貴方と私のキスの味


※軽い喘ぎ声あるので苦手な人は注意です。



昔、クラスの女子が言っていた。

「キスの味は、レモンの味!」

とか、

「甘酸っぱいチェリーの味!」

とか、皆して可愛らしい乙女な夢をいっぱい膨らませてた。その頃の私は皆と同じになって、

『チェリーやレモンよりイチゴの味がいいっ!』

なんて、言っていた。


――――でも実際は・・・・


そんな可愛らしい、夢の様なキスの味なんてしなくて、私が感じたキスの味は・・・、


苦い、あの独特の、血の味だった―――・・・・

 

*貴方と私のキスの味*




「……っ!やあっ!はあっ!!」



奥州平泉の高館の庭で私は一人無心で一心不乱に剣を振り続けていた。

それは仲間を、皆を守りたいとか、この世界を救いたいとか、剣の腕を鈍らせないためとか、そういう思いもあったけど…
けど、やはり私がこの剣を振り続ける理由の中で一番大きいのはアレだろう。


“壇之浦での戦い”


“平 知盛”


あの人の影響が大きいのだろう。
あの人には、大切な仲間を危険な目に合わせられ、殺されもした。

それでも、私は――・・・・

あの人を助けたい、と思った。


『じゃあ、な……』


不意に、知盛の最期の姿が脳裏を掠めた。

己の最期だというのに、余裕の、不敵な、何処か満足そうな、満ち足りた笑み…

鮮やかなその新血…

どこまでも蒼いあの綺麗な空の色と同じ、どこまでもどこまで青い海に沈んで行く貴方……

どんなに伸ばしても届かない私の手、

 や め て 

全てがスローモーションで見える景色

やめて…

貴方の口が動くのが見えた

嫌、だ…っ



『    』



思い出したくない…っ



『神子殿……』



不意に剣を振り続ける私の視界の端で、長身の、銀色の見た事のある色が揺れた

そして、あの声も――


「っっ!!?…知も……っ!!」


振り向くとそこには・・・


「………神子様…」


何処か申し訳なさそうな表情の銀が立っていた。
気のせいかその声も、申し訳なさそうに控えめな小さな声だ…


「あ…っごめんっ銀!私考え事してて…、それで……っ」

「いえ、大丈夫です。謝らないで下さい神子様…」

「っ!でも、銀…っ」

「先程――・・・」

「え…?」

「先程口にされたその人は、神子様の想い人ですか…?」

「え?しろが―――」

「いえ、申し訳ありません。忘れて下さいっ」


去ってしまうその背中を追い掛けて駆け出した瞬間


「あ…っ!うぅっ!!」

「…!?神子様!!!」


穢れの影響で視界が眩み、持っていた剣を落としてしまった。
そして、落とした拍子に露出した太股を剣の刃が掠めていった。


「神子様!!大丈夫ですか!!?」

「あ、うん、平気!平気!!大丈夫だから…っ」

「申し訳ございません!!私が、貴方様から離れたばかりに…っこの様なお怪我を……っ!」

「銀、安心して!本当に大丈夫だから…こんなモノ唾でも付けとけば治るから!!だから、そんなに自分を責めないで、ね…?」

「神子様……っ」


離れかけていた銀が駆け足で駆け寄って来て、支えてくれた。
そしてフッと、薫ってきた彼の香り…


「(あ…、銀の匂いだ……。)」


安心する匂い、安心する腕、安心する・・・存在。
あの廃退的な人とは何もかもが違う。


「(銀は銀だ…知盛とは、違う…っ)」


銀の腕の中思った。確信した。
あの人、知盛との違いを……


「(彼は、こんな風に私を抱いてはくれない…)」


銀の存在をもっと感じたくて、もっと近付きたくて、彼の背中に腕を回し、胸元に顔を埋めた。


「っ……神子…様…っ」

「あっ、ごめん嫌だった…?」


いきなり背中に腕を回したのに驚いたのか、一瞬銀の体が強張る。
だから、腕を体を離そうとしたら、それを銀自身に静止させられた。


