愛しい名前を抱き締めて数秒、胸の辺りがじわりと濡れ始める。原因は彼女の目から滲み出る涙。彼女はいつも、僕が抱き締めると決まって涙を流す。


『トム…』

「どうしたんだい」

『トム…トム…』

「うん、何だい」


言いたいことがあって僕を呼ぶんじゃない。抱き締められるのが嫌で涙を流すんじゃない。
名前の背中に回した腕に力を込めた。名前の身体は僕に比べるとずっと小さくて、骨なんかすぐに折れてしまいそうだ。まあ折れてもすぐに治してあげるから心配いらないんだけれど。


「名前、大丈夫だよ。僕はわかっているから」


君が僕の名前をひたすらに呼び続けるのも、抱き締めるたびに綺麗な涙を流すのも、全部。
全部全部、僕のことを想うがあまりのことなんだよね。
僕への想いが名前のなかにいっぱいいっぱい詰まっていて、零れそうで溢れそうで止まらないんだよね。
だから君は僕の名を呼んで僕の腕で涙を流して、僕への想いを外に出して自分を保っている。そうだろ。
もしも君がそれをしなければ、君はきっと、僕への想いで溺れ死んでいるんだろうね。


『トム…トム、トム…』

「大丈夫、僕はここにいるよ。大丈夫だよ、名前」


他の奴には絶対呼ばせない、忌々しいファーストネームも、名前が呼ぶのなら悪い気はしない。
ねえ、僕への想いでいっぱいな君にいだく、このたまらない気持ちを、きっと人は愛と呼ぶんだろうね?


「好き。大好き。愛しているよ」


僕への愛で濡れた頬に手を添えて、誓いのようなキスをひとつ。

僕におくれよ
title by 愛執


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