環が突然、追われる様にマフィアを抜けて半年。
俺は、腕もすっかり治り狼に戻る。環の事を忘れたくて必死にやっていたらいつの間にか幹部になっていた。
環は紅龍会の包囲網を突破し今では消息不明。
―発見次第殺せ。
その命に俺は半年もグルグルと考え、最近少し吹っ切れて来た所だった。
そんな日、異邦人街を歩いているとマントで姿を隠した人物が不思議と目に入る。
外から来たのか、裏の人物なら珍しくないその姿に俺は何故、気になってしまったんだろう。
見つけなければ、その日は変わっていたかも知れない…。マント姿の人物の後をつける。
この半年で尾行の腕は上がっていると自負していた。けれど、その人物は段々、人気のない場所に入っていく。
バレた?いや、そんなはずは…。
そんな葛藤をしている隙に背中に衝撃を受ける。
力強く襟首を掴まれ壁に押し付けられる。久々に全身で味わう恐怖に頭では警鐘が鳴り響く。
まして、実戦のスペシャリストが意図も簡単に壁に抑えつけられているのだから自然と焦りが滲む。
「ぐ…っ、」
ほんの少し気道を抑えつけられ、苦しい。
「なんで、追ってきた…?ファウスト」
囁かれた声を境に一気に世界から音が消えた。
え…、今…なんて?
今どんな、声だった?
忘れられるわけがない、必死に忘れたくてがむしゃらにやってきたこの半年。
それが今、たった一言に崩されていく。
「な、んで…うそ…」
力無く、震える唇で紡ぐ。
「あー…やっぱアンタにはバレるよな…」
苦笑気味に「抵抗しない?」と聞かれ軽く放心状態の俺は無意識に頷いてしまう。
襟首から手が離れ、息苦しさから解放される。
その代わりに受けたのは、久しぶりに感じる暖かな温もり。
ぎゅっと、強く抱き締められる感覚に全身が震える。
「…会いたかった」
微かに呟いたその、声音は出会った時よりも大人に近づいていた。
こんな日が来るなんて、来なければ良かった。
もっと、違う形で会いたかった…。
「ふ…っ、」
そんな、感情とは裏腹に、意志は、環を求めていた。
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