タイムリミット

三國無双、郭嘉夢、魏国武将設定。




「やあ、名前殿」


戦前の長い軍議が終わり、皆が各自バラバラに動く中ひとり己の布陣へと戻ろうとした矢先、背後から声を掛けられた。
その声には聞き覚えがあり、私は少々ウンザリした気分で振り返る


「何か御用ですか、郭嘉殿?」

「君の素敵な後ろ姿を見かけてね、これはお声をお掛けしなければと思って…ね?」


甘いマスクでそんな事を囁かれれば落ち無い女は居ないだろう…
しかし私はこの男、郭嘉という男が苦手であり悪く言うなれば疎ましく思っている。


「その様な戯言、今言うのは些か不謹慎かと…」

「大丈夫、誰も聞いちゃいないさ」

「………」


チラリと周りを見渡せば、皆其々が戦に赴く準備で忙しそうだった。
「ほらね?」と視線だけで合図するこの男が煩わしい……確かにこの状況では誰も聞いていないだろうが、不謹慎なものは不謹慎なものなんだ。

私だってこれから戦の支度を整えなければ成らないし、2度目に成るが私はこの男が苦手だ。
いつもヘラヘラとした軽薄な笑みを顔に貼り付け、無駄に等しい軽口…確かに頭の方は切れ、軍師としての腕は確かな筈だが本当にこんな男に曹操様の魏国の軍師が務まるのだろうか?と怪しんでしまう。

何より私はその軽薄な態度が嫌いだった。

何か有れば女性だ酒だの抜かして…
たまの軍議すらも欠席が目立つ男だ。
こんな男信じろと言う方が無理なのだ!!


「そんな怖い顔してると、折角の愛らしい顔が台無しだよ?」

「誰が私にこんな顔させているとお思いですか?」

「僕…かな?」

「正解です。良く分かりましたね。」


嫌味ついでにパチパチ拍手をくれてやった。本当にこの男は気に喰わない。


「そうか、ならばご褒美を貰わなくっちゃね」

「はあ!?ちょ…っちょっと、郭嘉殿っ!!?」

「しー…静かに、誰かに見られてしまうかもしれないよ?」

「……っ」


腕を掴まれ、強引に皆からは見え難い幕の後ろへと引っ張り込まれてしまった。
グッと二人の距離が縮まる。
本当に、本当に本当に本っ当に…っこの男は何を考えているんだっ!!


「郭嘉ど…っ!」

「名前…」

「……っ!!」


その顔は驚く程近くに有り、普段は見せない真剣な瞳と声音に、私は息を飲み込んだ。
ズルい…こんな時に…
いつもの態度はどうしたと言うんだ…っ


「名前…」

「……かくか…っどの…っ」


息が詰まりそうなくらい切なく、トロけてしまいそうなくらい甘く、私の名を呼ばれ、私はどんな反応をしたら良いのか分からなくなった。

郭嘉殿の顔を見ている事さえも耐えられなくなった私は、堪らずギュッと目を瞑ってしまった。
 


ーーー刹那に感じる吐息に息を飲んだ。



「ーーーーふー、冗談だよ…」

「…っっ?!!…かっ、郭嘉殿っ!!」

「ふふっすまない、君が余りに可愛いらしいものだったからついからかってしまってね、許して貰えないか?」

「〜〜〜〜っあ、貴方と言う人はぁーー!!!」


嗚呼、そうだ。
彼は“いつもの如く”私をからかったのだ。そう、いつもの如く…何事でも無いかの様に、普通に、普段通りに、私をからかった。
からかって、弄んだ。
口ではごめんねと言いながら悪気の無さそうな微笑みで、彼は、ただただ、いつもの如くからかっただけだった。

その事に少し、ほんの少しだけ…
“惜しい”と不覚にも感じてしまった自分自身に少なからず腹が立った。


「ーーーーっも…っ離して下さい!自分の持ち場に行きます!!」


もがきながらドンッと強く彼の胸元を押し返しすと、彼は意外にも案外すんなりと引き下がってくれた。
意外だ、もう少しくだらない戯言に付き合わされるかと思った……惜しいなどとは思っていないぞ。

身なりを整えながら、彼に背を向け歩き出そうとしたら、背後から声が掛けられた。


「ーーーー名前」

「っ…まだ、なにか??」


嗚呼、少し言い方がキツかったかもしれない。まあ、それくらいこの男の所為だから仕方ないと思うとしよう。
彼は私の顔を見詰めると、ニッコリと柔らかく微笑んで、手を振った。


「気を付けて行っておいで…」

「は、はあ… ?」


意外だった…もっと下らない戯言を言われるかと思ったから、そんな、私を気遣う言葉が掛かるとは思って居なかった。


「君の美しい玉肌に傷痕が出来てしまっては大変だからね、あ、もちろん怪我をしてしまったら僕が診てあげ……」

「ーーーっもう行きますからねっ!!」

「ーーーああ、行ってらっしゃい」


感心した私が馬鹿でした。
天幕を潜り、ドスドスッと大股でその場を離れ、急いで自分の持ち場へと歩いて行く

火照った熱を冷ます様に、冷たく吹き荒ぶ戦場の風が、今の私には心地良かった。
戦場が私を駆り立てる。
私を呼び寄せる。
戦場こそが私の居場所で、曹操様こそが私の主だ。それなのにーーー

それなのに、何故…

こんなにも胸が締め付けられるのだろう?

戯れと知りながら触れ合う彼の顔が、戦場を駆ける私の頭から離れなかった。

この感情は一体何なんだろうーーーー?


郭嘉視点→
 




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