「わかっていないな」
遼は右目に置いていた手をさげてそう答えた。もう痛みはない。
「あの時、頭脳は死んだ。根源の中心部であるHeart(心臓)なんてない」

「いいや。現にHeart(心臓)を手に入れた。お前を囮にしていて正解だったよ。おかげでガードは現れ捕獲できた。最強のプログラムだ」そう言って男は唇を上げたが、遼にはまったく響かなかった。
「頭脳の核は膨大なウイルスは殲滅させ抹消した。だが、すでにその前に頭脳の基礎は世界中で広がり、使われていた。お前らが求めるものはない」

「そんな事は知っている。だが俺たちが欲したのは軟弱に統一された家庭用プログラムではなく、核であるHeartだ!ウイルスを殲滅したあのプログラムさ。あれは抹消なんかされていなかった。そもそもプログラム自体が自ら「消去」を選ばせた事自体が怪しい。頭脳は自らをコピーさせ、抹消したかのように見せかけたんだ。頭脳は完璧だった。「生存」を選ぶことぐらい簡単だろう?ましてや、アレは槇村香という人間がベースだったんだ」
遼はその台詞を聞いた時にパイソンをもう一度男に向けた。その瞳は暗く、まるで闇の底。
お前に、
「お前に、何がわかる」あいつの、何がわかる。一瞬のうちに遼は殺気を強めた。
瞼にも脳にも剥がれ落ちることのない記憶。その存在は、亡くした今でも深く刻み込むようにたった一人存在する者― 香。槇村香。ゆっくりとこちらに振り向く様はスローモーションのように蘇り、うっすらと笑みを浮かべて目を弓なりにさせて、笑う動作や仕草。

「俺を殺しても無駄だ。ここは仮想空間。その武器はオモチャにでしかない。わかるだろう?何故ならここは我々組織が開発したプログラムに書き換えたんだからな。Heartもこちら側で管理している。ここにお前の味方なんていない。冴羽遼、お前は自ら罠に飛び込み自滅するのさ!」
くつくつ堪えるように笑った男は、ネクタイを緩めると顎を動かし遼を挑発するかのように台詞を付け足した。「さあ、撃て。ああ、だが撃ちにくいか?右目が潰れてるんだったな。仕方がない。一発くらい吠えさせてやるよ」そう言って男も懐から銃を取り出した。

「随分と 喋る口だな」
遼は鼻で笑った。その顔は何も恐れず、何も効いていないとばかりに不適に唇を上げていた。まるで喜劇だ。先ほど潰れたと思った目は確かに目の前の男を捕らえている。どうしたってこの男は信じないだろうが、確かに「見える」のだ。

ハート(心臓)がネットの中で存在する?
「残念だな。俺の予想だが―あんたらの持つHeartは発動もしないだ。それはただのどこにでもあるプログラムだ」
「何を」
「言っておくが、俺の相棒はそっちにはいないぜ」

男はそこでようやく困惑したように、あまりにも楽観的な遼に違和感を感じた。確かに、こちらのプランは完璧だ。苦虫を噛むように遼を睨んだ。
「ふん。所詮はったりだ」

「Heart(心)は俺が持っている」

「何を言って」

「そうだろう。香」



お前はいつだって俺の傍にいる。


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