(初めまして)


授業を終え、部室に向かった。
入ると、中では笠松先輩と小堀先輩が着替えていた。
元々、男子部員しかいなかった男子バスケ部にマネージャーの場所はない。
初めはお互い気遣っていたが、最近では全く気にしなくなった。

『こんにちは!』
「おー。みょうじか」
『先輩たちだけですか?』
「いや。もうほとんど来てる」
『そうですか。じゃあ私も着替えてきますね!』
「あ!みょうじ!黄瀬のやつ知らねーか?」
『涼太ですか?知らないですね…。どうかしたんですか?』
「教室に見に行ったら、もういなかったんだ。部室にも体育館にも来てねーから」
『ん〜…。私の予想があたれば…。今頃、電車に乗ってるかと…』
「ったく、何やってんだか…」
『後で電話してみます』
「あぁ。頼む」

そして、私はドリンクを作り、洗濯物を干し始めた。
―同時刻

「おー。ここか誠凛。さすが新設校。キレーっスねー」

新しく建てられた建物を見つつ、足を進める。
中の方へ行くにつれて、段々と自分に向けれらる視線が集まってくるのを感じた。
それも、無視しつつ目的の場所へと向かう。
それっぽい物を見つけて足を進める。
歩いていると、突然携帯が鳴った。

「はい?」
《涼太くーん?今どこにいらっしゃるのかな?》
「ゲッ…。なまえ…」
《まさか、誠凛だなんて言わないよねー?》
「うっ…」
《まったく…》
「だって、気になったんスよ!!」
《だからって、連絡もなしに?》
「それは…言ったら絶対に反対するじゃないスか!」
《まぁ、それは一応ね》
「ほら!」
《ほら、じゃない!まぁいいわ…。明日覚悟しときなよ》
「へ?」
《笠松先輩》
「…マジっスか…」
《当たり前よ。一応、言っておくから》
「え!?ちょっ…待っ…!」
《じゃあねー》

そして、私は電話を切った。
そのあと、一つため息を吐いて体育館に戻った。
半ば強制的に切られた電話。
そんな携帯を見つめて、ため息をついた。
そして、感じる視線をそのままに体育館へと向かった。
体育館の中に入っても練習に気が入っているせいか、こっちには全く気づいてなかった。
体育館の隅に座り、いつの間にか列になったいたファンの子たちにサインを書いていく。
サインを書きつつも、横目に練習風景を見る。

「(!…へぇ、あいつ[火神]いいもん持ってんね…)」

しばらく見ていると、マネージャーらしき人が来た。
そして、集合をかける。

「海常高校と練習試合!?」
「そう!相手にとって不足なし!一年生もガンガン使ってくよ!」
「不足どころか、すげぇ格上じゃねーか…」
「そんなに強いんですか?」
「全国クラスの強豪校だよ。I・Hとか毎年フツーに出とる」
「えぇ!?」
「それよりカントク。帰ってきた時言ってたアレ。マジ?」
「アレ?」
「何だ火神、聞いてなかったのか?」
「もちろん!海常高校は今年。「キセキの世代」の一人。黄瀬涼太を獲得たトコよ」
「(キセキの世代!!)」

火神はリコの言葉に口の端をあげた。
そして、体育館内がざわめいていることに気づいたリコは、ギャラリーの多さに声を上げた。

「何!?なんでこんなギャラリーできてんの!?」
「…おひさしぶりです」
「ひさしぶり。スンマセン。マジであの…えっと…5分待ってもらっていいスか?」
「(コイツが…!)」

久しぶりに会った黒子に軽くあいさつをする黄瀬。
そんな黄瀬に火神は一人興奮していた。
そして、一段落ついた所で、黄瀬は舞台から降りた。

「な、なんでここに!?」
「いやー。次の相手、誠凛って聞いて黒子っちが入ったの思い出したんで挨拶に来たんスよ。中学の時一番仲良かったしね!」
「フツーでしたけど」
「ヒドッ!!」

誠凛の部員は部室から帝光中学バスケ部が特集されている雑誌を持ってきた。

「すげー。ガッツリ特集されてる…」

―――
中学二年からバスケを始めるも恵まれた体格とセンスで瞬く間に強豪・帝光でレギュラー入り。他の4人と比べると経験値の浅さはあるが急成長を続けるオールラウンダー
―――
と、かかれていた。

