牛島選手の追っかけを辞めたい。 | ナノ

01



これはあの子も知らないわたしの物語。

昔から親からほったらかしで育ったわたしは、お金はあるけど一緒に過ごす時間はないそんな家庭で育った。愛に飢えていたわたしは中高と彼氏を作り取っ替え引っ替えし特に続いたり、本気で好きだった人なんて居なかった。ただわたしを求めてくれれば答えたし求められることが嬉しかった。

そんなわたしが現実の恋ではなく追っかけ行為にはまるのは今思えば必然だったような気がする。舞台俳優、地下アイドルと手当たり次第に金と時間をかけ飽きてはやめるの繰り返しだった。大学受験もすんなり終わり、暇を持て余していたわたしは新しい推しを探していた。

「地下ドルも俳優も飽きたんだよね〜〜現場多すぎると大学行ったら全通できないし程よい推しいないかな〜」
「大学行ってもバイトしないんでしょ?」
「うーん。しないね」
「じゃあVリーグは?土日しか基本試合ないって聞いたけど」
「Vリーグって何?」
「バレーボールだよ!」

当時のオタク友達に教えてもらい、その足でわたしは近場でやっていたアドラーズの試合を見に行く。

これが、わたしと若利くんの出会い。

「え、なに?試合終わったら無銭で話せんの?」
「みんな色紙とかにサインもらってるみたい」
「油性ペン持ってる?わたし、あの人がいい」

そうやって指刺したのは実は若利くんとは違う海外の選手。今思い出しても名前も顔も覚えてない人だけど今まで外国人の方を追っかけたことがなかったので興味本位だったんだと思う。

友達から油性ペンを借りて列に並ぶが、もちろん剥がしなんていないし順番もあったもんじゃないしなかなか順番が回ってこずイライラする。そんな時横で暇そうに(っていうと語弊があるかもだけどわたしにはそう見えた)していた選手に声をかける。この際もう誰でもよかった。

「お疲れ様でした〜!めちゃくちゃかっこよくてファンになっちゃいました!」
「...?」

(は?何こいつ?返事しろよ!)

「よかったらサインここに書いてもらってもいいですか?」
「俺でいいのか?」
「え、?」
「あなたは先程あの列に並んでたように思うが」

まさか見られてたとは思わず、言葉を飲み込む。

「バレーは好きか?」

追い討ちをかけるように目の前の選手が質問を続けてくる。いつものわたしなら愛想笑いを浮かべて「はい!大好きです!」と答えていただろう。なぜか、この人の前ではわたしは取り繕ったりが出来なくなっていた。

「わかんない。でもあなた達が真剣にバレーしてるところはちょっといいな、って思った」
「そうか」

そう言って目の前で微笑む姿が、格好良くて一瞬で落ちた。バカみたいって思うでしょ?でもね、あ!見つけたって本気で思ったんだ。

「あなた名前は?」
「牛島若利だ」
「わたしはなまえ。明日も来るからバレー好きにさせてくれる?」
「ああ、それなら任せてくれ」
「若利くん、バイバイ」

握手した手が今まで触れ合った誰よりも大きくて、優しくて暖かくて。少し泣きそうになった。この気持ちに名前はまだつけれない。


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