牛島選手の追っかけを辞めたい。 | ナノ

04



あの後、気付いたら2人とも夢の中にいて朝から若利くんに今後のことを説明すると怒られた。うん、結構ちゃんと怒られました。

夜になって仕事も終わり、若利くんの家に着くとまだご機嫌は斜めのようで。

「なぜ言わなかった」
「いや、言おうと思ってたんだよ?」
「聞いていない」
「...ごめん」
「俺はそんなに頼りないか?」
「違うって!」
「口先だけで結婚しようと言っていたと?」
「も〜!そんなこと思ってないよ」

若利くんがここまで怒ってくるとは思っていなくて、申し訳ないなぁと思いながらも愛されていることを実感してつい頬が緩んでしまう。

「若利くん、機嫌直して?」
「別に、悪くない」
「ふぅん」
「ただ...もっと、その」
「うん?」
「ちゃんとしたところで渡すつもりだった」

機嫌が悪い、と思っていたがどうやら拗ねている様子だった。納得がいかないような表情でポケットから四角い箱を出してわたしへと差し出してくる。

「こ、れ」
「ああ。去年買っておいた」
「去年?!」
「いつでもなまえに渡せるように」
「嬉しい...!」
「俺と結婚してくれ」

四角い箱の蓋を開けながら、若利くんがそう言いわたしの指に指輪を。ロマンチックのかけらもない状況に、涙より笑いが込み上げてきてこういうところがわたし達らしいなぁと思ってしまう。

「はい、喜んで」

満面の笑みでそう伝えると若利くんも微笑んでくれて、そっと唇を重ねる。優しい、優しいキスだった。

そして、善は急げと言わんばかりに入籍も済ませ、若利くんの誕生日に合わせて引っ越しをして今日から一緒に住むことになる。もともと借りていた若利くんの部屋は手狭だったので2人用に新しく借りて、若利くんは先に暮らしてくれていた。ずっと遠距離だった若利くんと、朝起きておはようを言って夜寝る前におやすみを言えるのかと幸せが込み上げてくる。

駅で待ち合わせしていて、若利くんを見つける。ただ立っているだけなのにかっこよすぎて目が眩みそうだった。駆け寄って名前を呼ぶと「なまえ!」と嬉しそうに名前を呼んでくれる。わたしの左手と、若利くんの左手にはお揃いの指輪がキラキラと光っていた。

「お誕生日!おめでとう!」
「ああ、ありがとう」
「今日から、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく頼む」

重ねられた指から伝わる愛、わたしからもたくさん若利くんに愛を伝えれるようにきゅっと力を込める。2人で一緒に家に帰って、2人で食事を作って、2人でお風呂に入って、2人で眠る。特別なことが何もなくても、若利くんと一緒に過ごす時間そのものが特別で。

いつかきっと、2人ではなくなってしまうんだろうけど今はまだ2人を満喫したいなぁと思いながら、若利くんを見つめる。

「子供が出来たら、家を建てよう」
「ねぇ!!だから!いっつも気が早いんだって!」
「庭でバレーの練習が出来ればあとは構わない。なまえに任せる」
「わたしの話、聞いてる?!」
「ああ、聞いている」

絶対聞いてないよね?の言葉は若利くんによって唇ごと食べられてしまい、そのままスッと抱き上げられる。

「今日は俺の誕生日だから、一つわがままを言っていいか?」
「...なに?怖いんだけど」
「なまえが嫌だと言っても、止めたくない」
「逆に止まってくれたこと、ある?」
「...ある」
「ちょっと!ないよ!」
「幸せにする」
「もう、幸せになってるよ!」
「なまえも、俺たちの家族も、全員まとめて俺が幸せにする」
「ふふ、かっこいいなぁ、もう」

でもね、気が早すぎるよ?なんて言葉はもう口するのは野暮な気がして若利くんに連れられて寝室でゆっくり時間をかけて抱き合った。若利くん、産まれてきてくれてありがとう。

牛島なまえ、まだ慣れない名前で書類にサインをしながらその名前を指で撫でる。

10年前の自分に言っても信じてもらえない、まるでおとぎ話の主人公の様な自分の人生に、わたしはきっとこれからも幸せが待っている気しかしなくて。

若利くんの追っかけを辞めて。色々あって、わたし、お嫁さんになりました。待って、嘘じゃないよ?ほんとだよ?

end


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