「中二から!?」
「いや、あの…。大げさなんスよ。その記事、ホント。"キセキの世代"なんて呼ばれるのは嬉しいけど、つまり、その中でオレは一番下っ端ってだけスわ〜。だから黒子っちとオレはよくイビられたよ」
「ボクは別になかったです」
「あれ!?オレだけ!?」

黒子と黄瀬が話している最中に火神は黄瀬に向かってボールを投げた。
急に飛んできたボールに反応しつつ、飛んできた方向に目をやる。

「っと!?た〜。ちょ…何?!」
「せっかくの再会中にワリーな。けど、せっかく来てアイサツだけもねーだろ。ちょっと相手してくれよイケメン君」
「火神!?」
「火神君!?」
「え〜。そんな急に言われても…。あーでも、キミさっき…」

黄瀬は少し考えるように唸った。

「よし、やろっか!いいもん"見せてくれたお礼"」
「………!」

黒子は黄瀬の言葉に少し反応した。

「…っもう!」
「マズいかもしれません」
「え?」

呆れるリコのそばで黒子はそう呟いた。
そんな黒子にリコは首をかしげた。
黒子の心配をよそに、黄瀬は火神はワンオンワンを始めようとしていた。
ボールをつく黄瀬。
そんな黄瀬を見る火神。
そして、黄瀬は火神の横をドリブルで抜こうとした。
しかし、それに反応する火神。
そんな火神をターンで避け、ダンクを決めようとする。
それを見たリコは目を見開いた。

「(模倣とかそんなレベルじゃない!完全に自分のものにするなんて!!)」
「(ざけんな!!それさっきオレが…。なのに…ウソだろ!?)」

火神は何とか反応して、ダンクを決めようとしている黄瀬の後ろからそれを防ごうとした。
が、それは叶わず黄瀬はそのままボールをリングに叩きつけた。
さきほどやった火神よりも黄瀬のほうが威力が高かったのである。
火神を抑えた黄瀬に部員は驚きを隠せなかった。

「これが…"キセキの世代"…。黒子お前の友達スゴすぎねぇ!?」
「……あんな人知りません」
「へ?」
「正直さっきまでボクも甘いことを考えてました。でも…数ヶ月会ってないだけなのに…。彼は…予想を遙かに超える速さで"キセキの世代"の才能は進化してる!」
「ん〜…。これはちょっとな〜」
「?」

火神とのワンオンワンを終えた黄瀬は唸った。
そんな黄瀬にみんなは疑問を浮かべる。

「こんな拍子抜けじゃ、やっぱ…。挨拶だけじゃ帰れないスわ。やっぱ黒子っちください。海常(ウチ)においでよ。また一緒にバスケやろう」
「……………」

黄瀬の言葉にみんなは目を見開いた。
当の本人である黒子は黙っている。

「マジな話。黒子っちのことは尊敬してるんスよ。こんなとこじゃ宝の持ち腐れだって。ね、どうスか」
「そんな風に言ってもらえるのは光栄です。丁重にお断りさせて頂きます」

そう言って黒子は黄瀬に頭を下げた。

「文脈おかしくねぇ!?そもそもらしくねっスよ!勝つことが全てだったじゃん。なんでもっと強いトコ行かないの?」
「"あの時"から考えが変わったんです。何より火神君と約束しました。キミ達を…。"キセキの世代"を倒すと」
「…やっぱらしくねースよ。そんな冗談言うなんて」
「…ハハッ」

笑った火神に黄瀬は視線を移す。

「(これが"キセキの世代…。スゲーわ、マジ…。ニヤけちまう…。しかも、もっと強ーのが4人もいんのかよ?")」

火神は軽く黒子の肩をたたく。

「ったく。なんだよ…。オレのセリフとんな黒子」
「黄瀬くん。冗談が苦手なのは変わってません。本気です」
「(…黒子っち……)」

しばらく、三人は黙ったままでいた。
その空気を壊す人物が体育館に来た。

『…りょーうーたーくーんー』
「「!」」
「!なまえ?!」
『部活サボってまで誠凛に来るなんて、どういうことかなぁ?』
「や、それは…」
『それに黒子くんをくださいだ?ウチにはそんなスペースないのよ。ったく…。これだから一人にしたら…』
「なまえってば、いつからいたんスか…」
「「(誰…!?)」」

