(変化しつつある心)


誠凛との練習試合から数日。
涼太の部活への取り組みの姿勢に変化があった。

『今日も居残り?』
「そーっスよ!」
『…ほどほどにね』
「はいっス!」

誠凛に負けてからというもの、涼太はよく練習後も残って自主練をするようになった。
モデルの仕事は、最低限に抑え始めた。
今はバスケを最優先しているみたいだ。
そんな涼太にあてられたのか、部活の雰囲気も良いものに変わっていった。

『最近、部の雰囲気もよくなりましたね』
「あぁ。これも誠凛と戦ったおかげかもしれんな。なにより…」
『涼太ですか?』
「あぁ。あいつはまだどこか"キセキの世代"の黄瀬涼太。という感じだった」
『そうですね…』
「だが、最近は"海常"の黄瀬涼太に変わった気がするんだが、オマエとしてはどうだ?」
『私もそんな感じがします。誠凛の火神はまだ発展途上。でも涼太も発展途上です。なのでこれからの涼太の成長が楽しみですね』
「あぁ」

―笠松センパイ!ワンオンワンしようっス!
―あ"?なんでオレなんだよ!!

バスケ部に入りたての涼太みたい。
時間のある日は、いつでもああやってワンオンワンしてたなぁ…。
最近、涼太は笑顔でバスケをするようになった。
いや…。
なった、ではなく戻ったの方が正しいだろう…。
昔は2人で笑い合いながらバスケをしてた。
それが当たり前だったのに…。

「なまえっち?」
『わぁっ!?』
「どうしたんスか〜?」
『ちょっと考え事』
「そ?大丈夫っスか?」
『うん。大したことじゃないから』
「なら、よかったっス」

日に日に、バスケに打ち込んでいく涼太に私は心から良かったと思うようになった。
そして、刻々と時間は過ぎていく。

「…?何見てんだよ?」
「今朝のおは朝の録画っス。朝は最近ロードワークで見れないんで」
『ずいぶん勤勉になったよねー』
「ほんとだな。前はサボってばっかだったのに」
「いや。ウチの練習ちょっとアレやりすぎ…」
「チョーシ乗んな!シバくぞ!」
「いてっ」
「つかオマエ。おは朝なんていつも見てんの?」
「今日だけっス。これの結果いいと緑間っちもいいんス」
『この前来てた人だよね。最後の意味が分からなかったけど』
「帝光のか。で、何座?」
「かに座っス!ちなみに黒子っちはみずがめ座」
「そこまで聞いてねぇよ」

―1位はかに座!おめでとう、今日は文句なし!…最下位は残念。みずがめ座です。今日は大人しく…。

「げ…」
『ん?』
「?なんだよ」
「……最悪ッス」
『おは朝?』
「1位はかに座で、最下位はみずがめ座だって…」
『あららー』
「つーか、そんなんで勝敗決めんな!行くぞ」
「いてっ!笠松センパイ!蹴りすぎっス!」

会場に向かって3人で歩く。
途中、涼太が水を買ったりなどしていたので、試合は始まっていた。

「ったくテメーがちんたら飲み物とか買ってっかた始まってんだろが!」
「いて!」
『…え?』

後ろで喚いている2人より先に客席に入った。
そして、見たスコアに目を疑った。

「どうしたんスか?って、えええ〜!?」
「オイオイ。マジかよ」

12対0
という数字を見て、2人はそれぞれ声をもらす。
練習試合で戦ったからこその言葉だろう。
そこらの学校には負けないだろうという思いも少なからずあったかもしれない。
だから、2人とも意外な点数に声をもらしたのだ。
とりあえず、席について試合を見る。

「何やってんスか、も〜」
『この前の練習試合で思ったけど、誠凛は基本スロースターターっぽいんだよね』
「あぁ。けど、そこでいつも初っぱなアクセル踏み込むのが火神なんだが…。そいつがまだこねぇからなおさら波に乗れてねー」
『ったく…。相手の挑発に乗ってファウルって…。それにしても、正邦の動き。やりにくそうですね。特に10番』
「あぁ。火神を止めれるのは"キセキの世代"だけだと思ってたぜ」
『それに加え、黒子くんのパスが…。…パスコースがないからパスも通らない…』

タップをしてボールをパスしようとした黒子だったが、パスコースがなく、ボールをキャッチしてしまった。

「正邦のDFは全員はマンツーマン。…が、並のマンツーじゃねー。常に勝負所みてーに超密着でプレッシャーかけてくる。ちょっとやそっとのカットじゃ振り切れねー」
『それじゃあ、いくらパスがすごくてもフリーがほとんどじゃ威力半減ってとこですね』
「あぁ」
「DF厳しいのはわかったスけど…。んなやり方じゃ最後まで体力保たないっスよ」
「あいつらは保つんだよ」
『彼ら、正邦は古武術を使うの』
「古武術?あのアチョー!みたいな?」
『違う…。正確に言うと"古武術の動き"を取り入れてるの』

涼太は首を傾げた。
ほんとうに、その頭の中はスッカスカね…。

『古武術のなかに一つ"ナンバ走り"っていうのがあるの。普通は手足を交互に振って走るけど、ナンバ走りっていうのは同じ側の手足を振って走るの』
「…つまり、ペンギンみたいな?」
『まぁ、簡単にいえば…』
「体を"ねじらない"ことで負担が減ってエネルギーロスを減らせるらしい」
「よく知ってるっスね」
「全国でも珍しいチームだからな。月バスで特集された時もあったし」
「(なるほど、だからっスか。あの津川…。去年よりもさらにDFのプレッシャーが強くなってる)」
『あの10番って津川くんだっけ?』
「そうっスよ」
「なんだ。2人とも知ってのか」
『私たちと同じ1年生で、昔に一度だけ涼太を止めた人です』
「へ〜。初耳だな」
「もう、なまえっち!」
『いいじゃない。…さて、誠凛もそろそろ動くかな?』
「…このままやられっぱなしで黙ってるタマじゃないスよ」

そして、TOが終了したあと、火神が見せたチェンジオブペース。

『まさか、あそこで切り返してチェンジオブペースとは…』
「まぁた成長したっスね。火神っち」
『…隣は順調みたいね』
「緑間っち。ヨユーみたいっスね」
「ま、当然だろ」

私たちは、誠凛対正邦の隣でやっている試合を見た。
組み合わせは、秀徳対銀望。
苦も無く、順調に進んでいるみたいだ。

「相手もフツーの中堅校だし、波乱はまずねーだろ。あるとすりゃコッチ…なんだが…」

そう言って笠松先輩は再び、誠凛の方に目をやった。

『早いパス回し…。にしても、またファウル?』
「火神っちの得点で誠凛もエンジンかかったと思ったんスけど。あと一歩うまくいかないっスねー」
「いくらなんでもDFだけじゃ王者は名乗れねーよ。OFだって並じゃねー」
「ふーん」
『…ったく……』

涼太の反応に、私も笠松先輩もため息を吐いた。
涼太の言いたいことは分かる。
"キセキの世代"や火神のように天才肌の選手のようにずば抜けて強いやつがいるわけでもないのに。
っと、言ったところだろう。

「確かに正邦はオマエや火神みてーな天才型のスコアラーはいねーけどな、タイプが違うんだよ。OFもDFも古武術を応用してる」
『特に3年生にもなると、相当なレベルで使いこなせる。つまり、正邦は天才のいるチームじゃなくて、達人のいるチームなのよ』
「………達人ならいるっスよ。誠凛にも」

―アウトオブバウンズ!白ボール!

「9点差か〜。んー…ん?」

スコアボードを見ながら歩いていた津川は、黒子くんに当たった。

「すみません」
「キミは…!誰!?てか出てたっけ試合!?」
「黒子テツヤです。出てました」
「うっそだー、マジ!?存在感なさすぎっしょー!!」

津川の言葉は、客席まで響いていた。

「黒子っち…」
『ねぇ…。過去対戦済みだよね…?』
「ちゃんとあの時の試合出てたっスよ、黒子っち」

あまりにもかわいそうになり、この時ばかりは同情した。

「よくわかんないけどホケツ君的な人?じゃあそのままがんばって出ててよ!去年センパイ達、誠凛に第1Qで20点差つけてたらしーんだ!だからオレ30点差ぐらいつけたくてさ!ガッカリしないでね!えっと…ホケツの人!」

