ソルトはぎょっと慄いた。地面に落ちたハンマーは光を帯びて消えた。
深く被った灰色のローブのせいで見えなかった顔は、ミゾの言葉と共に地面へと落ちた。
そこに現れたのはか弱き女性でもお年寄りでもなく、美しい青年であった。流れるような金髪は短髪で、体は細身でありながらもしっかりと肉付き、頬は整えられた線でしっとりしている。肌は少し日に焼けてはいるが、白い。それは金髪に映えるようで、とても似合っていた。瞳は、群青とまでは行かなくも、翡翠のようで深みがある。
この人が―王子
納得行く容姿であり、気品や洗礼さを感じた。彼は困ったように肩をすくめて、「ああ、見つかってしまった」と心底残念そうにため息をした。そのため息さえも、まるで花の吐息のように優雅である。
いきなりの王子の登場にその場は騒然となり、黄色い声も上がっていた。だが周りはあっという間に騎士達に囲まれ、ただ中心に立っていたソルトはぽかんとミゾと王子を交差してみた。
するといつの間にその騎士達を避けてきたのか、狼が少年の姿のままソルトと王子を立ちはだかる様に前へ出ていた。
突如として現れた不機嫌な少年。彼は腕を組んで、吐息を零した王子を下から睨んでいた。そのあからさまな態度に王子は興味深げに見て、眉を上げた。しばしの無言の後、それを破るようにミゾが慌てて声を上げた。「さあ、王子。早く城へ」王子を促して、ソルトを見返し、王子を助けたお礼を述べた。
「この事は国王にも報告致します。その時、改めてお礼を」ミゾは丁寧にお辞儀をすると王子へと向き直った。そして、王子に絡んでいた者達を捕らえるように騎士たちへ命を下した。
その間、王子は身なりを整え、前で遮るように立つ少年を無視して、未だぽかんとしているソルトへ礼を述べた。「助けてくれてありがとう。私はこの国の第一王子。ソロモン=ファン だ。改めて聞くよ。君の名前はなんて言うんだ?」
きらきらした瞳にソルトは眩しそうに目をパチパチさせて、小さく自身の名を答えた。
そんな二人の様子を無言で見ていた狼少年はぎろりと王子を睨んだ。だがそんな様子には目もくれず、ソロモンは何度もソルトの名を小声で繰り返し、「よし、覚えたよ」ときらきらの笑みを向けた。
そこでミゾは「ソルト様は今日訪れたまじない師の弟子でございます」と頭を下げた。
そしてソルトにもう一度向き直り、「先生はつい先ほど、城からこちらへお帰りなりました。きっと町で会えるかと」ミゾは丁寧に言って微笑んだ。ソロモンはそれを聞くなり、そうか…と考え込んだ。確かに父上があるまじない師を招待したとか言っていた。それはつまり、父、王の客人であるということ。
「ならば尚更、礼を形にしなくばならない。明日城へ招待するのでぜひ食事でもさせてくれ」ソロモンはそう言うとソルトの手をとって甲にキスを落とした。途端にソルトの頬は染まり、「…ソルトっ」狼の声ではっと我に返った所で、すでにソロモンは騎士達が乗っていた白い馬に乗っていた。そして「今夜はゆっくり休むといい」ソロモンはそう言って、ミゾと共に帰路へ付いてゆく。
ぞろぞろ騎士やらなんやら、城へと向かっていく中、ソルトはいつまでも唖然としていた。


「ミゾ、決めたよ」
ソロモンは綱を持ちながら、嬉しそうに言った。
ミゾは諦めたように笑い「何がでしょうか?」と尋ねた。
「結婚相手」
「本当でございますか。ではさっそく国王陛下に知らせねば。で、お相手はやはり隣国のエリー様ですか」
「いや、彼女だよ」
「は?」

「ソルトだ。彼女はとってもキュートだ」
next





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -