狼はいつも何かを探していた。遠くを見ているようで何かを待っているのか、それとも何処へ行こうかと探しているのか。

Memory of stardust


その瞳の奥はソフィアを追い抜いた何かをいつも探していた。
その日は満月。ソフィアは狼にぴったりとの夜だと、妹を一緒に狼がいる洞穴へと向かった。パンと肉も忘れずに。妹のユイは狼にプレゼントをするんだとはりきって何やら大きめの籠を持った。夜の森は月明かりで照らされるが、闇の中だ。ランプを灯して、猛獣避けの笛を鳴らしながら進んでいく。
東の森の方を見れば、ずっと向こうに聳え立つ塔が少し見えた。目を凝らせば、夜空に混ざるようにその頂上に火が灯っていた。確か、まじないの婆さまの許可も下りた儀式が行われると聞いた。ユイの手を持ちながら、私は小さく燃ゆる炎に目を奪われていた。
炎、赤―
狼はソレをよく見ている。そしてその視線はいつも熱を孕んだように温かく、何かに焦がれているような眼差しだった。
彼には記憶はないが、確かに心に残るものをいつも探し求めていた。それが彼にとって大切なものなら、取り戻してほしいと思う反面、ずっと思い出さず、今のまま傍に居て欲しいと願う自分が確かにいた。
思わず目を伏せていたら、ユイが私のスカートを引っ張って「どうしたの」とこちらを見上げ、早く行こうと促された。

ユイは狼を見るとあっという間に私から離れて、彼の所まで駆けた。私はその光景を微笑ましそうに見ながら、さっそく持ってきたランプから火を取り出して、薪に移した。
たちまち炎は明かりとなって私達を照らした。しばらくすれば狼は青年姿へと変わり、はしゃぐ妹を慣れた手つきで適当に遊ばせている。
「あ!そうだ、聞いて」ユイは赤い糸であやとりをしながら狼と私を見た。
「この前とっても美人な旅人さんを見たの」得意げに言うユイの目は夜空の鏡のように輝いていた。足を揺らしながら、木の丸太の上で言葉をつむいだ。
「村の方では話題になってるのよ。婆さまにお会いになって―確か、赤い髪の人だった」
その時狼の動きが止まって、自然とユイの方を見た。その視線は、あの瞳だった。
誰かを探すような、焦がれるような、立ち尽くした瞳。
どこか遠くへ行ってしまう
一瞬でそれを察知したソフィアは「それよりも ユイ、何か渡すんじゃなかったの」慌てて話題を変えるようとユイが持ってきた籠を見た。
ユイはパッと顔をあげて、ぴょんと置いていた籠を掬い取り「あなたに渡す為に持ってきたの。とってもきれいな花でね、今、色んな町や村で有名なんだって」
ごそごそと取り出したユイの小さな手には、美しく咲き乱れる花が光るようにのっていた。夜だからだろう。いっそうに花びらと香りを放ち、光の照らしで反射する色が様々に変わる、宝石のように煌き、貝のように上品にせつなく大きな花。
「この花の名前はね、」ユイがすいっと一本、狼青年の前に差し出した。それを見つめる狼の瞳は釘付けだった。
「『      』っていうの」

その瞬間、狼の瞳が大きく見開いた。

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