そう言って、彼は黒子くんの背中をたたいた。
ここからじゃ、全部は聞き取れなかったけど、なんとなく言っていることはわかる。

「……分かりました。ガッカリしないように頑張ります」

そして、試合は再会された。
黒子くんは津川くんに何か言われたのが気にくわなかったのか、驚きの行動を見せた。
なんと、DFの裏側に回って、パスを通したのだ。

「いくら鉄壁の正邦DFも壁の内側からパスくらったことはないみたいっスね」
「あの正邦の5番。力感ねーのに速ぇーな」
『でも、誠凛にはやつのブロックがある』
「ったく、ほんと高いっスねー」
「誠凛やっと勢い付いてきたな」

そして、早くも第1Qが終了した。

『さて、第2Qはどうかな…?』
「…開始そうそう、スゲーDFだな。いよいよ東京最強のDF全開か」
「すっげー…プレッシャー…!」
『でも、誠凛のあの1年コンビなら…』

黒子くんと火神は見事に2人で津川くんとキャプテンである岩村くんを抜いた。

「前より2人の連携の息があってるっスね」
「あのDFをぶちやぶるかよ。けど…一つ気になるな」
『火神ですか?』
「あぁ。ありゃ第2Qでかく汗の量じゃねーぞ」

一難去って、また一難というところか。

「…ずいぶん浅く守ってるっスね。津川のやつ…」
「急にさっきみてーなプレッシャーをかけなくなったな」
『…まさか』

―OFファウル!!白10番!

「バッカ…!何やってんスか、もー!」
『浅く守って、火神にわざと飛ばせたみたいね』
「こりゃ、ひっこめるしかねーな。残り1つじゃビビッてまともにプレイはできねー」
『…あれ?黒子くんも下げるみたいですね』
「…何考えてんだ?」

1年コンビを下げたのは、隣のコートで試合をやっている秀徳のベンチも気付いたみたいだった。

「1年コンビひっこめて…。勝負なげたんスかね…?」
「誠凛がそんなことするわけねーだろ」
『…むしろ逆よ。あの眼は勝つ気だ』

そして、だんだんと縮まっていく正邦と誠凛の点差。
2年だけの誠凛だが思っている以上にしっくりくる。

「おお〜っ。思ったより全然くらいついてるっスね」
「…てか、むしろ今の方がしっくりきてるけどな」
『やっぱりそうですよね』
「あぁ」
「どうしてっスか?」
「黒子と火神は攻撃力がズバ抜けてるから即採用したんだろうが…。あの2人を加えたチーム編成は春から作った型。いわば、まだ発展途上だ」
『日向さんのアウトサイドシュートと8番の水戸部さんのフックシュート。それを軸にしてチームOFで点を取る今の方が誠凛が一年かけて作ったもう一つの型だとおもう』
「去年の敗戦から相当練習してきたんだろ、勝つために。…あと、もう一つ分かったのは、こっちの型のキーマンはオレがこの前マッチアップした"アイツ"だ」
「?主将じゃないんスか」
「日向は精神的支柱だ。ゲームメイクはPGに任せる。アイツはたぶん、眼が"もう一つ"ある」
「眼…?」
『今のパスのタイミング、上から物を見ているみたい…』
「たぶん、"見えて"るんだろな」
『!なるほど…』
「どういうことっスか?」
「"イーグルアイ"だ」
「いーぐる、あい?」
『頭の中で視点を瞬時に変えられる。つまり、いろんな角度から見れるから常にコート全体が見えてるんだと思う』
「なまえっちのシャッターアイみたいに?」
『少し違うな…。私はあくまで写真のように見えるから、それは平面でしかない。でも、彼の眼は立体に見えてる』
「つまりは視野が広いってことだ」
「ふーん。なるほど…」

そんな話をしている間にも、誠凛と正邦の試合は激しさを増していく。
しかし、選手の一人がベンチに突っ込み気絶してしまった。

「おっ。出てきたっスね。黒子っち」
『後半から誠凛たちの動きが変わった』
「…こりゃーよっぽど研究したみてーだな」
「正邦を、っスか?」
「古武術ってのは、その名の通り古の技。現代のスポーツ科学とか考え方が全く違う。それをバスケに応用した特殊な動きが正邦の強さだ…が」
『特殊ってことはクセがある…』
「あぁ。そのクセから次の行動を予測してんだろ。だが研究したとこで実物とは違う。対応できるようになったのは後半からだろうな」
『時間がない…!』
「いっそげー!!」

なんとか、黒子くんのおかげで誠凛は正邦に勝った。
秀徳も当然といった結果を出し勝利した。

『さすがは秀徳というべきかな』
「あぁ。これで決勝は秀徳対誠凛か。つか1日2試合ってムチャしすぎだろ…」
『それでも。泣いても笑っても3時間後…。決勝リーグ進出校が決まる…』

3時間の休憩は、きっと彼らからすれば短いものだろう…。
とうとう始まる決勝戦。

「誠凛が王者連続撃破の奇跡を起こすか、秀徳が順当に王者のイスを守るか」
『…決勝だ』

選手たちは整列し、とうとう決勝戦が始まった。

『いよいよ、始まる…!』
「まずは誠凛からっスね」
「あれは…!」
「オレとやった時と同じ…。アリウープ…!!」
『!?…あれをブロックするの?彼は…!』
「さすがは緑間っちっスね…」
「やっぱ改めてみると、たけーな…。それを止める緑間も大概だが…」
『均衡状態になってしまいましたね…』
「バスケの試合は40分。それはつまり最低3回は流れが切れてかわるポイントがあるということだ。しかし逆に言えば、一度流れをもっていかれると、そのQ中に戻すのは困難だ。両チーム無得点のまま、もうすぐ2分」
『このままいくと第1Qは…。先制点を獲ったほうが獲る…!』

そんなときに、緑間くんの超高弾道シュートが決まった。

「均衡が破れた!」
「これで流れは秀徳だ…!」
『いえ、まだ決まってませんよ』

緑間くんがポジションに着いた矢先、緑間くんの顔の横すれすれをボースが通った。
そして、それを受け取った火神はそのままリングへと叩きつけた。

「………」
「………」
『コートの端から端までなんて…』

さすがの涼太も見たことなかったのか、声を失っている。
それは、涼太の隣に座っている先輩も同じだったみたいだ。

「あれ?」
『どうしたの?』
「緑間っちは外れる可能性のあるシュートは打たないんス。でも、さっきのはいこうと思えばいけたんじゃ…」
『…それは緑間くんは封じられてるのよ』
「緑間っちが封じられてる?」
『黒子くんの回転式長距離パスでね』
「そういうことか」
「どういうことっスか!?」

本当に…。
涼太の頭は一体どうなっているんだろう…。

「緑間のシュートは、その長い滞空時間中にDFに戻り、速攻を防ぐメリットもある。だが全員が戻るわけじゃねー。万一外した時のために残りはリバウンドに備えてる。その滞空時間がアダになるってわけか」
『はい。緑間くんが戻れるってことは火神は走れる時間でもある。戻った緑間くんのさらに後ろで貫通するような"超速攻"がカウンターでくる。だから緑間くんは打てない』
「にしても、そのパスを見せつけるタイミングと判断力。一発で成功させる度胸…。再認識したぜ」
『黒子くん、だてに帝光中出身じゃないですね』
「あぁ。百戦錬磨だ」

そのあとも、黒子くんの活躍により、点数を入れていく誠凛。
しかし、あるタイミングから黒子くんのマークが変わった。

『黒子くんのマークに高尾くん?』
「さっき気付いたが、あの10番も持ってやがる…」
「さっきの眼のやつっスか?」
「あぁ。黒子のミスディレクションは黒子をみようとする視線を外すだろ?」
「そーっスよ」
「だが、全体を見る能力のあれは黒子のミスディレクションは効かない」
『黒子くん一人を見ているわけではない…。だから高尾くんには効かないってことか…』
「なまえっちがこの前言ってたやつっスね」
『うん』
「しっかし、あのパスが通じねーってことはピンチだな。誠凛」

黒子くんは、タイムアウトが終わってもなお、通じないパスを出し続けた。

「黒子っちがムキになってる…!?らしくねっスよ。同じミスを繰り返すなんて…」
『わざと振り切られたように見せてスティールを…。涼太…』
「なんスか?」
『初めて緑間くんの3Pを見たときに何か違和感を感じたの…』
「違和感スか?」
『…彼のシュート範囲は一体…。!』

そんな話をしていた瞬間。
話の中心人物であった緑間くんはセンターラインからシュートを決めた。

『これだ…』
「?」
『高すぎるループは長距離を飛ばすためだったんだ…』
「帝光時代から緑間っちのシュート範囲はセンターラインだったっスよ」
『恐ろしいね…。"キセキの世代"…』
「もうゴール下まで戻ってやがる」