「いえ、そうではないのです神子様、私には勿体無い幸福だと、思っただけです。貴方をこうして、他の誰でもない私の腕に抱ける事を……」

「っ!!……しろ、がね…っ」


思わず赤面してしまう。
もう、銀はいつもこういう事をサラッと言うんだから…っ


「そうです神子様、お怪我の手当てを致しませんと…」

「あ、うん、そうだね…」


体が離れるのが少し名残惜しい気もするが、実を言うとさっきから脚がズキズキと痛んでいた。掠っただけと言っても刃物傷だ。血だって流れている。


「では、行きましょう」


私は銀に腕を引かれる様に屋敷の中に入っていった。

銀は邸の中に入ると、自分が手当てをすると言って私を強引に自分の前に座らせた。


「え!?ちょっ…銀っ!!」

「神子様のこのお怪我は私の責任でございます。ですので、私が責任持って手当てをさせ頂きます。」

「い、いや!あの、だからって…っ」

「私に等に触られるのは、お嫌ですか…?」


銀は私の怪我した方の足を優しく支えながら、上目使いで訴えてくる。

自分が手当てをするのだと…、その行為を無下にも出来ないし、何よりも、銀と一緒に居られるのなら…嬉しくもあった。
がっ!!今回は流石に恥ずかしい……っ!!

何と言っても怪我したのが足な訳だから、手当てをして貰うとなると、必然的に銀に足を見られると言う訳で…それが、なんだか無償に恥ずかしいのだ。


「っ!!ちがっ?!嫌な訳じゃないよっ!!」

「良かった…貴方に嫌われでもしたら、私はどうかなってしまいそうでした…。」

「そ、そんな…大袈裟な…」

「いいえ、大袈裟なんかではございません!」

「そ、そうなの…?」

「はい、ですので、私の手ずから手当てをさせて頂きますね、神子様」

「……え?」


良い笑顔でキッパリと言い切られてしまった。
そして、私の手当てをするのは最早確定事項なんですか…


「神子様…」

「う…っ…」


私を真摯に見詰める瞳は、まさに捨てられた子犬…

ここで頷かずに、違う反応も見てみたいとは思うが、そんな事したら流石に銀が可哀想だと思い、止めた。


「う…うん…じゃあ、お願いしようかな?」


銀の子犬ビーム(目力)に負け、頷いてしまった。
私が頷いたのを見た銀は、嬉しそうに「はい、喜んで」と私の足に手を掛けた。

そのまま銀の薄い引き締まった綺麗な唇が傷口へと近付いて・・・・・・ん?近付いて…??


「って、銀何してるの!!?」

「はい、先程神子様が『こんなモノ唾でも付けとけば治る』とおっしゃいましたので……」

「え!!?ま、まさかそれを律儀に実行しようなんて……」


私が焦る気持ちを押さえて、恐る恐る訪ねると銀がいつもの、それはそれは良い笑顔で……


「……はい、神子様」


なんて頷いて見せた。

その笑顔に愕然として、呆けていると、一度動きを止めた銀の唇がまた近付いて、私の傷口に触れた。


「っ??!!…し、銀ダメェ…ッ!!!??」


ピリリッとした感覚が傷口の上を、駆け抜けて、それから直ぐまた別の感触が駆け抜けた。
それはヌルリと湿った、暖かい銀の舌の感触だった。


「あっ!っんっ…んん…っ」


銀はまるで仔猫がミルクを舐めるかの様な、チュッピチャッピチャッという水音を立てて丁寧に舐め上げていく
その感覚がゾクゾクと背筋を突き抜け、刺激して、変になりそう…

チュッ

しかも羞恥のせいで頭の中が真っ白になって、何も考えられなくて、沸騰しそうな程熱い…

ピチャッ…


「ん、んんっ…やめっ…てぇっ」


銀を止めさせるために触れた髪を力の入らない私はそのままグチャグチャにしてしまう…


あの人と同じ銀の髪…

私が、守もれ無かった色……

あの人、の・・・っ



「神子様…?」

『神子殿…』



嗚呼、声までもが同じ…なんて…


「知、盛……っ」


なんて…っ


「っ!!…神子様っ!」


ーーーハッ!


