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布団脇に正座して、未だ目が開けられず舟を漕いでいる雷蔵を見直す。
普段は夢の中にいる時間帯ゆえ眠気にまどろんでいるが、事実を唱えた次の瞬間には驚愕し、その丸い瞳を更に丸くすることだろう。そして先を心配し、為す術にどうしようどうしたらと悩み、眉間にシワを寄せたまま、またまどろむのかもしれない。
(まぁ、眠るのは良い)
だが如何せん彼が悩む姿は時に調子が狂うので、あまり見たくないものなのだ。しかし、何もせぬままで事態は好転しないのも事実。…致し方ない
「雷蔵」
「んー…」
「どうか、今から言うことを慌てずに聞いてほしい」
「…ん」
「実は私たち、中身が入れ替わってしまったみたいなんだ」
「んーそっかぁ」
良かったねぇ、と言いながらまた布団をかぶる雷蔵さん。ちょっと待て。絶対分かってないだろう。ねぇ
「雷蔵、これは真剣な話なんだ。おふざけじゃない」
布団の上からゆすってみるが反応はない。
「雷蔵」
「………」
「ねぇったら雷蔵。起きて」
「や〜だ…っ、ねむい」
「らーいーぞー起ーきー」
「静かにして」
布団の中でくるりと寝返りを打ち背を向ける雷蔵。
「雷蔵!だから、私たち入れ替わってるんだって」
「ん、…」
「今、私と君の体は互いに違う。爪も髪も歯並びも、私は雷蔵そのものだ」
「…………」
「事態は深刻なんだ。だから寝ているバヤイでは」
「あーもう!うるさい!」
起き上がった雷蔵はそのまま布団を足で蹴ると、私の両頬を掴み、吐息も吹き掛かる距離で私の瞳をじぃっと見つめる。
「……らいぞう?」
ぶすっとした顔のまま数回まばたきをし、一度小首を傾げたかと思うと、今度は無言で腰帯を解きはじめる。
「いやいやこらこら、ちょっと待ちなさい」
がしりと頭を掴むが遅し、ぷるん、と形容するが正しいほどに可愛いらしき雷蔵の息子が顔を出す。それをガンとした瞳で見つめる雷蔵。
まだ寝ぼけているのかと思い頭を撫でてやると、視線がかち合った雷蔵は小さな悲鳴を上げながら後ろに飛び退いた。押し入れの戸に強かに背中を打ち付けたようだが、本人はそれどころではないらしい。
「ぼ、ぼ、僕のと同じ…っ」
「いくら私でも夜伽の任務が入った時しか同じにしない」
「うっ、それも、やだ…けど、嘘…っ」
どっちだ。
かなり頭がこんがらがっているようなので、私は衝立ての向こうから鏡台を持ってきて、ドカリと雷蔵の前に置いた。
「さぶろ、何して…」
鏡台の埃避けの布をたくし上げようとすれば、小さく悲鳴を上げた雷蔵が鏡台を倒しに掴みかかってきた。
突然の所作に対応が遅れ2人して畳になだれ込む。
「びっくり」
「僕、も」
もちろんこれしきで怪我をするほどヤワではないが、鏡台を押し倒したら危ない。雷蔵に怪我がないか見下ろせば、腰に腕を回し己の顔を腹に押しつける雷蔵。
「どうしたの雷蔵」
「鏡、見えない?布下げて」
…そういう事か。はぁ
目をぎゅっと瞑る雷蔵の額にデコピンを1回。
「大丈夫だよ、雷蔵。顔を上げてごらん」
たどたどしく瞼を震わせ瞳を見せた雷蔵のほっぺをギュムッと掴んで引っ張った。
「……いはふはい」
「だろ?これ、しんべヱの顔なんだ」
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