しかし、そんなもの関係なく火神はボールを構えて緑間くんの前に立った。
そして、そこからシュートを打った。

『打った!たしか彼は外は苦手だったはず…!』
「ありゃー、ワンマンアリウープだ…!」
「あいつ…!」

そして、誠凛は第1Q残りわずかな所で日向さんが3Pを決めた。

「おー」
「最後いいとこで決めてきたな。まぁ第1Qはまずまず…」
『ちょっと待って…。なんで、あんなところでボール構えてるの…?』

私の視界に入ったのは、エンドラインでシュートモーションに入っている緑間くん。
あろうことか、緑間くんはそのままボールを放った。
高く宙に浮いたボールは綺麗にリングを通り、それが合図とでも言うように第1Qが終了した。
そして、第2Q。
開始そうそう、黒子くんは緑間くんのマークについた。
そして、ボールを持つ緑間くんの前で腰を落とす。

『あれは…!』

緑間くんは意図も簡単に黒子くんを抜いた。

「目的はそのあとのバックチップっスよ…って、あの10番!」
「ダメだ、完全に読まれてる…!」
『どこからでも打てるといことは、ボールが渡ったら…』
「次の瞬間には3Pを決められてる…」

結局、前半は誠凛が秀徳にズルズルと離されて終わってしまった。

「っも〜…。根性見せろよ、誠凛〜!!」
「見せてるよ、バカ。あんだけ力の差見せつけられて、まだギリギリでもテンションつないでんだ。むしろ褒めるぜ」
『涼太、落としたよ』
「あ。ありがとうっス」

涼太が落とした反動で、途中だったおは朝が流れた。

―…みずがめ座のアナタは今日はおとなしく過ごしましょう。一位のかに座のアナタは絶好調!!ラッキーアイテム狸の信楽焼きを持てば、向かう所敵なし!!…

休憩時間も終わり、後半戦が始まろうとしていた。

「あれ…?黒子っち、ベンチっスか」
「まぁ…。高尾がいる限り、しょーがねーだろ」
「にしもて、無策っつーか…」
『誠凛は、緑間くんに対して何か突破口を見つけないといけない。それがこの第3Q中に見つからなければ…』
「誠凛は負ける、っスか?」
『うん…』
「始まったぞ」

さっきと変わらず緑間くんのマークは火神。
でも、今の彼はさっきとは全然違う…?
そう思っていたら、火神は一瞬だけ緑間くんのボールに触れた。
初めて、緑間くんが打ったシュートはリングに数回弾けて、危なげでありながらもリングに入った。

「緑間っちのあんなシュート初めてみたっス…」
『誠凛、突破口見つけたみたいですね』
「あぁ」

それからというもの、火神は段々と高くジャンプをしていく。
そして、ついに…。

「あいつ、緑間っちを止めやがった…!」
『一度スクリーンでマーク外されたのに…。緑間くんのシュートは距離が長くなるたびタメも長くなる。でも、その一瞬で!?』
「だが、秀徳にはまだあいつがいる。東京屈指の大型センター。大坪泰介」
「………」
『涼太…』

涼太はじっと火神を見ていた。
そんな涼太を私は見る。

「(片鱗はあった。…オレとやったときの最後のアリウープ。"キセキの世代"と渡り合える力。そしてバスケにおいて最も大きな武器の一つ…。あいつの秘められた才能。…それはつまり天賦の跳躍力!!)」
『叩いた!緑間くんのシュートを!それだけじゃない!』
「そうか!!より遠くから打てるといことは、逆にもしブロックされたら自陣のゴールはすぐそこ…。絶好のカウンターチャンスになる…!」
「火神のやつ…!」
『…このままではマズイ』
「え?何でっスか?」
『………』

火神は、その跳躍力でいくつものシュートをブロックしていく。
が、それは長くは続かないだろう…。
そして、その時間はもうやってきた。

「緑間っち!あぁ、もー!なにやってんスか、火神!」
『違う…。飛ばなかったんじゃなくて飛べなかったんだ』
「このままではマズイってのは、そういうことだったのかよ」
「え?」
『ガス欠よ…』
「ガス欠!?」
「おそらくアイツはまだ常時あの高さで飛べるほど体ができてねぇ…。それを乱発して孤軍奮闘してたからな…」
『それに、途中交代したとはいえ2試合目。さらに津川くんのマークで削られてた分が今響いてる』
「それにガス欠寸前は一人だけじゃねー…」