二名を除く人たちはなまえの登場に驚きを隠せなかった。

『あ、この前の…』
「どうも」
『すみません…。ウチのバカ犬が…』
「犬っスか!?」
「対戦相手が気になるのは仕方ないわ。それも元チームメイトがいるなら尚更でしょう」
『本当にすみません。責任を持って連れて帰ります』
「カントク…」

なまえとリコが話していると、なまえのことが気になっている日向がリコに話しかけた。

「ん?なに、日向君」
「えっと…。誰?」
「あぁ!この子は…」
『海常男子バスケ部マネージャーのみょうじなまえです。先程はウチの黄瀬がご迷惑をおかけしました』
「あ、いや…」
『黒子くんのどちらですか?』
「えっと黒子は…。って、どこ行った!?」
『………』
「おーい。黒子ー」

みんなは一斉に黒子を探す。
そんな中、なまえは迷わず"何か"を目標に歩き始めた。

『…あなたは黒子テツヤさん?』
「…はい」

黒子の前に立ったなまえを見て日向だけでなく、黄瀬も目を見開いた。

『涼太が迷惑をかけた…って、あれ?』
「?」
『私と会ったことありますか?』
「…中学の時にぶつかった人ですか…?」
『それだ!あなただったんだ。黒子くん』
「あの時はすみません」
『こちらこそ。…涼太がうるさかったでしょう?』
「そうですね」
「ヒドッ!」
『まぁ今度はよろしくお願いします』
「はい」
「あんた…」

ずっと、やりとりを見ていた日向がなまえに話しかけた。

『はい?』
「どうして黒子がそこにいるってわかったんだ?」
『え?初めからここにいたじゃないですか』
「(…一体何者だ?)」

なまえの正体に日向は目を鋭くした。

「あ、そうそう」

そんな中、黄瀬はもう一度火神に目を向けた。

「あ?なんだよ」
「あんたよりもなまえの方が数倍強いっスわ。訳ありでバスケは引退したけど…。オレはなまえに一度も勝ったことがない」
「「!?」」
「は!?」
「………」
「なまえは中学のころ"唯一のキセキ"と呼ばれていた。それは女子の中で唯一の天才だったからっス」
『涼太。その話はいいって』
「中学の頃バスケをやってた人なら知ってるはずっス。"シャッターアイ"のみょうじなまえってね」
「シャッターアイ!?あの有名な!?」

日向。
おもに2年生たちが驚いてなまえを見る。
さすがの黒子も目を見開いた。

「まっ、練習試合。楽しみにしてるっス」
『ご迷惑をおかけしました。…では失礼します』

そしてなまえと黄瀬は誠凛から姿を消した。
その帰り2人は帰り道をゆっくりと歩いていた。

『ったく…。目を離したらすぐに迷子になるなんて…。子供か』
「ごめんなさい…」
『これで負けたら笑いもんよ』
「負けねっスよ」
『まぁいいわ。さっき電話でも言ったけど明日少し覚悟して部活行きなさいよ』
「………」
『まぁ無断で言ったんだから当たり前でしょ』
「うっ…」
『…一つ気になったんだけど…』
「なんスか?」
『どうして黒子くんをすぐに見つけたことに驚いてたの?』
『なるほどねー』
「オレも分からなくなるときがしょっちゅう…。それをなまえは一回で見つけたからみんな驚いてたんスよ」
『へぇ〜…』
「なんで分かったんスか?」
『ん?これのおかげ』

そう言って私は自分の目を指でさした。
その意味が理解できなかった涼太は首を傾げた。

『この"目"は一枚の写真のように見ることができるから全体を万遍なく見ただけ。影が薄いのは見ようとすればするほど視野が狭まるから見ようとしなければいいだけだと思うよ。まぁ分かったとしてもできないことのほうが多いと思うけど』
「よくわかんないっス」
『簡単に言えば黒子くんだけを意識してみようとしなければいいの』
「…なんとなくわかったっス。意識してみるなってことっスね」
『そういうこと』
「わかっててできるもんなんスか?」
『時間がかかると思うよ。視野を広げることなんて簡単にできることじゃないだろうし。特別な能力がない限りは…』
「そっスよね。まぁ黒子っちには負けないっスよ」
『その前に出れるの?』
「当たり前っスよ!」
『…監督が許さないと思うなぁ…』
「なんか言ったっスか?」
『なんでもない…』


このときは全く思っていなかった。
涼太が負けるなんて…。
そして私たちは家へと帰った。


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