牛島選手の追っかけを辞めたい。 | ナノ

番外編



「若利くん...あの女何?」
「あの女、とはなまえのことか?」
「そう」

牛島は顎に手を当てる動作をし、少し考えた後「そうだな...」と珍しく言葉を濁そうとしていた。

「ファン、だ」

そう答えるが質問者の顔は納得せず、と言った表情でマスクをずらしペットボトルの水に口をつけていた。

「何か迷惑なこととかされてたら、ちゃんとマネージャーに言った方がいいよ」
「いや、大丈夫だ」
「ふぅん」

自分から振って来た話のくせに、さほど興味はなかったのか佐久早はそのまま「お先」と帰って行った。佐久早はそのまま出待ちのファンには目もくれずスタスタ足速に歩いていると「若利くんまだかなぁ」と声が聞こえ思わず視線を上げるとあの女、と目が合ってしまう。げ、と思い視線を逸らそうとするが先に話しかけられてしまい思わず立ち止まってしまう。普段の佐久早を知っているファンは少しどよめいており、様子を伺っているようだった。

「?あ、ジャッカルの...」
「...」
「え、何?怖いんだけど...」
「若利くんが優しいからって、あんまり変なことばっかりすんなよ」
「は?!何なの?してないし!」

なまえはいきなり他選手、しかもアドラーズではなくジャッカルの選手に釘を刺されて怒りより驚きが勝っていた。む、っとした表示で佐久早のことを睨んでいるが自分から吹っ掛けた割に佐久早は早々に興味を無くしていたようでその場を去ろうとしている。

「なまえ、と佐久早か」
「若利くん...!お疲れ様!今日もかっこよかったよ!好き!」
「...うるさ」
「ねぇ!なんなの!若利くんと話してるんだからほっといてくんない?」
「若利くん、コイツ本当に困ってるなら俺から言うけど」
「はぁ~~~~?」

佐久早となまえが言い争う中、牛島だけがいまいち理解できていないようで周りのファンもざわつき出していた。慌てて牛島のチームメイトが井上を呼びに行く。

「待ちな?若利くんが、わたしのこと迷惑って?言ったの?」
「...言ってないけど、若利くんはそういうの直接言わないだろ」
「言ってないなら違うじゃんね?!」
「佐久早、心配はありがたいがなまえは少しだけ声が大きくて俺のことが好きなだけだから何も心配することはない」
「...!若利くん...!好き!結婚しよ!」
「ありがとう。だが、いつも言っているが結婚はしない」
「あっそ。まぁ、若利くんがそう言うなら別に」

散々騒ぎ立てた原因の張本人でもある佐久早はまるで最初から無関係、興味などなかったかのようにその場を去って行く。後ろからなまえが思わず舌を出して「ばーか!」と罵ると牛島に咎められた。

「こら、辞めなさい」
「...だって、ひどくない?さっきの人」
「佐久早も悪い人間ではないんだがな。まあ、なまえとの相性は良くはないだろう」
「え、じゃあわたしと若利くんは?」
「どうだろうな」

ふふ、と笑って見せる牛島の笑顔になまえの胸は完全に撃ち抜かれ先程の佐久早のことなどもう頭の中には何も残っていなかった。ご機嫌でなまえは牛島と話していると、慌てた様子で井上が走ってくるので2人できょとんと息切れした井上を見る。

「井上さんどしたの?忘れ物?」
「もう時間か?すまない」
「ち、ちが...!なまえさんが佐久早選手と揉めてるって聞いて、っはぁ」
「心外すぎるんだけど!揉めてないし!なんならわたし一方的に怒られて被害者なんですけど?!」
「っはぁ。怒られたって何したの」
「ちが、!何もしてないの!まじで!若利くん早く来ないかなって待ってたらあの人が目の前で止まっていきなり若利くんに近づくなってキレてんの!何?!若利くんのこと好きなの?!わたし同担拒否なんだけど!!!」

またもやなまえの声に周りのファンがざわつき出す。井上もそれに気づき、なまえに声のボリュームを落とすようにお願いし今日のところはこれでごめんねと切り出して牛島を回収しようとする。

「ごめん!本当、今度またゆっくり話せるようにするから、今日はごめんね?」
「...言ったよ?井上さん今言ったからね?」
「う、あ、はい。じゃあ牛島連れてくね」

他の選手と自分のチームのファンが揉めてしまったとなれば大問題だと内心冷や汗をかきながら牛島を早く連れて行こうと急ぐ。が、牛島は井上を静止しなまえの方へ一度振り返る。

「今日も、応援ありがとう。またな」
「うん!また次もいっぱい応援するね!」
「気をつけて帰るように」
「若利くんも、気をつけて」

ばいばーいと手を振るなまえは、とても嬉しそうに見えて同時に牛島は少し話し足りないように見える。井上は案外この2人、と一瞬考えるが普段のなまえの素行がよろしくないことも良く知っているので今のはなしなし、と思考を停止させた。そしてそのまま牛島に先程の経緯を聞くも、周りが騒ぎ立てるほどのことでもなかったようでやはりなまえの声が大きいのと見た目が目立つ為何かあればすぐ騒ぎになってしまうせいだなと溜息をつく。牛島の前だけでは大人しくしたり猫被ったりするわけでもなく、牛島の前でも平気でファン同士で喧嘩したり出来るから大したもんだと井上は少し感心してしまっていた。もちろん、面倒ごとは辞めて欲しいと言うのが本音でもあるが。

その夜、牛島のスマホに佐久早から「今日は面倒なことしてごめん」と連絡が入っていたが、牛島は本当になまえと佐久早が揉めていた原因に心当たりがなかったようで「構わない」とだけ返信をすることにした。次のジャッカルとの試合も、佐久早となまえが言い合いをしているところを目撃されていたが佐久早がファンと進んで話をすること自体が珍しい為なまえの悪名はアドラーズファンだけに止まらず、気づけばジャッカルファンにまで轟いてしまったとか。


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