nearly equal

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newmain1/2memo


5


男は、ブラから直食いというケダモノじみた行為に似合わない上品さでオレの豚まんを綺麗に食い尽くした。

「ああ、こんな所にまで肉汁がこぼれて…あ、こっちも、こっちにも…」

肉汁が〜とか言ってるが、さっきオレが見た感じじゃ、肉汁どころか食べかすひとつ残ってなかったようだったが…それでも、男の舌はぴちゃぺちゃと音をたててオレの胸板を這い回る。

「やっ…ぁぁん…めろっ…てぇ…!」

くすぐったさに身を捩りながら、オレは男の頭を押し退けようともがいた。しかしソファに押し倒されて両腕を封じられ、しかもオレより上背のある男の胸で腹を押さえられた体勢ではまともに力が入らず、軟体動物みたいにくねくねと身体を蠢かせていただけだった。

雪辱に来たというのに、屈辱の上塗りだ。必死に身を起こそうとするオレを嘲笑う如く、男は至る所悠々自適に舌を蠢かせ、時折肌を啄んでいく。

「あっ、ふぁっ!駄目だって…!」

くねくね身を捩らせているうち、中身を失ったブラがずり上がってきたので、オレは焦って声を上げた。さっきメロンパンを食い尽された時もそうだったが、オレにはそこに慎みと恥じらいで覆い隠さねばならん膨らみなんてないというのに何故こんな羞恥が込み上げるんだろう。ブラか、ブラのせいなのかこの羞恥心は。おのれ、ブラマジック…そして男に舐め回されている胸が、くすぐったくて熱くてもどかしくて何だか訳がわからない。
今まで体験した事のない刺激に、オレは完全にテンパっていた。薄いドレスを一枚しか着ていないというのに、全身がしっとりと汗ばんでいる。さっきまで肌寒いくらいだった空調も、これじゃまるで意味がない。

「ん、ん、…っ」

どうにも漏れてしまう呻きを堪えようと唇を噛めば、男の指が口に突っ込まれて邪魔された。
驚いて指を舌で押し返し口から吐き出すと、更に指を増やされて突き込まれてオレは半泣きになった。


「ひゃへろっえ!あうほんふ!」

舌を抑え付けられて舌ったらずになりながらも、オレが苦しさに堪らず叫ぶと、男の指がピタリと止まった。

「…なんだ、わかってたのか」

口から指が引き抜かれ、胸元から顔を上げた男はオレの目を覗き込んでくる。オレは涙ぐみながらコクコクと頷いた。

「覚えてないのかと思った」
「覚えてない訳ないだろ…お前はオレの、たったひとりの弟なのに」

そう、この男はオレの弟のアルフォンスだ。五年も会っていなかったし、最後に会った時の病床に伏せっていたか弱い姿からは想像できないくらい成長して…成長しきって…何食ってそんなに育ったんだよ畜生…まあ、驚くほど逞しく成長してたから見違えたのは事実だが、オレより色濃い金色の瞳や髪とか、母さん譲りの温和な顔立ちとか、忘れる訳がない。オレのアルフォンスだ。

本当はVIP席に入って声を聴いた時、すぐアルフォンスだって気付いた。何で此処にアルが、と泡食って一瞬気を失いそうになったが、むしろアルフォンスの方がオレに気付いていない様子だったし、親父はともかく連れのおっさんに、こんなふざけた格好の兄貴が居るなんて知れたらアルフォンスの体面に関わると思って知らぬ振りで通したのに。

「久しぶりだな…会えて嬉しい。お前が元気そうで、良かった」

立派に成長したアルフォンスを見て、オレは素直に喜びの言葉を口にした。それを聞いたアルフォンスもにこりと微笑んだから、オレはてっきり久方振りに感動の対面を果たした喜びを、目の前の愛しい弟もまた感じてくれている――とばかり思っていたんだが、

「兄さん、先ずは僕に謝って。」

笑顔を浮かべたまま穏やかではない言葉を口にし、笑顔を浮かべたまま穏やかではない目つきをしている弟の視線を一身に受けたオレは、更に涙目になってしまった。


一瞬、何か聞き違えたのかと思った。

「え…何だって?」
「謝って。」

聞き返したけど返ってきたのは同じ台詞だった。アルフォンスの視線に震え上がりながらも、オレの頭の中には疑問符が乱れ飛ぶ。

今でこそ赤いスリットドレスなんか着てふざけた格好をしてるオレだが、こう見えても誠実な人間だ。弟のアルに対しては特に。いや、実のところ誠実なのはアルに対してだけだ。友人知人には兄馬鹿と評される対弟にのみ誠実なオレは、心配をさせたくなかったから実家を飛び出した時もアルだけにはちゃんと落ち着き先を手紙で伝えた。そしてアルに相談も報告もなく家を飛び出したオレの身勝手を謝った。
なのに返事ひとつくれなったのはアルの方だ。だから、アルはオレの家出を怒っているんだとばかり思っていた。

よくよく考えてみたら、オレはアルにちゃんと連絡をしたんだから、アルがオレの勝手を怒っていたとしても、こんな剣呑に謝罪を求められなきゃならないような事は何もしていない。むしろお前が返事も寄越さなかった事をまず謝れよオレがどれだけ傷付いたと思ってんだよ!と、そう思いながらも恐る恐るアルフォンスの顔色を窺うと、やっぱり目が笑ってない笑顔を浮かべた、愛らしいけど恐ろしく怖い顔があった。
即座に地べたに額をこすりつけて土下座しそうになったオレだったが、そこはぐっと堪え、アルが求める謝罪が一体何に対しての物なのかを知る為に口を開いたオレだったが、

「…いったい、何をそんなに怒っていらっしゃるのでしょうか…?」

視線で人が殺せるならオーバーキル×10くらいのアルの眼光に心身ともに痩せ細ったオレは、今にも泣きそうな声しか出せなかった。


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