01


クー・フーリン オルタ 夢。
聖杯夢主、マスター設定。※流血表現注意※


 


それは、条件反射に近い行動だった。


「ーーーーっ!!」

「ーーーしまっ…っ先輩っ?!!」


ワイバーンの攻撃によって崖の方へと飛ばされたグダ男の姿を目にし、私は、咄嗟の判断でグダ男へと手を伸ばしていた。
そして掴んだグダ男の身体をめいいっぱいの力を使って、引き寄せた。

引き寄せた、までは良かった。

だが、グダ男に意識を取られていた私は自身の背後に迫るワイバーンの存在に気付かなかった。


「名前さんーーーっ!!!!」

「しまっーーーーっ」


マシュの悲鳴に近しい叫びを聴きながら、ワイバーンの攻撃によって空へと投げ出され、落ちる身体
咄嗟の判断でグダ男の腕を離し、マシュの方へと突き飛ばしたのは我ながら良い判断だったと思う。

たった一瞬の出来事の筈なのに、私にとってはその全てがスローモーションに見えた。
落ちる刹那、ワイバーンと戦闘していた筈の彼と視線が絡み合った。普段なら前方の敵から視線を外さない筈なのに、珍しいな…なんて、頭の隅で思いながら


「ーーーーっ」


一瞬、ほんの刹那に、垣間見た彼の顔は、珍しく焦りや驚きと言った感情が読み取れた。

ーーー驚いた、貴方もそんな顔するんだね…

己が絶体絶命の筈なのに、なのに、彼の顔を見たら安心してつい口元が緩んで仕舞った。
貴方のそんな顔見る事が出来たなら、偶にはこんな無茶も良いかもね…?

スローモーションで流れた光景から目を逸らせば突如として感じる浮遊感、次に襲いくる衝撃に備え、私は最短で出来る限り強固な防御魔術を練り上げるのだった。



*孤独を抱えし獣の王*




ーーーーバキッメキッバキバキッ!ドゴッドサッ…ッ


「〜〜〜〜〜ぅっゴホッゴホッ…ゲホ…ッ」


途中途中の枝を折りながら、落ちた直後の衝撃は、言葉が出ないくらいの衝撃だった。
地面に衝突した時に、強く背中を打ち付けたらしく、肺に溜まってた空気が一気に抜け、酷く咳き込んだ。

苦し…っ息が、出来ない…っ

息しているのがやっとの状態で、生きている、意識があるのが奇跡と言えるくらいだった。
幸いにも落ちた地面が硬い岩などではなく柔らかい干し草の上であったのが良かった。
頭を地面に強く打ち付けなかったのも運が良かったし、地面が柔らかく打ち付けてもそれ程衝撃にならなかった様で、大きな怪我をしなかったらしい、それに落ちている間に防御魔術を展開したのも良い判断だった。
最短で練り上げたモノだから完全な防御は出来ず不安はあったが、それでも無いよりマシで幾分かの衝撃を吸収してくれた様だ。

……まだ身体は痛みで動かないが、良かった、コレでひとまず安心出来る。

それにしても、とんだ災難に遭ったものだ。

極小の特異点の気配を観測したとの報告を受け、急いでシヴァを起動しグランドオーダーすると、目の前に現れたのは鬱蒼と茂る森、そしてその中央に悠然とそびえ立つひとつの岩山を発見した。
どっからどう見ても岩山が怪しいと皆の意見が一致し、岩山を登っている最中、突然ワイバーンの大群に襲われた。
襲われ、蹴散らしている時の最悪、事故とも言えるが…まさか自分がこんな目に合うなんて思いもしなかった。

呼吸を整えて、やっとの思いで絞り出した言葉で「ド、クター…っドクター、こちらっ名前、応答を願います…っ」と数度呼び掛けてみるが、応答は無く、砂嵐の様なノイズが流れるだけだった。
やっぱりダメ、か…、きっとグダ男やマシュ達と離れ過ぎてしまったから、カルデアの目(観測)から外れてしまったんだ。

…コレは不味い、早急にみんなと合流しないと、私自体の存在が危うくなってしまう。
幾ら、聖杯としての機能を備えていても特異点での私は、異物その物だ。ドクターやカルデアの人達の補助無しには私の中の聖杯がどんな魔力暴走をするか分かったもんじゃない。


「(……かと言って、この壁を登っていくのも…)」


身体が起き上がれないまま、逆さまの視界で、目の前にそびえ立つ壁、基、私が落ちてきた崖を見上げた。
それを登って行くのはきっと至難の技だ。

それにーーー


「(それに、周りに無数に感じるこの気配、コレは…)」


微量な魔力を纏い、こちらの様子を伺いながら動く無数の気配……コレは多分、今“私の居る場所”の主達だ。
今は警戒しながら様子を伺って居る様だけど、それがいつ襲ってくるか分からない。
故に下手に動く事も叶わず私も大の字のまま干し草、基、“獣の巣”から動けないでいる。