火神の無茶から、秀徳のカウンターの餌食にされ、第3Qは終了した。
そしてインターバル。

『なんか…。もめてるね…。って殴ったぁ!?』
「オイオイ、マジかよ…」
「黒子っちが火神っちを…。って火神っちもやりかえした!?」
『何が何だか…。…でも、おかげで目は覚めたみたいね』
「…みたいっスね」

そして、第4Qが始まった。

「おっ。黒子っちでてきたっスね」
『火神をいきなりぶんなぐった時はどうなるかと思ったけどね』
「けど、出てきてどーすんだよ?高尾がいる限り透明少年はもはや切り札じゃねぇ…。それもと…。何かあるのか?」
「火神のやつ、初っぱなから飛びやがった!」
「あいつ。保たせる気あんのか?」
『きっとハッタリですよ』
「ハッタリっスか?」
『緑間くんはムリなシュートは打たない。予想を超える火神のジャンプが"まだあるかも"と思わせれば、少なくともシュートの回数は減らせる。けど、それがバレルのも時間の問題』
「結局、この勝敗を握ってるのは…」
「黒子っち…」

涼太が心配するなか、とうとう黒子くんが活動し始めた。
あれほど、手を焼いていた高尾くんのマークを外したのだ。

「高尾のマークを!」
「やっとっスね。黒子っち。でも、どうやって…」
『きっと、高尾くんのホーク・アイはコート全体が見えるほど、視野が広い。だから意識を他にそらしても黒子くんを視界にとらえ続ける。だから、黒子くんは意識を自分からそらす前に逆のミスディレクションを入れた。つまり、自分へひきつけるようにした』
「つまり、前半パスカットされてからも出続けたのはより自分を印象づけるためか!?」
『たぶん、そうだと思います。そして高尾くんは視野を狭められた。狭まった視野なら今度はそらせれる』

そして、黒子くんは自分に飛んできたボールをぶん殴った。

「ボールをぶん殴りやがった!」
「(やりやがった、アイツ…。ついに…緑間っちをふっ飛ばしやがった。しかも…。今のパスは中学時代…。"キセキの世代"しか獲れなかったパス…!)」
『まさか、ここまで成長するなんて…』
「って!じゃなくて、ガス欠寸前で大丈夫なんスか、アイツは!」
「まぁ…。今のはムリしてダンクいく場面でもなかったって見方もあるな。そもそもダンクってあんまイミねーし」
「派手好きなだけスよ、アイツは!」
『そうね。でも涼太もよ』
「え?」
「…けど、じゃあ全く必要ないかって言えばそれも違うんだよ。点数は同じでも、やはりバスケの花形プレーだ。それで緑間をふっ飛ばした。今のダンクはチームに活力を引き出す。点数より遙かに価値のあるファインプレーだ」

同時刻。
ある学校の体育館では、一つの青年が、舞台の上で寝そべって、指先でボールを回していた。

「あー…。ダリー…。動きたくね〜。つか、もうトシかな〜。ガッツでね〜…。…パン食いて〜」
「あー。やっぱいたぁ!青峰くん!」
「んあ?」

呼ばれた拍子に、指先からボールが落ち、床に数回跳ねたあと止まった。
青年のもとに来たのは、手にソーダアイスを持った少女。

「ちょっと!また仮病で試合やすんだの!?」
「だぁあって、どうせ勝つよー。めんどくせー」
「もう!あと今、テツ君のとこもミドリンと試合してるらしーねっ!」
「へーほー」
「まーやっぱ〜テツ君かな、勝つの。なんたって私が惚れた男だしね。って聞いてる?」
「あーんー。聞いてるよ。鉄火丼ねー。オレあんま好きじゃないなー」
「聞いてないじゃんっ!」

舞台そでに寝転がっていた彼は、ひっくり返ってうつ伏せになり、片腕をぶらぶらと揺らしている。
そして足もバタバタと動いていた。

「…さっきの予想だけど、試合思ってみねーとマジわかんねーよ。どっちも土壇場に強ーからな〜。伊達に全中三連覇はしてね〜よ〜?」

誠凛対秀徳の対戦は終わりに近づいていた。

『残り3分。最後のTOか…。流れは今誠凛。気を抜けばいつ追いつかれてもおかしくない…』
「秀徳がつき放すか、それとも誠凛が追いすがるか。分かれ道のTOだ」
「始まった…!」

