nearly equal

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この国でその色を纏う事が出来るのは、玉座に座る御仁のみ。金絹で刺繍された龍の豪奢な衣装を身に纏う青年の姿は、見紛う事なく皇帝陛下その人だった。

「一日中籠もってたのか?…うわ、涎の跡付けて。こんな所で寝るんじゃないよ」

歩み寄る皇帝に、慌てて萎縮しつつ頭を垂れる。青年――エドワードの手を握ったままだった事に何故か羞恥して、そちらも慌てて手離した。

「いつのまにか寝ちまったんだよ」
「…その寝汚さ、俺は嫌いじゃないけどお陰でランファンがお冠だ。後で折檻されても知らないからな」
「うげ……」

初めて間近で聞く御声に萎縮しつつも、僅かな違和感を覚えた。
下級文官に過ぎない自分の存在など目に入らないのは当たり前の事なのだが、わざわざ無視するようにエドワードに話しかけるその言葉の端々に、エドワードに向けられた物ではない苛立ちのようなものが感じられた。

「その調子じゃ食事も取ってないだろ、行くぞ」
「あ、待てって」

俯いた視界に、黒い革靴が割り込んだ。
驚いて顔を上げると、燭台の僅かな灯りに浮かび上がった黄金の輝きに目が眩んだ。

「あんた、名前は?」

再び差し出された手に目を白黒させていると、はにかんだ笑顔を返された。

「寝袋、用意しといてくれよ」
「はは…」

苦笑しながらその手を握り返すと、少し離れた所から刺すような視線を感じて竦み上がる。
皇帝陛下が、稀にも見ない鋭い眼光で此方を睨んでいた。






「じゃ、またな」

無邪気に笑うエドワードを引き摺るように禁書庫を出て行く皇帝の後ろ姿を見送りながら、何が彼の人の不興を買ったのかと思い返してみるが、全くもって思い当たらない。

ふとエドワードが忘れていったらしい燭台が目について、初めて目にした眩いばかりの金の髪、金の瞳を思い返した。皇帝の怒りを買ったやもと戦々恐々とした心は、その美しい輝きに掻き消されて頭の隅に吹き飛んでいく。

「寝袋か…」

結局名乗れず仕舞だったが、エドワードはまた禁書庫に来るのだろう。その時に改めて挨拶をしようと、僅かばかり浮かれた気分になりながら誰も居なくなった書庫を出た所で、顔見知りの文官が慌てふためいて廊下を走ってきたのに出会した。

鋼妃様が見つかった、どうやら陛下が探し当てられたようだと泣き咽びながら伝える文官は、鋼妃の婚礼祝いの姿絵を家宝にすると宣言した程の崇拝者であった。
それを聞いて、自分が何を探して禁書庫に踏み入れたかを漸く思い出す。



どうやら、自分もまた西国の至宝に心奪われていたらしい。

西国では金髪は決して珍しくないと伝え聞くが、これほどまでに心惑わす色彩の髪を持つ人間ばかりが暮らすなら、西国と云う所は仙界なのか極楽なのか。
一度は訪ねてみたいものだな、と呑気に思いながら、鋼妃の無事を泣いて喜ぶ知人の肩を抱いてやったのだった。




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