それから、トメさんはじっくりともう一度透と話し合って決めた。
香はトメが引き取り、透はそれを支援していくと。
最初は手続きや、香の戸籍などやることが多くばたばたしていたが、ようやく落ち着いた。
香もトメの元で暮らすと聞いて、大きく頷いて了承した。


(あら、香ちゃん何見てるの)
さゆりが尋ねると、香は何を言いた気に指を差した。
その先には棚で、ガラスケースの中でいくつか並ぶ写真。さゆりはそれを見ると、眩しそうに目を細めた。
そこには学生時の遼が制服姿で写り、その横では白衣の人。姿や顔は少し遼に似ている。
そう、遼の伯父である海原だ。
幼い遼を引き取って、育てた海原は白衣を着て、遼の隣で笑みを向けている。
しかしその遼に表情はなかった。むしろ、どこか素っ気無なさそうな今とは違う雰囲気だった。
(ふふ、先生って海原先生がとっても苦手だったのよ)
さゆりは苦笑いをして、昔話しを香に聞かせた。
それは学生時の遼や此処で以前主治医として構えていた伯父である海原神のこと。
(先生は、遼は海原を慕っていたけれど、それを態度にするのがとっても下手くそだったのよ。まあ、男同士だし、照れもあるのかもしれないね)

(ちなみに本当はね、私海原先生のお手伝いしたいって思って此処に来たのよね―)
思わずそう零したさゆりの言葉に香は驚いた様子で目をぱちぱちさせている。
さゆりは懐かしそうに目を細めた。
海原は、癌で亡くなった。末期で、都会の大きな病院で治療を受けず、ここで留まり、亡くなった。さゆりは息を吐き出して、屈伸をした。
人に死はつきものだけれど、悲しみはいつまでも続くわけではない
(ね、香ちゃん)さゆりは笑みを浮かべて、香の頬を撫でた。
(大丈夫 何も心配することない。香ちゃんの感じるままに生きればいいの自然に自然にゆっくりとゆっくりと)
ね、と微笑むさゆりの笑みはママのように優しかった。




いつものように、診療所に遊びに来た香。遼はさゆりの白衣から手を伸ばし、お尻を撫でた所でしばかれた。
そんな所にちょうど入ってきた香は、中から聞こえてくる怒声にびくっとした。
声はさゆりだから―きっとまた、遼のセクハラだろう。なんだか、もう慣れてしまった。
なんだか呆れながら、様子を伺うと、案の定
「…ッ変態」
「しょんな〜」
「もう!…本当にやめな―あ、香ちゃん」
「――お、」
来たのか、と途端に優しい目を向けた遼が零した。香はその遼が時折見せてくれる眼差しが大好きだった。ほっとするような、優しくてあったかくなって、むずむずする。
(かおり、)優しかった兄が見せてくれたものと似ているから。自然とこみ上げてくるもの。
(ゆっくりでええんよ)
(感じるままに)
(―大丈夫さ)

それは、香はそうっと目を弓なりにさせた。すべての感情が咲き誇るように、あたたかく咲き乱れる。唇が上がって、頬の赤みがより、ました。わふわふの髪が揺れて、それはスローモーションのように動いた。
そう、香は笑ったのだ。それは、はじめて見る柔らかい表情だった。

「………」「………」
遼はぽかんとして、さゆりと一緒に時が止まった。そして、「香ちゃん!」さゆりは飛び上がったように喜んだ。
一時停止のように止まっていた遼は、しばらくしてから慌てるようにして引き出しを開けてあさった。
そして取り出したのは―カメラ。香を見て、ほら!こっちみろ!とレンズに指をさした。
その後たまたま入ってきた患者さん(もといお土産と世間話しに来た)近所のおばさんは、「あんれえ?どうしたの」
香の前で大人二人がはしゃぎまくっているのだから、お土産のトウモロコシを抱えながら声をかけるまで二人はずっとはしゃぎ続けた。
その後、事情を聞いたおばさんは「めでたいねえ!赤飯炊かないと!」と笑った。
いつの間にか人が人を呼び。冴羽診療所は満員になって、大宴会になった。そうなれば、何で集まったのかわからない人も増えて、香はなんだかよくわからないまま、嬉しそうに笑っているのだった。

  
(奇跡の幕開け!)

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