その夜、ソルトは師に事細かに今日見た光景を興奮したように話した。王子の容姿や雰囲気を。そして「あんなに綺麗な男の人初めて」と何度も言った。それを聞いていた先生は相槌を打ちながら難しい古文書に目を通して、顔を上げた。
「奇特な王子もいるもんだね。国の王子がそんな所にいてはミゾもさぞ苦労しているのだろう」
先生は気の毒そうに言って蝋燭の火を消した。部屋の明かりは付いているが、古文書を読むときはいつも蝋燭をつけている。何かまじないと関係あるのだろう。
一方黙ったままの狼は獣姿でベッドの毛布の上で体を丸めていた。そんな様子を横目でちらりと眺めながら師は目を細めた。(機嫌が悪いな)
そんな様子には目もくれず、ソルトはソロモンをエヴァンの次に綺麗だったと褒めて、思い出したように夕食を取りに行った。駆けていった後、部屋扉は大げさに音を立てて閉まった。
そんな様子を横目に狼は「あんなオカマみたいな奴のどこが良いんだ」と悪態をついた。
そして忠告するように顔を上げて「ソルトの好奇心はいつか身を滅ぼすぜ」と皮肉ぶった。猪突猛進。確かに、ソルトは厄介ごとをすぐに見つけては自ら飛び込んでゆく。
今回は何もなかったが、いつか痛い目を見るかもしれない。だが、そんな事とうにわかっている。でも―
「ソルトが気になるかい」わざとらしく話題を逸らすように言えば、狼は鼻を鳴らして壁の方へ首を寝かせ、興味なさげに目を閉じた。
そんな様子を横目に、「まあ、お前はソルトを気に入って一緒に来たんだしな」となんでもない様に言って、手元にあった分厚い本を開いた。途端に空気が張り詰め、狼は首をもたげ、瞳を開いてすぐに答えた。
「違う」
「まあ、でもソルトはまだ子供だからな…」
「やめろ」
「今更だろう?」
や め ろ、その言葉と共に狼は牙をむき出しに、唸り声を上げた。一般人が見れば、恐怖におののき逃げてしまうだろうが、彼には何も恐怖を感じれなかった。むしろ、照れのようにも感じたし、気付こうとしていないのかもしれない。そして、いらいらするとばかりに狼はのっそりと体を起こし、少年へと姿を変えてフンっと扉を出て行った。
それを見て、ふふと笑いをかみ締めた。(わかりやすいな)本を閉じて、書きかけの報告書に手を伸ばした。その後夕食を持って帰ってきたソルトはさっき廊下ですれ違った狼を見たのか、「なんであいつ怒ってたの」と首を傾げた。




月が高くなり、明かりのランプはすでに落ちている。ソルトは深い眠りの中で時々同じ夢を見る。それは力を持ったまじない師にはよくあることだという。先生に昔、相談した時に教えてくれた。その夢は此処とはまったく違ったところだった。
着物も秩序も人も…いろんな物と人で溢れて――乗り物だろうか。たくさんの人を乗せている。未来か過去か、ただの夢か…それはわからなかったけど、決まってソルトは目を閉ざした。
それは何故か、まだ自分には早いと思ったからだ。そんな夢を見たとき、夜中に起きては床下に寝ている獣姿の狼を持ち上げた。ぐでんと狼はソルトの細い腕に持ち上げられたまま、よいしょとベッドへ上げられる。寝ぼけまなこのソルトは狼を布団の中に入れて、もふもふと顔を埋めてくる。狼は片目を開けて、ソルトの首筋に擦り寄った。
ソルトにとって、このぬくもりはもう欠かせないものになっていた。それがどういう気持ちの言葉なのかは、まだ、わからない。






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