擦鳴+九尾
「お前がいるから!」
意味が分からない。
「俺の家族を返せ!」
どうやって?
金色の髪をした1人の子供を1人の男が殴りつけた。
泣きながら、男は小さい子供を拳で殴りつける。
普通のする事ではない。
だが、其れは実際に起こっているのも事実。
3年前、木の葉の里を襲った九尾襲撃事件。
突如として現れた九つの尾を持つ尾獣。
多くの犠牲と悲しみを生んだ其の事件。
当時の四代目火影である波風 湊と渦巻 櫛奈の間に生まれたのが、此の金色の髪をした男の子。
名前は渦巻 鳴門。
四代目火影の実の子である鳴門が何故此のような仕打ちをされているのかと言うと、鳴門に九尾を封印したからである。
実の親である波風 湊が、生まれたばかりの実の子の臍に。
鳴門を残し、波風 湊と渦巻 櫛奈は其の時に命を失った。
2人が必死になって繋げた命が今、里の大人たちにより失いかけていた。
「お前がいなきゃ!」
ーガシっ
男が殴ろうとした手を、受け止めた。
「Σなっ」
誰が?鳴門がだ。
「…」
其の小さな手で、受け止めた其れを払う。
「つまんない」
「?」
「つまんないつまんないつまんない」
其れまで俯いていた顔を上げて、鳴門は男を見た。
「Σひっ」
凍るように冷たく、そして、感じた殺気。
男は恐怖のあまり尻餅を付きながら鳴門から逃げるようにして離れた。
「俺は人間なんだ。九尾じゃない。
封印したのは四代目で、俺の意志じゃない。
お前の家族を殺したのは九尾で、俺じゃない。
俺の腹に九尾がいるからって其れをネタにストレス発散されても物凄く困る。
其の理由1、俺がダルい。2、面倒くさい。3、痛い。4、ウザい。
5、我慢してたらこっちがストレスでどうにかなりそうだから、いっその事殺しちゃいたいくらいな気持ちになってくる…」
『鳴門』
突如として鳴門の横に現れたのは、白髪の男だった。
「…九離魔(くりま)」
そう呼ばれた男、180cm近い長身に短い白髪、真っ赤な瞳。
整った顔で所謂美形。
『お主が手を汚すまでもない。こんなハエ儂が何時でも潰してくれようぞ』
「…好きにしろ。ただし、食べるなよ」
『…』
「食べるなよ?」
九離魔と呼ばれた白髪の男は、少し拗ねていた。
『儂の楽しみを取る気か…』
「誰が見たいんだよ、人間食う所なんて」
『…見なければよいではないか』
「そうゆう問題じゃない。兎に角食べるなもし食べたらアレ1週間抜き」
『…、分かった…』
「つまんないから俺帰る」
鳴門は男に背を向け、此の場を立ち去った。
『やれやれじゃの』
残された男と九離魔。
『さて…』
ゆっくりと向けられた視線に、男は恐怖を覚えた。
『よかったの、人間。鳴門の機嫌を損なわずに済んで』
「…?」
『…だとしたら、儂が来る前に死んでいたぞ』
其れても、死ぬのには変わらないが。
『本来なら此の侭食ってやろうと思ったが、止められたからの。
鳴門に感謝するんだな人間』
九離魔の言う事はが理解出来ずにいた。
食ってやる?鳴門に感謝?
全てにおいて理解不能だった。
『取り敢えず、死ね』
ーガシッ
男の首を掴み、持ち上げた。
『おぉ、そうじゃった。冥土の土産にいい事を教えてやる。
お前らが喚きながら恨んでおる九尾じゃが…』
「っ…?」
『此のーーじゃ、恨む所を間違えるでない』
死の森、深部。
何重にもかけられた結界を潜り抜け、高度なトラップそして移動系の幻術。
『…やはり此処におったか』
全てをクリアした時、初めて見える光景。
「だって此処俺ん家だし」
一件の家が建てられている。
其れは鳴門が木遁で作った家だった。
電気ガス水共に街にある仮の家から引ている。
「…食べてないようだね」
『お主が食うなと言ったじゃろうが』
「九尾、冷蔵庫の中にアレあるから食べてもいいよ」
『おぉ!』
九離魔と呼ばれた男、実は鳴門の腹の中に封印されていた九尾である。
鳴門が口寄せを少しアレンジして、九尾の実体化に成功したのだ。
其れからと言うもの、ちょくちょく呼び出しては気分転換の如く木の葉の町をフラフラとしていたり、暗部の任務で一緒に暴れたり。
そして、最近九尾は甘いモノが好物となった。
木の葉の甘味処のお持ち帰り可能な菓子を手土産に買って帰っていた。
「さて、俺も食べようかな」
此の家の中は複雑。見た目は普通。中身が、複雑なのだ。
玄関開けたらすぐ台所、リビング、と隔てがない広々とした空間が広がっている。
『そう言えば鳴門よ、最近また増えたんじゃないのか?禁術書』
「あー、うん。任務で国1つ落とすのとか入ってきてるからね。灰になるのは勿体ないだろ?
俺読んだ事ないヤツだし」
夜の任務中、漁っていたりする。
手当たり次第に禁術書を持ち帰っていると、其処はもう溢れかえっていたり。
「また増築しなきゃなー…」
此の家には、地下がある。
研究室や書物庫などなど、一般的な家庭荷は有り得ないモノが沢山存在している。
『確か今夜も国1つ入っておったな』
「あれは国じゃなく、村だよ」
『村なら禁術書はあるまい』
「馬鹿だな九尾は。ああゆう所に秘蔵みたいなのが眠ってたりすんの」
探す気満々、持って帰る気満々な鳴門に九尾は苦笑い。
小さな村にだからこそ、とっておきがある可能性が高い。
殆ど敵にも通用するような、そんなモノが。
「今日は徹夜かな」
『子供は寝て育つと言うじゃろ、無理に徹夜する必要はない』
「新しいのが手に入らなかったら寝るよ、心配しなくても」
『…』
こうゆう時の鳴門は何も言っても無駄だ。
どうせ新しく禁術書が手に入れば徹夜してとことん没頭するのは明白で、何度注意したところで聞く耳は持っていない。
其れに付き合う九尾も、かなりの溺愛っぷりを感じさせる。
此の鳴門に心を開き、まさかの大妖怪と唱われた九尾の妖狐がこんな小さな子供と殺生しつつも一緒に暮らしているなどと。
『親心、かの』
「え、何?」
『いや、何でもない』
「ふーん」
『よし、鳴門。甘味処へ行くぞ』
「さっき食べたばっかじゃん」
『アレで儂の腹が満足すると思うな!』
「行くなら九尾だけで行ってよ。
俺、此れから新術開発に専念するから。
あ、お土産よろしくー」
そう言って鳴門は地下へと降りていった。
『うむ、つまらんの』
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