最後のTOが終わった。
残り2分。
やはりと言うべきか、秀徳のボールは緑間くんに集中している。
が、そんなことをすれば…。

「スティール!」
『火神のハッタリがバレたおかげで、緑間くんにボールが集中する。そうくればパスコースを教えているようなもの』
「…なんか、ブキミっスね…。残り3分。もっと激しくなると思ったんスけど…」
「あぁ…。秀徳がペースを落としてから急にスコアが凍りついちまった。残り1分。…おそらく。動き始めたら一気だ…!!」

緑間くんがシュートを決めたら、欠かさず日向さんが3Pを決める。

「残り15秒!!」
「誠凛逆転の最初で最後のチャンスだ…!」
『大坪さんが日向さんのマークに!3Pを最優先で止めに来た!』
「それでも誠凛は3Pしかねぇ。日向が決められなきゃ負けだ!」
「動いた!」
『3Pラインからはるかに…。まさか、あそこから…!』

日向さんは3Pラインから離れた場所から打った。
そして、ボールはきれいにリングを通った。
誰もが、誠凛の勝ち。
そう思った。
が、最後の最後でボールは高尾くんから緑間くんに渡された。

「緑間っち!?」
「まさか、ここまできてか!」
『火神はもう飛べない…!』

そして、緑間くんはシュートモーションに入った。
そんな緑間くんに対して火神は気力で何とか飛んだ。
…が。

「残り数秒の、この場面でフェイク!?これが"キセキの世代"…。緑間真太郎…!!百戦錬磨は黒子だけじゃねぇ…!!」
「黒子っち〜!!」

次こそ、緑間くんは本当にシュートを打とうとした。
しかし、それは叶わず黒子にボールを叩き落された。
ボールが床にはねたと同時に、ブザーが鳴った。

―試合終了ー!!!

『誠凛が勝った…』
「…試合は終わった。帰るか」
「はいっス」

雨の中、傘をさして3人で歩く。
何故か涼太は考え込んでいた。

「(次は決勝リーグっスか。ってことは青峰っちとやるのも遠くないっスね。あの二人にはちょっと因縁めいた対決になりそうっスね)」
『………?』
「(火神を黒子っちの今の相棒と呼ぶなら、青峰っちは"キセキの世代"のかつての相棒)」
「飯でも食って帰るかー」
『さっき、お好み焼きみつけましたよ』
「お、いいな。おい黄瀬」
「………」
「黄瀬?」
『涼太!』
「!な、なんスか?」
「何ボーっとしてんだ。飯行くぞ」
「先輩のおごりっスか!?」
「んなわけねーだろ!シバくぞ!」

店に入って、しばらくしていると、誠凛の人たちがやってきた。

「お」
「ん」
『え?』
「黄瀬とみょうじと笠松!?」
「ちっス」
『どうも』
「呼び捨てか、オイ!」

一番に私たちを見つけた火神。
そんな火神は恐れ多い、笠松先輩のことを呼び捨てで呼んだ。
先輩は案の定の反応だ。
あたりまえだろう…。
今のは完全に火神が悪い。
しばらくして、日向さんも来た。

「何でここに?」
「おたくらの試合観にね」
『おめでとうございます』
「すみません。15人なんですけど」
「ありゃ、お客さん多いねー。ちょっと席足りるかなー」
「つめれば大丈夫じゃね?」
「あっ。ちょっとまっ…。座るの早っ!」
「もしあれだったら相席でもいっすよ」

そして、集まったのは涼太に笠松先輩、黒子くんに火神。
私はと言うとリコさんに捕まってしまった。

「ねぇねぇ。彼とはいつから?」
『物心ついたときから一緒にいました』
「本当に付き合ってないの?」
『付き合ってないですよー』
「どうみても、カップルにしか見えないのに…」
『そうですか?でも私と涼太が付き合うなんて、ありえないですよ』
「そうなの?」
『私も涼太も、お互いを恋愛対象として見てないですから…』
「そうかしらねー?」

そう言って涼太を見たリコさんにつられて、入口のほうに目をやると、そこには秀徳の緑間くんと高尾くんの姿。

「あれ?もしかして海常の笠松さん!?」
「なんで知ってんだ?」
「月バスで見たんで!全国でも有名な好PGとして有名人じゃないですか。ちょっ…うおー!同じポジションとして話聞きてーなぁ!!ちょっとまざってもいっすか!?」
「え…?てか正直祝勝会的なムードだったんだけど…」
「気にしない、気にしない!!さ、笠松さん」
「あぁ…いいけど」
「それにみょうじさんもいるし?」
『あ、うん。ここ座る?』
「おっ邪魔しまーす」

