「お前の記憶と居場所を奪う。それはとあるワードで思い出すようにする」シヴァはそう言ってローブを施した。
「簡単であり、難しい言葉、」シヴァはその言葉のヒントも何も教えるつもりはないようだ。そうしてまた紡いだ。瞼の裏に映るのは白く膜を引いたような薄いカーテン。
「何故それほどまでにあの人間を庇う。救いたいのか、ダリアを。偽善か?自己満足か?」シヴァが無表情に言うと、狼の瞳を見つめながら読み取った。
そこには赤い髪の娘。珍しくも命の力を宿し、我と交換をした娘。「あの女の為か」
長く銀の髪が揺れて、あふれんばかりの光。目がちかちかする錯覚に意識が鈍る。
「だが、あの女は我の力で10年の月日を経て彷徨う」

「俺では、足らないのか」狼の言葉にシヴァの足取りは止まった。
「まるで人間みたいだな」シヴァは馬鹿にしたように言った。狼の容姿が伴わず、大きく魂と体がずれている。人の魂が強すぎるこれは、まるで…
「後悔しているのか」シヴァは目を見張てそのまま台詞と続けた。
「お前が選択したんだ。人ではなく「畜生」を選んだ。人の魂をも力も持ち合わせながらも、獣になることを選んだ」シヴァは淡々と言って膝をおると、狼と目線を合わした。シヴァの膨大な太古の記憶中で、力を持ちながらも絶望を持った男が浮かんだ。罪と呪い。名前を盗られ、諦めた人の魂。

「あの女はお前を置き去りにする。裏切りと卑怯を持つ魂。お前は愛されない」
シヴァは意地悪そうに、試すように言った。きっとあの娘はこの男を愛そうとしているが、それを言うつもりも、教えるつもりもない。人は混沌の中彷徨い見つけている様が一番似合っている。この男の選択を知りたかった。
途端に色をなくした男の目を見て、シヴァは目を細めた。そうだ。人間はそういつだって絶望し、諦める。だがすぐにその男は信じられないほど、儚く慈しんだ穏やかな表情でいった。それは、もう狼ではない。過去と未来の魂が重なり合い、狼は動じず、薄い唇を動かした。




「いいさ 愛してもらう必要はない。俺が愛す」







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