次に訪れた国は別名「青の国」と呼ばれる所だった。特に、国自体が青色に染まっているわけではない。その起源は国を治めている国王の代々に受け継がれる「群青の瞳」であった。
なんでも、大昔神々がこの国に訪れた時、永遠なる繁栄を約束にその証として「群青の瞳」をある者に預けた。その真に美しく壮大な瞳でその者は国を治め、それが王の先祖であり、起源だった。
それ以降も受け継がれ、今でも王の瞳は群青であると言われる―

ソルトは大きな大国の門に思わずポカンとした。場所によって文明は様々に違い、まさに目の前に広がる国はその中でもよりいっそう進んだ国だった。石畳やその地形を把握して出来た建造物はどれも計算され、高度な技術が見て取れた。先生はそんなソルトを促して、大門の兵士に通行所を見せた。
「この国に用事が?」普段はあまりこういう大国には来ない。あるとすれば、依頼や用事など特別なことに限られている。
「ああ、陛下直々に通達が来たんだ。王国直属のまじない師になって欲しいという内容だったよ」ソルトはさすが先生とばかりに頷き、その返事はわかっているが念の為に尋ねた。
「で、…なるんですか」「ならないよ。その断りの返信を伝える為にここへ寄ったんだよ」どこかその答えにほっとしたソルトは、そうですよね、なんて言いながら浮き足だってしまった。
するとそこで、上等な服を着た年配の細身の男性が、待っていましたとばかりに先生の下へ来た。
「ようこそ、先生。陛下もさぞや喜ばれるでしょう!」流暢に男性はそう言うと、「私めはミゾと申します。陛下の使いとしてやってきました」
そう言って優雅にお辞儀をしてにっこりと笑って握手を交わした。金髪のひげと髪は後ろに纏めてあり、清潔感と気品に溢れていた。そのやり取りの後、ソルトも「はじめまして、先生の弟子でソルトって言います。で、この狼は私のペット」そう言って、狼に指を差した。するとその指先が生ぬるい何かにぱくりと噛まれた。もちろん―狼は不機嫌そうにソルトの手のひらを丸ごと噛み付いていた。牙が刺さるほどではなかったが、ちょっと痛い。
「――ッ」びっくりしたソルトは肩を震わして、反対の手で狼の毛むくじゃらの頬をむぎゅりと伸ばした。ぐるるる、狼は不服そうに唸った。そんな様子を見ていたミゾは愉快下に笑って「ふむ。立派なお弟子さんですな。まったく二人と一匹。みなさん男前ですな」そう言って豪快に声を上げた。

ん…?男前…?後ろで、今度は楽しげに狼が鼻を鳴らした。
ようやく分かったソルトは「…!私は女よ!」ぷりぷり怒って顔を真っ赤にした。




国は豊かで、その文化や造形も美しかった。空の青と建造物の白はどこまでも続き、ソルトは目を細めた。夜になるとこれらの建造物は月の光を浴びて、よりいっそう白く浮き上がるように光るのだという。水道や市場や町並みも高度な技術で作られ、歴史の重なりが見て取れた。古いがどれも大切扱われ、雰囲気や独特と美しさを放っている。よほどすばらしい王家が国を治めているのだろう。
「数百年前までは戦争に明け暮れていました。ですが今はもうその歴史を繰り返すことなく平和に続いています。領土や秩序も公平に保たれ、人々は活気に溢れています。王も満足に政治を行っております」
ミゾは誇らしげに言って、聳え立つ城の塔を見た。
ソルトは感心しながらその光景に魅入っていた。これほどの大国でありながら秩序を保つのは並ならぬ事だ。自身が生まれた故郷は貧困で、作物を育たない所であった。
だからこそ、このように「活きた」国や都に町を見ると、よりいっそう繁栄し、それが地平線の向こうをどこまで覆いつくして欲しい、と願ってしまう。
早く、その時代が来ればいいと。
ソルトはミゾに案内してもらいながら楽しんでいたが、最初のあのミゾの言葉を思い出すだけでへこんでいた。
あの後、ミゾはすぐ誤り「これはこれは!失礼いたしました。いえ、その、こちらの国では女性は髪は伸ばす習慣でして、髪が短いものは男しかいないのです」慌てて弁解したミゾは何度も誤った。
―確かに、そんな習慣があれば仕方がないのかもしれない。
ミゾは少し困ったように苦笑いした。「ええ、まあ、その…今の陛下が最近法律として打ち立てたんです」そして(陛下は髪の長い女性がタイプなもので、)と声を小さめに答えた。
それを聞いていたソルトは口元を引き攣らせた。
その後に狼が「とんだ女たらしだな」と零したのをソルトを聞き逃さなかった。

その後、先生はミゾの案内で城へ行った。私と狼は町で今夜泊まる宿探し。
(先生は城で泊まることをあまり好まないから)
でも序でにぶらぶらと歩くだけでも、とても良い気分になれるし、何よりもっと見て回りたい所がいっぱいである。
町には装飾品の店が多く、どれも美しい。市場も活気だっている。
しかも町ではミゾが言っていた通り、女性の髪はみんな豊かに長く美しい人ばかりだった。
狼はすかさず少年の形になって、「美人ばかりだな」と町にすれ違う美女達を見比べていた。それでもソルトは(エヴァンの方が美人よ)なんて思いながら想いを馳せた。


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