エヴァンが次に目を覚ました時、傍には大きな影―いいや、それは呼吸して確かに生きた…獣―狼だ。
エヴァンは息を呑んだ気配に気づいたのか、狼はのっそりと起き上がり、エヴァンの膝もとに顔を置いた。ぐるるる、と唸るが大人しい犬のようだ。エヴァンは恐る恐る、その漆黒の狼の鼻付近をゆっくり撫でた。あたたかい、エヴァンは込み上げる思いに、頭をもたげた。
「人間は面倒くさい生きものだと思わないか」はっと手を引っ込めた。その唸るような声は手のひらから全身へと響き思わず撫でていた手を離した。エヴァンは体を縮ませた。だが狼はそんな様子には目もくれず、首をもたげると、まるで昔話をするかのようにエヴァンの瞳をじっと見た。
「人は人を騙し、誑かし、凶器にかられる。妬みや齟齬で人殺しをするのも、自分を殺すことも出来るのは、人間だけだ」狼は顔を上げて、月明かりに照らされる部屋の影に足を運ぶと同時に体は青年へと変わった。それはソルトの師のような優しさに満ちた青年ではなかった、黒髪に黒いローブと瞳はまるで罪人のようだった。だが、そこに恐怖や不快感はない。誰もがもった闇を纏い、自ら選んだような―不思議と怖くはない。落ち着いた声は泣きたくなるほど温かいものだった。

「エヴァン。お前を不幸にするのも人間だが、救うのも人間だ」

エヴァンは目を見張った。青年は惚けたように少年へと変わった。
「あなたは―」そう言うや否や、少年はベッドから上半身を出すエヴァンを押した。
思っていた以上に力は強く、言いたいことも聞きたいこともたくさんあるのに、不思議と身体は言う事を聞いてくれず、彼がエヴァンの瞼を軽く押した瞬間、意識はハープの奏でる音と、その薄い瞼越しに伝わるぬくもりに、一気に吸い込まれていった。

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