それを見たソルトの師は目を細めた。「それが、国の血―」
群青色に煌く瞳は海よりも深く、波のように反射している。あれはただの瞳ではない。瞳術をも持ち合わせている。神々から受け継がれし、真の瞳。
歴代に渡ってその効力は少しずつ衰えていっているとは聞いたが、その煌きを見れば、まだ確かに健全にその瞳は残っている。
「先にソルトを連れて、町に戻っていてくれ」
え、とソルトが言葉を発する前に、狼はソルトの首根っこを後ろが掴み、ソロモンから引き離した。驚いたソルトは蛙が潰れたような声を上げたが、狼はそれを無視して、近くにあった窓へソルトを連れて飛んだ。瞬間に体は獣になり、ソルトはびっくりして振り落とされないようにその狼の首に腕を巻きつけている。
あっという間に消えた二人を見届けた後、ソルトの師は立ち上がってゆくりとソロモンを見て、尋ねた。「昨日会って間もない少女に結婚の申し込みですか」
「そうさ」ソロモンは自信有り気に胸を張って答えを続けた。
「彼女の中をこの瞳で覗いた時、醜い部分も悲しみの部分もすべてをひっくるめて美しく見えた」光をました瞳は宝石のようにきらきらとすべてを見通すようにこちらを見て、「今すぐ追いかけたい」と熱っぽいため息を零して、ソルトが出て行った窓を見た。
「もう一度言いますが、あの子はまだ子供だ」そういえば
「ほんの数年にはもう大人さ」ソロモンは優雅に髪を払いながら、あの時庇うように助けに入ってきたソルトの姿を思い浮かべた。
今まで見てきた女性達は、みな優しくお淑やかであった。しかし、昨日ソロモンの前に現れた彼女は強く、溢れんばかりの生命力を携えていた。成長すればどんどんその輝きを増すだろう。
「恋も愛もまだ気付いていない」
「そんなもの、僕が気付かせるつもりだ」
甘ったるい言葉に胸やけが起きそうだ。しかし瞳から伝わる眼力はただの一目ぼれではないようだ。―念の為に隙を見て印を唱え、床へと放った。
悟られるように会話をして、さりげなく意識をこちらに向かせた。
「見たのですか。その瞳で」ソロモンはそれを聞くと笑みを深め悪戯げに「少しね」と唇を上げて答えを続けた。
「この国を担うんだ。花嫁は自身で決めるつもりさ」
「まさか 本気ではないでしょう」
ソルトの師がゆっくりとこちらを見た。穏やかな口調だが、そうでもないようだ。
だがソロモンはそんな様子に屈することもなく、金髪にさらりと指を通して払いながらその海の水面のように反射する瞳をさらに煌かせた。
「あなたの事を父上が絶賛するように言っていたが、それが本当で中身をも伴っているのか―覗いてみましょうか」
その台詞を吐いた瞬間、ソルトの師は鼻で笑うように息を吐いて何かを呟いた。
それはここの言葉ではく、何かまじないのように思えた。そして、肩をすくめて「悪ふざけは此処まで」と今度はソロモンに同情したような表情を浮かべた。
なんだと思って歩み寄ろうとすれば、両足が硬く岩のように動かず、足も爪の先をも静止させられた。一気に汗が流れ、床から伝うオーラに初めて気付いた。重力が下へとかかり、床に膝をついた。印がソロモンを掴まえ見えない力で縛られていた。王家の血を引き継ぐソロモンには他者から印を跳ね返す強い力が宿っているわずなのだが、その効力は効いていない。
(…なるほど。父上が国、直属にしたがるわけだ)
体中に神経をめぐらせ、どこが動くか確認すれば、僅かに唇は動いた。
「私にこんな事をしていいのかい」
すると「許可は得てますよ」彼は飄々と答えた。そして少し意地悪気に笑みを浮かべ「また父上に断らずミゾに頼んだのでしょう」と言った。
今日会ったミゾがこっそり耳打ちしてくれたのだ。それにだいたい想像は付く。
ソルトの師はそう言って、上手く動けず膝を床につけていたソロモンの前へ行き、手を伸ばした。「手荒な真似を致しました」そう言われた瞬間、体の力ふっと抜けて動けるようになった。


そこで大広間の扉が開いた。そこには話したばかりのミゾが立って慌てたように背後にいる人物を案内した。それは―ソロモンの父である国王であった。
「王子、おふざけは此処までです」ミゾは厳しい声を上げて床から立ち上がったソロモンの服を調えた。そしてソルトの師へ申し訳なさそうに挨拶をした。
ソロモンはその横で「ちくったな…」子供のようにむくれて呟いた。ミゾは思わず苦笑いをしてゴホンと咳払いをした。
そんな中、国王は愉快に髭を撫でながら「息子はこの国随一の女たらしでな」声を上げた。それを聞いたソロモンは少し侵害とばかりに眉を吊り上げ、「父上に似たのさ」と子供っぽく口を挟んだ。すかさず睨んだ王を見たミゾは咄嗟にソロモンの口を押さえた。
国王はやれやれとばかりに呆れて、つい昨日も話した内容をもう一度尋ねた。
「で、それよりも高名なるまじない師。この国にとどまる気は本当にないのか」
その声は響きわたった。



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