「……え…?…あ…、銀…。」


銀に力強く両頬を支えられてハッとした。


「………、…泣いて仕舞われる程、お嫌でしたか…?」

「…え…?」


気が付くと私は泣いていた。


「あ…、これは、ちが…っ違う…の…っ」


涙は次から次へと溢れてくる。
それは貴方への罪悪感からなのか、面影を重ねてしまった罪悪感からなのか…

それは私には分からない。

ただただ、涙が溢れてしまったから……


「ごめんな…っごめん…なさっ……っ」


口を突いて出るのは、意味のない謝罪の言葉

最早この時点で私は混乱してしまっていた。

何が何だか分からなくなって、ただ、誰に対しての謝罪の言葉なのかも分からない言葉を繰り返していただけなのだ。

多分この時の銀は心底困った事だろう…。

「違う」と言いながら「ごめんなさい」と謝罪の言葉を繰り返す私に、呆れたかもしれない。

それでも彼は、私を抱き止めてくれた。


「神子様っ!」

「っ!?…しろ…がね……」


両頬を彼に押さえられ、強制的に瞳を合わせる形とられる。
そこでようやく私は、混乱が治まり落ち着いた。


「やっと、こちらを見て下さりましたね…」


ニッコリと微笑んだ銀の顔には、彼らしくない“寂しさ”が見てとれた。
銀がこんな風に笑うの初めて見た…


「もう、こちらを見て下さらないかと思いました…」


そう呟いた彼の言葉が、

『もう【私】を見て下さらないかと思いました…』

と聞こえたのは、私の思い違いだろうか…?


「っ!!…ごめ、しろが…んっ!!」


そう言おうとしたら、シーッと銀に唇を人差し指で押さえられた。


「神子様…、私は欲深いのです。ですから、今度は謝罪の言葉以外が、神子様の愛らしい口からお聞きしたいのです。」

「え…銀…?」

「貴方の中に誰が居ようと、私は貴方様をお慕いしております……」

「しろ……っ」


何か聞こうとする前に、銀の唇が優しく私のそれを奪った。


「もっと私の名前を呼んで下さい…。他の誰でもない、私の・・・っ」

「しろ…んふ…っ」


啄むだけのキスの合間も銀は何か言っている。
だけど、私はそれを理解するよりも、今の行為に付いていく事で手一杯だった。


「後で、どんな罰でも受けましょう…。
 ですから、今だけは…私の……っ」

「しろがね…っ…」

「神子様…お慕いしています…。」

「んんっ…ふむぅ…っ」


弾んだ息を整えるために薄く開いた唇の間を、銀の熱くて湿った舌が割って入って来た。
ヌルリとしたその独特の感触に、私は背筋を震わせる。

その瞬間、口の中にあの独特の苦い、血の味がした・・・。


「神子様……」


呟かれた言葉に目を開くと、


「やっとこちらを見て下さりましたね…」


貴方の微笑みとぶつかった。


今始めて私は貴方‐銀‐を見た…

面影を重ねず、貴方だけを見た…

嗚呼、貴方はこんな風に笑うのね…



「銀……」


名前を呼べば、満足そうに微笑んで、


「はい、神子様」


またキスの雨が降る。
今度のキスは優しくて、血の味なんかしなかった。

代わりに『貴方』の味がした――・・・

代わりに『貴方』の匂いがした―――・・・

代わりに『貴方』の温もりを感じた――・・・・


銀…銀……

どうか、どうか、貴方のその名の通り

私を銀‐貴方‐色に塗り潰して―――



私は貴方への想いを忘れない。

だって、この想いが私を強くしてくれたから…

貴方への想いがあったからこそ、銀を余計に諦める事が出来なかった。


ありがとう…私の初恋の人……


貴方を好きになったのはけして、ただの過ちではなかった。
それなりの意味がちゃんとあったのだ。


今でも好きよ…ううん、ずっと好き……

私と出逢ってくれてありがとう

私と戦ってくれてありがとう



この想いは無駄じゃなかったのよね…?

知盛……?

いつか貴方を救ってくれる人が現れます様に……



‐私と貴方のキスの味end‐
 

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