ソフィアはいつのまにか、彼を愛してしまっていた。
ただの狼ではないと知ってからも、ソフィアはずっと傍に寄り添い続けた。狼自身ソフィアには月日が経つ事に増してゆく情は、確かに芽生えていた。
狼は記憶喪失で一切に過去がわからない、ということを除けばソフィア本当の狼の良き理解者だったのかもしれない。
あまり自身の事を語らない狼だが、時々ソフィアの赤いポンチョに目がいっていることだけはわかっていた。
「これが好きなの?」と尋ねてきたソフィアに狼は「いや」と答え「妙にその色が気になるだけだ」という返答を聞いた彼女は「赤が好きなのね」と嬉そうに言った。
それからはずっとそのポンチョを好み、赤を基調としてリボンやスカートを見につけるようになった。10年も経ってしまった今、ソフィアの夢は一つだけだった。
頬を染めながら狼に「明日は林檎を持ってくるね」とはにかんだ。


そんなある日、家に帰れば妹がはしゃぎながら「ね、私も森に連れて行って」そう言いながら飛びついてきた。
まだ幼い妹にソフィアは苦笑いをしながら「はいはい」と言ってきっと面倒くさいそうにする狼を思い出した。両親は出稼ぎに行っているので世話をするのは年に離れた姉である私の役目だ。
「でも急にどうしたの。一昨日からずっと村へ遊びに行っていたんでしょう」そう話すと、妹は「あ、」と声を上げて眉を下げた。
「そうだ、今日もまた村に行ってお花貰うんだった」
忘れてたと妹は頭をかいて残念そうな顔をした。
「花?」
「そう!お姉ちゃんずっと森に行ってるから知らないけど、村のあちこちにすっごくきれいで珍しい花がたくさん届いてるのよ」
妹はそう言って笑った。確かに最近あまり村には行ってないので、そのへんの流行は知らなかった。すると妹は「今日その村でお花を貰いに行くの。だからまた違う日で良いから森へ連れて行って」ソフィアはスカートを引っ張る妹、いや…ユイを宥めながら「わかった、わかった」と頭を撫でてやり、「ほら、先に行ってきたら」と背中を押し、見送ってやった。
ユイは「はーい」と返事をして姉の色違いのポンチョを身につけさっそくとばかりに村へと遊びに行っていた。
その後ろ姿を見ながらソフィアは苦笑いをした。(まったくころころ変わる子なんだから)呆れるように見送って、また狼の元へといく為に焼きたてのパンを籠に入れた。
ジャムやハムも。彼はよく食べるので一気に詰めてまた森へと足を運ぼう。
森で暮らす狼は何不自由のないように暮らしているけれど、いつか説得して、一緒に住みたいと考えていた。



その頃ユイはいつもの近道を行き、まずは昨日約束していた花屋さんへと直行するために市場を駆け抜けた。
古い石畳の村は質素だがどことなく威厳も掟もあり、時々霧が立ち込める。そこへ友達もいつのまに集まっては加わっていたようで、笑い声を上げながら市場を駆け抜けた。
後ろの子が追いかけてくるので、私は全速力で走ったけど、余所見を一瞬して次に前見れば、前に立っていた人へ突っ込んでいた。
「あっ」
ぎゅっと思わず目を瞑れば、身体が後ろへとこてんと尻餅をついた。
男の人が慌てて「大丈夫かい?」と私の身体を起こして覗き込むように聞いてきた。
慌てて「ごめんなさい」と誤ると、頭を撫でられて「怪我がなくてよかったよ」笑ってくれた。その時、私は横で私を心配するようにしてしゃがみこんでいた女の人に釘付けになった。その人は赤い髪でとっても魅力的な人だった。
「ここは人が多いから走らない方が良いよ。あっちの広場なら最適よ」
うっすら浮かべてその人の笑みが作る唇は花びらのようにすっと照っていた。その形の良い爪の先に見えた広場には昨日約束した花屋の人がたまたまいたのが見えた。
すかさず「うん」と頷いて「ありがとう」と、ユイはその場から離れた。






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