猛暑

雨藤はその苦しさを表現したかのようにソファにぐったりと座っていた。
赤い派手なツナギ服の前を全開にし、上半身は脱いでいる。 白い薄手のTシャツがじっとりと汗で湿っていた。
「大丈夫ですか?」
突然、頬に冷たいものが触れる。
その心地よさに閉じていた目をうっすらと開けると、麦茶の入ったグラスを持った藤沢が心配そうに見ていた。
「……サンキュ。」
藤沢の手からそれを受け取り、自分の頬から離す。
少し体を起こして冷えた液体を一気に喉に流し込んだ。
乾いた喉が潤っていく。通る感覚が気持ちいい。
空になったグラスから口を離すと、藤沢の手がそれを持ち去った。
「ちょっとは落ち着きましたか?」
「ん……。」
立ったまま俺を見下ろす藤沢に頷いて返すと、安心したようにキッチンに戻って行った。
「暑くねーの?」
「今日はまだ平気ですね。」
戻ってきて隣に腰掛けて涼しい顔で答える。
重みでソファが沈み態勢が崩れたが、戻す力も出ずそのまま嵌った。
あまりに脱力する雨藤に藤沢が困ったように笑う。
「男性って体温が高いらしいのですが、僕は昔から低い方だったので。」
「せこいな。」
「そう言われましても。」
天井を向いたまま言うと、返答に困ったような口調で返ってきた。
あまりの暑さで思考がおかしくなったのかもしれない。
体温が低い方、という言葉があまりに甘美に聞こえて無意識に隣に座る男の手を取った。
藤沢の驚いた顔が見えたような気がするが、そんなことおかまいなしにその手を自分の頬に当てた。
「うわ、つめたっ。気持ちいいー。」
本人の言葉通り、その手は心地よい温度をしていた。
「さっきまで水触ってましたし。」
特に嫌がる素ぶりも見せずされるがままの藤沢がくすくす笑う。
「は? せこ。」
「洗いものですよ?」
しますか? という幻聴が聞こえた気がしたので無視することにした。
それが見透かされたのか藤沢はまた小さく笑う。
「んだよ……。」
男にしては細い柔らかな手の温度を堪能していると、するっと冷却物が消えた。
気だるそうな視線を向けると、藤沢は普段通りの柔らかな笑みを向ける。
「アイスでも買ってきましょうか。」
お夕飯の買い出しもありますし。そう言って腰を上げる藤沢につられて思わず体を起こした。
「一緒に行きますか?」
「アイス二本なら。」
「荷物持ちお願いしますね。」
「ならビール一缶追加な。」
「それは却下です。」
「じゃあ、おっさん呼ぼうぜ。荷物持ちで。」
「教授は出張中です。」
チッと軽く舌打ちすると腰を上げて藤沢の隣に立った。
「車。」
「はい。」
ぶっきらぼうに言う雨藤に藤沢がくすくす笑いながら返事をする。
鍵と財布を持つ藤沢を置いて雨藤が歩きだす。
「早くしろよ。」
雨藤は乱暴な言葉とは裏腹にドアを開けて待っている。
そんな不器用な優しさを分かっているのか、藤沢は穏やかな様子で雨藤の元に向かった。
うだるような湿っぽい暑さの中へ二人は出かけて行った。



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