朝日が窓からうっすらと差し込み、小鳥の囀りが聞こえた。ソルトは目をうっすら開けて、寝ぼけ眼の瞼を擦りながらゆっくりと起き上がった。毛布にくるんで眠る狼をひと撫でしてその首もとに顔を埋めた。
そんな朝の始まりは、静かに終わることはなかった。宿の主人がわざわざソルト達の部屋を訪れ、通達を届けてくれた。主人は焦ったように先生にどう言う事かを尋ねていた。
その理由―それは届いた通達の印が王家の紋章であったからだ。そう。じきじきに城から届いたのだ。しかも城の者がわざわざ届けに来たものだから、宿屋は大騒ぎになっていた。
印は金色に縁取られ、封筒一枚が芸術のように美しかった。
滑らかな封筒を開ければ、ソロモン王子直筆の招待状で、昨日のお礼とまじない師歓迎の食事会をすると書かれてあった。どうやら強制参加らしい。
ソルトは(すごい、昨日の予告通り)と感心したようにしているが、それを見ていた狼も鼻を鳴らして、顔を歪めた。「礼にしては、厄介なもん寄越したな」
先生は相槌を打ちながら裏返しに封筒を見て、日の光に透かした。
「どうやら、行かないと大変な事になるらしい」
目を細めて透かした封筒を机に置いた。そして(本当に厄介だよ)と朝食代わりのスープを飲んだ。薄く刻まれた印は従いの呪い。行かなければ、どうなるか。なんて―もう何も言うまい。




そして城へと向かった。だがその途中ではミゾと馬車のお出まし。そこでもまた町の人達から好機の目を晒され、人だかりが出来て、本当に大変だった。
そんな注目浴びた馬車は豪華絢爛で金がたくさん使われているわけではなく、控えめに洗礼されたデザインは逆に異彩を放ち、国の性質を凝縮したように見惚れた。
目ためには小さく見えたのに馬車の中は大きく、その中は心地もよくこれこそ豪華に内装してあった。こんな経験をあまりしていなかったソルトは思わず緊張してしまった。
そしてようやく見えてきた城の入り口では騎士やメイド達の出迎えで馬車を降りた。
ミゾは案内しつつソロモンの待つ大広間へ連れて行ってくれた。城の内装は古くも気品に漂っていた。木造での装飾と石の壁と花々が飾られ、とても眩しく感じた。
そしてミゾは大広間の前まで来ると丁寧にお辞儀をして先生に何か耳打ちをして扉を開いた。案内されたそこには豪華に白のテーブル。それは、これでもかというほど細長く長方形に白く清潔感に溢れていた。
ミゾは一礼をし、「今から食事を持って参ります。どうぞお掛け下さい」そう言うと、一斉にメイドたちは椅子を引き、三人をそれぞれの席に促した。そして席に着いた瞬間、大広間の扉が大げさに音を立てて開いた。
そこには、通達を送った本人でありこの国の王子であるソロモン=ファン。
昨日見た灰色のローブではなく、王子らしく正装され、相変わらず美しい容姿は歴代の王子の中でも群を抜いていると言われている。
「ああ、よく来てくれた…!」ソロモンはそう言うと、ソルトの手前に座った。
豪華で美しい装飾に運ばれてくる料理はとても、普段では食べれないものばかり。
なんだか豪華すぎて、もはや何から手をつけていいかわからない。先生に聞こうにも、この長いテーブル。先生は遠く先だ。反対を見れば狼は獣姿で椅子に座らされている。
(なんで私に一番近い人がこの人なのっ)
ソルトはさっきまでの好奇心が消えうせ、不安だけが盛り上がってゆく。
目の前でにこにこしているソロモン王子に緊張はさらに増し、もはや料理の味がどうとか、話している内容も何も頭に入ってこなかった。

ちらりと狼を見れば、彼の前に出されている料理は私達のものとは違った。ソルトはそれを確認した時、一気に冷や汗が出た。それは―どう見ても狼には似つかないミルクのお皿。そして生肉と何かを混ぜたのか茶色くてよくわからないものが盛り付けられ、それを前にした狼はただじっと黙ってそれを見つめ、食していなかった。
だがコレだけはわかる。彼はわざわざ人型になって、料理されたものを好むし、舌も肥えている。狼であるのに、私達が好む調味料について語りだしたこともあった。
そう、私にはわかる。(絶対怒ってる)ソルトはぶるりと肩を震わした。ソロモンは「食べないのかい?」と狼に話しかけているが、いつでも噛み付けるぞとばかりに睨んでいる。その背景にはどす黒く燃える焔が見えた。
顔を青くしたソルトに気付いたソロモンは気遣うように話しかけ、料理の話をずっとしている。なんて鈍感な王子なのだろうか。ソルトは曖昧に頷きながらもうすでに帰りたいと願っていた。
先生、とばかりに助けを求めるが距離がありすぎてどうにもならない。そんなソルトの思いを知ってか知らずか、ソロモンはぺらぺらと優雅におしゃべりをしている。
「この国は美しいだろう」
「そうですね」
「伝統と装飾を重んじてるのさ」
「なるほど」
「花も植物も―」
「うん」
「ソルト、頼みがあるんだ」
「うん」


「結婚してくれないか」
「うん   え?」

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