次にソルト達が訪れた都は、風車が有名で、多くの高台にはいくつもの巨大な風車が優雅に回っている。
「すごい」ソルトは草原にそびえ立つ風車に圧倒された。風の音がはっきりと聞こえる。
都の中心は活気立ち、多く店が並んでいる。今回この都に来た目的は薬草の収集であるが、本当は「ある種」の採取だった。
「此処には有名な薬師がいるんだ」「薬師…」
リーフ、と言う有名な薬師がこの都に拠点を置いているそうだ。師は興味深げに言うと、情報収集の為にも地図を手に入れてから、その人物を探した。
そして元々得ていた情報を元に、彼が身を置く小高い原の上を目指した。家々は少なく、畑が目立つようになり、住人に聞き込みをした。そして近くになった小さな市場に寄れば、リーフではなく、彼の娘しかいないと教えてくれた。
「あそこは夫婦揃って今はもういないよ。かわいそうに、娘さんだけさ」
少し太った店番のおばさんはそう答えた。
それを聞いた師は、とりあえず娘さんの居場所を知りたいと尋ね、彼女がよく出現するというお店を教えてもらった。

店に入ってみれば、お客さんは比較的に年齢層が高く、ソルトはどこか居心地悪そうにきょろきょろとした。先生は入ってすぐにお酒を用意していた店の主人に声を掛けた。ぎょろりと大きな目をこちらに向けた店の主人は愉快下に「ああ、エヴァンなら今来てるよ」と答え、おーい、エヴァン!と声を上げた。
すると店の奥で黒の露出度が高いドレスのような服に金色のカールの美しい女性がこちらへと歩いてきた。
彼女は「何」と主人に聞いて事情を知ると、にっこりとその笑みを深め、
「初めまして。私はエヴァン=リーフよ」と見た目とはまったく違ったおっとりした声で挨拶をしてくれた。
先生も返すように挨拶をしてからソルトにも挨拶するように促した。
ソルトは慌てて名乗れば、初々しい様子にエヴァンは目を細め、「あなたの髪色とっても素敵ね」と言った。

ソルトの髪は生まれつき燃えるような赤。でも両親はそうではなく、自分だけだった髪はあまり好きではなかった。だがこんな美人に言われれば頬は染まり、無意識にも照れたように微笑んでしまった。先生はそんなソルトを見ると頭をぽんと置いて、エヴァンの方を見た。
「リーフの薬師はあなたの父ですか?彼が持っている【種】の採取をしにこちらへ訪れました」先生はそう言って、懐から丁寧に折られた紙をエヴァンに渡した。これは先生の証明と、種の採取の許可書である。エヴァンはそれを受け取り、一通り読み終わると、先生へ向き直った。
「ええ。私の父はローラン=リーフよ。…でも、3年前に亡くなったわ」そう言って、胸元から金の細かいチェーンを取り出した。
「父が残した種はもうこれしかないの。でも、この種は死んでるわ」エヴァンの胸元で光るチェーンの先にぶら下がるクリスタルのケースを摘んだ。中には一粒の「銀の種」が入っている。これは、「カリプ」と呼ばれ貴重で高級、一つ咲けば50年咲きつづけ、
効能は様々に上げられ、これがあれば、一生を豊かに生きれる。実がつけば、途方もない収入になる。
「父が亡くなった後、助手だった母が種の成長の研究にのめり込んだけど…
でも結局発芽をさせることも出来なかった…種はコレだけ。もう命のない種よ」
それを聞いていた狼は目を細めた。ソルトは申し訳なさそうにエヴァンを見つめてから、縋るように師を見た。それを聞いた先生は、エヴァンにすまなそうに目を向け、唐突に訪れたことを誤り、冥福を述べた。エヴァンは気丈に「いいえ、ごめんなさい。お役立てなくて…」そう言って苦笑いをした。
その時、「おい!エヴァン!」いきなり怒声が響きわたった。
ソルトは思わず肩をすくめ、師のローブを握った。そしてその怒声を吐き出した男の方を見た。そこには明らかに酒で酔った頬を赤らめた男が扉の前で不機嫌そうに腕を組んでいる。それを見たエヴァンは髪を払って、眉を寄せてため息をついた。
「ごめんさい。行かないと」とそう言って小さな笑みを見せてどこか名残惜しそうに出て行った。その表情の変化を見逃してなかったソルトは、急いでその男の元へ駆けて行くエヴァンをしばらく眺めていた。


結局種の収穫にはならなかったが、事情があるだけに仕方がない。それよりもあの有名な薬師が亡くなった事を懸念した先生は、すぐに諸国の本部にその事を伝えるために伝令を送りに都の役場へ行った。そしてそのまま薬草と研究の引き続きをするため図書館へ寄って、重要書物を見てくると言った、取りあえずソルトは夕暮れの宿で落ち合う事にして、先生とは分かれる事にした。
といっても多分先生は深夜に帰ってくるだろう。あの人は書物の調べモノにはいつも時間を忘れて没頭する人だから。それも狼が旅に加わってからよりいっそう一人で行動する事が多くなった。ソルトは本の虫とばかりに読みふける師を思い浮かべた。

そして夕方も終わり、あっというまに夜。そろそろ夕食の時間になる。お腹も空いてきたし、近くのお店に寄ろうと思ったが、辺りが暗くなれば自然と酒場が多く店を開いて、幼いソルトには似つかない風景へと変貌していく。
仕方がないので、宿でパンとミルクに、干し肉、適当に摘もうとソルトは付いてきている狼を振り返ろうとすれば、そこにはあどけない少年がいた。
「あれ、」と思って周りをきょろきょろすれば、少年は怪奇そうに目を細めて、
「とうとう目をおかしくなったのか」とその姿には合ってもいない言い方にソルトは驚いたように目を見張った。確かに、今まで見たのは青年の姿だったのに。
一方の狼は欠伸をしながら
「別にこの年齢じゃない。こっちの方があまり力を使わないですむし、楽ってだけ」
なんて便利な体なんだ。ソルトは羨ましくも、そんな事まで出来るこの狼は只者ではない、と思わず顔を引きつらせた。(早く帰ってメシをくれ)とこちらを見る狼少年に、「なら、もっとかわいい態度してよ」と言い返した。

その時、ガッシャーン と大きな陶器が割れる音が響いた。
思わず肩を震わし、ソルトがきょろきょろ辺りを見渡していると、ソルトを通り越した向こうを見ていた狼が瞳を大きく開けて、何かを見つけたかのようにソルトの横を通り越して足を速めた。ソルトも慌てて、彼の後ろへ続いた。

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