とあるはずれの森に孤独な狼がいた。

lonely person


毛並みの良い狼が苔が覆う大きな岩の上で意識が返った。起き上がって景色や記憶を確かめるが、何も思い当たらなかった。ただ近くの川で水を飲もうと覗き込んだ時に映った真っ黒な獣の姿に、己が何かだけはわかった。気だるい身体を起こして、腹が減れば狩りもする。時折木の実も食べたりして、あらゆる所を歩き回った。そして時々、霧がかった変な夢を見た。何かはわからなかったがその奥で見えそうで見えるような景色、いや何かを必死に目を凝らして見ようとする自分に孤独を感じた。
月夜の晩になれば、決まって見る夢。狼はたださ迷い、心地の良い場所を見つけては眠った。
「あれ、あなたはわんわん?」
鬱陶しげに重い瞼を上げれば、そこには人間の子供がこちらを覗き込んでいた。
なりからすれば、女だろうがまだひよこ歩きの子供だった。焦げ茶色の髪を二つに束ねて、丸い瞳はまだ幼くも純粋な目で思わず目を逸らした。
「わたしは、ソフィアって言うの」聞こえのいい名前を言って狼の毛並みにそっと触れた。それが小さなソフィアとの出会いだった。


そんなある日そんなソフィアが木々の枝についている実を取ろうとして登った時、降りられなくなった。そこは両親にも秘密で行った場所で、助けがこない。ソフィアは大粒の涙を流しながら深い森の奥で泣いていた。その時、がさりと下の草むらの辺りで方で葉っぱたちが揺れて気配がした。思わずソフィは嗚咽上げながら目をそこへ凝らした。
するとそこにはあの真っ黒な大きな狼。「あ…」ソフィアはそこへ手を伸ばした。届かないとわかっていても、寂しさでぬくもりが恋しくて仕方がなかった。
その様子を見ていた狼は(仕方がない)と思った瞬間に、自身の身体が焦がれるようにあつく、黒く、青年へと変貌した。妙な感覚に思わず、手の平を見て信じられないとばかりにソフィアを見上げた。
もちろん、ソフィアも驚いたようにさっきまで上げていた嗚咽を止めて狼を見ていた。
狼青年は何故かわからなくてもしっくりくる感覚に目を細め、ソフィアを見た。漆黒の瞳が貫き、小さなソフィアは目をまんまるに固まっていた。不思議な感覚と胸のどきどきに襲われていた。

後にそれが小さなソフィアの早い初恋の訪れであり、それを知るのはまだまだ先である。そしてその後、狼はソフィアを木から助けて家まで送ってやった。狼はすぐにただの獣に戻ったが、ソフィアは目を輝かせながら嬉しそうに赤いポンチョを揺らした。








Inten year...

それから、10年もの月日は流れてしまった。しだいに子供から大人へと変貌を遂げていくソフィアはとても美しい女性へとなった。
その性格と容姿に誰もがうっとりとさせ、魅了し、何人にも告白をされるようになったが彼女はそんな事にも見向きもせず、毎日の日課通りに森へと通い続けた。
すっかり狼と打ち解けたように相変わらずの赤いポンチョを揺らし遊びに行った。
「オオカミさん」ソフィアが長いウェーブのついた髪を流しながら、果物をいっぱいに敷き詰めた籠をみせて、相変わらず不機嫌そうな狼に笑みを向けた。

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