ソルトは裏路地を走りながら、後ろからついてくるダレンに尋ねた。
「私が此処のまじない師に会う為の申請をしていたのを何故知っているの」
「今更じゃないか。俺には色々とコネがあるのさ。それに、信頼して来てくれてるんだろう」
そう言ったダレンの言葉にソルトは負けたとばかりに首を振った。
「そうね。あなたなら出来そうだし」
「はは」
「でも、なんであなたがあのまじない師の伝書鳩を出来るの」
そう尋ねると、ダレンは濁すように相槌を打って。「知り合いなんだ」と答えた。予想もしていなかった台詞にソルトは思わず足を止めた。
それをわかっていたダレンはそ頬をかきながら答えた。
「…父さんがな。ほら、俺の一族は物書きだからな。色々繋がりがあるのさ」
つくづく喰えない男だ。ソルトは目を半眼にして言った。「なら、私が数年前からこの村を探してたのを知ってたのに教えてくれたなかったわけ」
「あーいや―ほら、それは自力で行ってもらわないと」慌てて言うダレンだが、確かにもっともである。ソルトは息をついて髪をかいた後、また歩き出した。「―そうね」と




案内された場所は石畳の地下。だが天井は開放され、光が漏れているが、すでに夕暮れで細い月が出て星は山に近いため多い。そして水の音が聞こえる。どうやらこの地下には水路が通っているようだ。ダレンは(待ってる)といって外で暇でもつぶしている。ソルトは「帰ってて」と言ったが聞かなかった。一度決めたらやり通すダレンの性格を知っている為、とりあえず仕方がないと諦め、建物に入った。
ソルトは文様が描かれた暖かい絨毯の上で待たされていたが、しばらくして、新緑のローブを着た高齢のまじない師が現れた。
雰囲気は威厳と優しさとが滲み出たようで、どこか先生に似ているように感じた。
妙齢で、刻まれた皺の数だけ知恵を持っている。緊張の中、その人はいくつも飾られている蝋燭をすり抜け、私の目の前に座った。
立っていた私を座るように促して。自然と拳を握る力が強くなる。
「楽にしなさい」その深みのある声はじわじわと温まるように安心させた。
まじない師は目を閉じている。いくつかの装飾で民族のペンダントをいくつも重ね、頭に被ったベールが腰から床へと流れていた。そしていきなりにも言葉を紡いだ。
「シヴァに会ったのか」
まじない師は目を開けることなく、すべてを読み取ったかのように呟いた。
「わかるのですか」
暖かい蝋燭の光越しに、うっすら微笑んだまじない師は「どうやら、シヴァの泉に入ったようだね」見えるぞ、とソルトの手をとった。しわがれた手は少し震え、優しくソルトの手のひらをなぞった。
「だが、生きている」その時初めて、まじない師の瞳が細く開いた。それは深い緑の瞳。深い深い、途方もなく穏やかですべてを見透かし、いつまでも見ていたくなるような瞳。
すべてを見透かせられながらも、ひどく安心した。まるで、深い愛に包み込まれるような感覚。まじない師はソルトの手を撫でながら言葉を続けた。
「生きているものがシヴァの入口へとつながるあの特殊は水に浸かれば、そのままあちらへと連れて行かれるのが決まり。だが、外部から身をもって助けられた時、助かる事が出来る。しかし、それがただの人間であれば、その者も死んでしまう。どうやらお前さんを助けたのは普通の人ではないようだ」そう話すと、今度はソルトの瞼の上から下へと指を滑らした。

うっすらと浮かび上がる隈。それを見たまじない師は感嘆の声を上げて「まだあちらへ繋がっている」そう呟いた。
「あちら、」ソルトが問えば、まじない師は頷き、「『眠り』を見るようになったのではないか」と言い当てた。ソルトはすぐさま頷き、じっと次の言葉を待った。
「普通、『眠り』に誘いこまれた人間はそのまま彷徨うことが多いんだよ。しかし、このまま『眠り』が続けば、いつか体が駄目になる」まじない師はそう言うと一旦言葉を止めてゆっくりと紡いだ。
「お前さんは運が良いほうだ。そして人にはない力を持っている」心あたりのあるソルトは拳を握る力を強めた。「シヴァと交換してしまったんです。とても大切なものを」
ソルトをそう言って、伏せていた目を瞬かせて焔のついた瞳でまじない師を見た。その揺ぎ無い瞳にまじない師は「そうじゃろうな」と言葉を続けた。
「お前の旅は大切なものを取り戻す旅だ。しかしその『眠り』の謎を解かぬかぎり見つかりはせぬぞ」

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