ーーー可笑しいとは思ったんだよね…

崖下の、それも人間が手を付けてない森に、ポッカリと良い具合に木々が薙ぎ倒されている場所が有って、尚且つ、其処には良い感じに干し草がたくさん敷き詰められていて、その干し草に良く目を凝らせば無数の獣の毛と何かの骨が混じっており、そして密かに香る獣臭……それが意図的に作られた物でないと言うなら何になるのだ。

等とひとり頭の中で冷静に状況判断をしていると、

ガサリッと一際大きな音を立て前方凡そ4、5メートル先の茂みが揺れ動き、バキリッとした何か大きな巨体が乾いた枝を踏み締める音が響いた瞬間、ハッとしてそちらに視線をやり、音を立てた獣の姿を確認した所で「…嘘、でしょ…っ…」と口元が歪に歪み本音が口を突いて出た。


目の前、前方に現れたのは、

紛れも無い巨大なーーー複合獣- キメラ -だった。


私が驚愕しているのは目の前に現れた存在が“キメラ”だからでは無い。

ここの主人が普通の肉食の獣では無い事くらい初めから推測出来ていた。だが、目の前に現れた獣は私のその予想を遥かに上回る“大きさ”をした存在だったからだ。
恐らくこの群れのボスらしき存在であろう風格と大きさ、そして何より、通常のキメラとは何度か対峙した事があるのだが、この獣- キメラ -からは今まで感じた事の無い様な、膨大なまでの威圧感と殺気が感じ取れた。
そして密かにだが、私は、この獣に何か引っかかりを覚えたのだった。


ーーーガサリッと、その獣の付近の茂みが揺れたと思ったら、少し小ぶりな数頭のキメラが顔を覗かせた。
大きさは目の前の巨大なキメラよりは劣るが、しかし、それでも私に比べたら大きい方だ。


我知らずギリリッと唇を噛み締めていた。
恐怖と絶望がジワリジワリと全身を支配する感覚に、躍起になって脳味噌が考えるのを放棄そうになるのを如何にかこうにか抑えるのに精一杯で、じんわりと滲む汗、上がる呼吸、震える身体と上げそうになる悲鳴と今直ぐにでも此処から逃げ出しそうになる脚を無理矢理踏み止めて、ジッと相手の様子を伺う。

キメラもゆっくりとした動きの中で、鋭い眼光がこちらの様子を伺っていた。
きっと、私が一歩でも、指先一つ、身動ぎ一つでもしたらその巨体で、鋭い爪と牙で襲い掛かってくる事だろう。

どうすればこの状況を脱する事が出来るだろうと、悩めば悩む程、心底焦り動揺する自分が居る事を思い知らされる。
情けないと、己に舌打ちをしたい。
そんな事したらこの展開がどう転ぶが分かったものでは無いから今は出来ないが出来る事ならしたい。盛大にしたい。切実に。


ひとりでそんな事考えている間に、ボスらしき巨大なキメラの隣に現れた(ボスに比べたら)小振りなキメラがグルルルと唸り声を上げた。
眼を血走らせ、牙を剥き出しにし、口の端しからは涎が垂れている事に気付き、本能が警鐘を鳴らす。

ーーーマズい…っ

と、そして、そのキメラが体勢を低く取ったことにより、いよいよ本気で命の危機である事を自覚する。

今手持ちにある魔具と自身の着ている礼装を必死で思い出して、先程のワイバーンとの戦闘でかなり消費した事を考えると、残り数が限られてくる。
ほんの少し、ほんの数十分、ほんの数分、時間稼ぎが出来れば良い分だけの数しか持っていない。

しかも今の自分は崖から落ちた事により負傷して居る。
良くて打撲、悪くて骨折、捻挫だ。
そんな状況で、サーヴァントやカルデア、グダ男とマシュの援護無しでキメラと対等にやりあえるなんて考えていない。否、もし仮に己が万全の状態で合ったとしても、この数のキメラとやりあおうとは思わないだろう。

きっとこの状況では“逃亡”が最善の策に違いない。

それでも今は、やるしか無い。
いや、やらなければならない…

キメラから視線を外さずに、見えない位置からゆっくりと指先の感覚だけを頼りに腰のウエストポーチに手を掛ける。


きっと、其れが合図だったんだ。


群れのボスらしい巨大なキメラが眼光鋭くして、私を見ていた。

そして、まるで其れが、合図かの様に、


ーーーー吼えた。


空気の、大気の揺れを、振動を、
ビリビリと痛いくらい感じる殺気を、
腹の底から湧いてくる恐怖を、


私は、きっと忘れない。否、忘れられない。


震えた指先を迫り来る眼前の敵 - キメラ - へと向ける。
標的を確認して、呼吸を無理矢理にでも整える。迫り来る恐怖に向かって、虚勢を張って大声で告げた。


「ーーーーッガント…ッ!!!」



コレがお前の“死”で有るとーーー



 


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