そして、笠松先輩が相席から抜けたことにより、半ば強制的に緑間くんは火神の隣に座った。

「「「(あの席、パネェ!!!)」」」
「ちょっとちょっと、チョーワクワクするわね!?」
「オマエ。これ狙ってたろ」
「えー?まっさかー」
『大丈夫ですかね…』
「まぁ、大丈夫だろ…」
「みょうじさん。妹ちゃんが会いたいって言ってたよ」
「妹?」
『高尾くんの妹さんは、私の後輩なんですよ』
「へー。意外な接点だな」
「いやー。まさか妹の先輩が、同じ部活仲間の真ちゃんの同中の幼なじみだったなんてー」
「…意外と遠い関係だな」
『ですね…』
「でも、世間って狭くないっすか?」
「まぁ、確かにな」
「にしても、"唯一のキセキ"がまっさか海常に行ったなんて思ってなかったわー」
『そう?』
「もうバスケはやってねーの?」

多少、話がかみ合ってないような気がするのは、私だけだろうか…。
高尾くんはほんとうにお喋りな人なんだなーっと、後輩である伊織ちゃんから聞いてるのと照らし合わせていた。
すると、隣では小金井さんがお好み焼きをふざけながらひっくり返し始めた。
それに、便乗して高尾くんもやり始める。

『や、やめておいたほうが…』
「大丈夫、大丈夫!あっ…!」
『あぁっ!』

だから言ったのに…。
そして、後ろから聞こえたベチャッという効果音。
恐る恐る振り返ると、そこには綺麗に頭の上にお好み焼きを乗せている緑間くん。
無言で立ち上がる緑間くんからは、どす黒いオーラが流れていた。

「…とりあえず、その話はあとだ。高尾、ちょっと来い」
「わりーわりー。ってちょっとスイマッ…。なんでお好み焼きふりかぶってん…だギャー!」

外から聞こえた高尾くんの悲鳴。
まぁ当然の報いだろう…。

「なまえっち。こっちこっち」
『ん?』

涼太は後ろから椅子を借りて、私の場所を作ってくれた。

「折角だし、キセキの中に混じったら?なまえっちもキセキなんだから」
『ありがとう』

そして、戻ってきた緑間くんはまたお好み焼きを食べ始めた。
ありえない量のお好み焼きを食べた火神くんに涼太と緑間くんの愕然とした顔が面白かった。

「火神、一つ忠告してやるのだよ。東京にいるキセキの世代は2人。オレともう一人は青峰大輝という男だ。決勝リーグで当たるだろう。そして、奴はオマエと同種の選手だ」
「はぁ?よくわかんねーけど…。とりあえず、そいつも相当強ぇんだろ?」
「…強いです。…ただあの人のバスケは…。好きじゃないです」
「…………」
『(涼太?…青峰大輝ってエースの?…涼太の憧れの人だよね…?)』
「…フン。まぁせいぜいがんばるのだよ」
「…緑間くん!また…やりましょう」
「…当たり前だ。次は勝つ!」

そう言って、緑間くんはお店を出て行った。
それから、私たちも出て行った。
途中で笠松先輩と別れて、2人で並んで歩く。

「オレもうかうかしてらんないっスねー」
『そうだね』
「次こそは誠凛に勝つっス!」
『うん』
「オレ一人じゃない」
『え?』
「海常には良いセンパイ…。良い仲間がいるっスから!」
『!…うん』

黒子くん。
ありがとう、涼太に勝ってくれて。
おかげで、帝光時代に失ったものを徐々に取り戻していっている。
黒子くんはきっとキセキの世代のみんなにもう一度、この気持ちを取り戻してほしいんだよね?
だから、黒子くんは姿を消して、みんなと戦うことを選んだ。
みんなのことが大切だからこそ…。

『涼太』
「なんスか?」
『黒子くんに感謝しないとね?』
「え?なんのことっスか!?」
『分かってないの?もう、本当に涼太の頭の中スッカスカなんじゃない?』
「なんスか、それ!?」

いつか自分で気付く時が来ますように。
そして、私たちはアパートに帰ったのだった。


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