞ」
「ううん。ちょっと聞いてほしいことがあって…」
「は?」
「さっきね、海常の男子バスケ部のマネージャーの子と仲良くなったの!」
「海常ー?…あー…。…黄瀬のとこのか」
「うん!みょうじなまえちゃんって言うんだけど」
「みょうじなまえ…?」
「そう!"唯一のキセキ"の!」
「…そういえば、そんなやつもいたな」
「今は怪我してもうバスケはしてないみたいなんだけど…。でもね」
「あ?」
「帰ってきてからいろいろと調べてみたの」
「そいつをか?」
「うん。そしたらなまえちゃんってシャッターアイを持ってるんだって」
「シャッターアイ…。そういやテツもそんなこと言ってたな…」
「会ったことあるの?」
「いや、部活帰りにテツがぶつかったやつがオレンジ色の髪をしてたらしい」
「えっ!?」
「オレは見てねーがな。カバンに聖歌って書いてあったから間違いないだろうってテツは言ってた」
「なまえちゃんは聖歌女子中学のエースだったんだよ」
「へー…」
「でね…。ひとつ思ったんだけど…」
「あ?」
「青峰くんが6年生のときにバスケした女の子のこと」
「あー…。あれか」
「あのまま続けてたら負けてたって言ったよね?」
「そういえば、そんなこと言ったな」
「…もしかしたら、なまえちゃんがその女の子じゃないのかな?」
「なんでだよ。あんだけ強かったらバスケ今もしてるだろ」
「そうとは限らないじゃん!実際強かったなまえちゃんも今は怪我でバスケしてないんだし…」
「…で、なんでそう思ったんだよ」
「だってなまえちゃん、オレンジの髪だよ?短髪ではないけど、女の子なんだから髪を伸ばしても何の不思議もないし」
「………」
「それに、その女の子は"止まって見える"って言ってたんだよね?」
「まぁなー…」
「なまえちゃんのシャッターアイは、一枚の写真のように見ることができるんだって…」
「………」
「幼いながらも、そのシャッターアイを持っていたとしたら…?」
「………」
「でも、その能力に自分自身が気付いてなかったとしたら…?」
「…あの時の女は、そいつだって言いたいのかよ」
「だって、止まって見えるなんて、そんな眼を持っている子がゴロゴロいるわけないじゃん!」
「………」
「それに"唯一のキセキ"って言われたぐらい強かったんだったら、青峰くんと引き分けになるのも頷けるし…」
「…だとしても、そいつはもうバスケしてねーんだろ?」
「あ…」
「だったらオレには必要ねーよ」

そう言って、青峰くんは私に背を向けるように寝返りを打った。
その背中には、なんだか寂しさが写っていた。

「…もう一度したかった?その子と…」
「……さぁな」
「…会ってみたい?」
「………」
「…青峰くん。私はずっと応援してるよ?」
「…何をだよ」
「青峰くんの初恋が実ることを」
「…はっ。くだらねー…」
「…インターハイで会えたらいいね」
「…黄瀬は絶対に来る」
「…うん」

なまえちゃん。
どうか、青峰くんを救ってください。
今の青峰くんにはなまえちゃんが必要なの…。
青峰くんにもう一度笑ってバスケをしてほしい。
その為には、テツ君の力も必要だけど…。
やっぱりなまえちゃんの力も必要だから…。

「(青峰くんの笑顔を見るのは、いつになるんだろう…)」

見上げた空は、青とオレンジの二層に別れていた。
その空が、あまりにも青峰くんとなまえちゃんのように見えて仕方がなかった。
いつか、この空のように混じることができますように…。
私はそう見上げた空に願いを込めたのだった。


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