それはあの星が良く見える土手。
あの大宴会の後、すっかり日は暮れた。もうぽっかりと月が浮いている。
たまたま今日、トメさんは透さんと色んな手続きの延長で町から出ていて、帰りが遅い
本当はすぐにでもトメさんに知らせたいが、生憎携帯は持っていなし、それでも今日の10頃には帰る、とは聞いていので、遼はすっかりご機嫌よく香を家まで送り届けていた。

遼は相変わらず、香に一歩的に色々馬鹿な話をしている。香もすっかり仲良くなった患者さんの話。取りとめもない、おかしい話。
香は黙って聞いているが、今日はこれまでとは少し違う。それは幾分か表情を変えて遼の話を聞いているのだ。そんな様子を遼はちらちら見ては、笑みを浮かべる。
一方の香は自分が見せた変化に鈍く、(なんだか、今日の遼はとっても機嫌がいい)
いや、別に機嫌悪かったことがあったわけではないのだが、今日は特に、にこにこしている。
香は不思議だった。さゆりも患者さんの近所のみんなも、香を見て嬉しそうに頬を染めて、ほっぺを挟んだり撫でたり、――なんて楽しい。


風がそよそよと、またあの月夜のように心地が良い。「にしても、今日も星がいっぱいだな」本当は、見飽きるほど此処を歩き、此処で生きてきた。
それでも今日見上げる、この場所はいつもと違う。香という存在が新しく遼の世界に色を付け加えた気がした。しみじみと夜空を見上げた遼は、そう零すと口をつぐんだ。
香は着実に回復していってる。心もだが…あと声もある。出来れば、この流れで取り戻して欲しい
(それでも、つらいのはこれからだろうな)
どうしようもない。死は人の常に隣にいる。いつだって近く、忍び歩きで傍にいる。
あったものを失う辛さは遼も知っている。思い出を作るのも人で、思い出を残すのも人だ。香は一体どんな道を歩んでいくのだろうか。
一方手を繋いでいた香は戸惑ったように遼を見上げた。遼の手の力が一瞬、強った。
(りょう?)(どうしたの)
神妙な遼の視線の先に広がる星。流れ星を探しているのだろうか。
香は遼が兄のようだったりパパのようだったり、お医者さんっだりする姿。どれも好きだったが、やっぱり笑っている姿の方が大好きだ。
だって、とっても楽しいから。でも今は何か、黙っている。悲しいことでもあったのだろうか。さっきまではあんなに笑って喜んでいたのに。
香はさっき遼とさゆりや来てくれた患者さんたちが褒めてくれた顔を、ほっぺを片手で触った。
そうして、香は遼が見ている方向とは違う夜空を見た。そこに、ひゅんと落ちた奇跡―
あれは、遼がくれたもの―!
香は、その時指をさした。

りょう

りょう




「 りょう! 」





ぎょっとしたように遼は香を見た。
「え、…え?」
(え、えええ!)頭がパンクしそうだ。遼は香の方へ屈むと、その肩を掴み揺らした。

「え、今なっつった!」
香はそんな必死な遼にはお構い無しに、ほらほらと腕を空に伸ばして指した。
「みて、ながれ星! 」ほらほら、香は一点を指している。とっくに流れ星は消えてしまったが、その特別な線に香は必死。だが、遼はそんなことには目もくれず、屈んで硬直したまま。
香はもぞもぞとポケットから、何かを取り出し、先日遼がやったように空で何かを掴むようにした。
そして、ゆっくりと遼に差し出した。その手のひらにのっているのは、ガラス玉。
それは遼がやったのとは、違うビー玉だった。水色の…ラムネについているやつだろうか。遼の真似をして、香は純粋に両手でそれを差し出した。
「流れ星、あげるよ」
それは、香なりのお返しだった。あまりにもきれいに笑って、遼を見上げるものだから、思わず息をのんた。遼はもう一度目をぱちくりちさせて目を細めた瞬間、そのガラス玉をも掬い取って香を高い高いをするように持ち上げてくるくる回った。
驚いた香は「きゃ!」小さな悲鳴を上げて、よくわからない、といった様子で戸惑っているが、関係なかった。「香、香、かおり、かおり―」
遼はいつまでも、香を回してはしゃぎ続けた。いつまでもいつまでも。

夜はまだこれからである。もちろん、その後遼はまた大騒ぎしながら、さゆりやトメさんの元へ連れて行ったのは確かである。










「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -