陽炎日記
秋に焔の風が吹く

 風が吹くと、それに合わせて薄が揺れる。
紅葉した葉たちも揺れ、そのうちの数枚が木から離れた。
落ちた葉を踏みしめる足音が一つ。
「……ここか。」
焔はそう呟いて、顔を隠していた笠を僅かに上げ、目の前の村を見る。
秋の実りに賑わう村を一瞥すると、紅や黄色に染まり上がった山を懐かしそうに目を細めて見た。
  あれから数刻、焔は途方に暮れたように村に背を向けて歩いていた。
笠は外してあり、人の耳のある位置には実った稲穂の様な金色の髪と同じ色の狐の耳がついている。
「参ったな、この村も妖怪を恐れるようになっているとは……。」
そう一人呟き、深いため息を吐いた。
妖怪の世界の長である“妖姫”に人間界の様子を見て来てほしいとの任を出されてから半年。
各地を巡ってはみたが、どこも妖怪との縁を忘れ、恐れ、怯える人間ばかりになってしまっていた。
この村も、妖怪の世界の入り口に近いことから、両者の仲は良くなくとも、それなりの付き合いはあった場所だった。
それが今では、宿も借りれず、村に足を踏み入れただけで皆、戸を閉めるばかり。
「妖姫様、貴女の理想からは遠い世界へと変化しています……。」
色の薄い秋空を眺めて、焔が悲しげに言った。

 村外れまで歩くと、木々に隠れるようにひっそりと立つ小さな家が焔の視界に映る。
彼はふと考えてから、再び足を動かした。
お世辞にも立派とは言えない、古びた納屋のような家だった。
「すまない、誰か居るか。」
短い言葉が家に響いたが返事はない。
しかし、見たところ空き屋ではないようで、家周辺の整理はある程度されていた。
どうしたものか、と焔が周囲を見回していると、小さな人の姿を見つけ、そちらに向かう。
そこには、倒木に座り空を眺める小さな童の姿があった。
肩ほどまでの真っ黒な髪を秋の涼やかな風に揺らし、黒く大きな瞳は空を映している。
何度も繕い直した薄汚れた柿色の着物はもう小さく、ふくらはぎの半分が見えていた。
「おい、童。」
焔が躊躇なく声を掛けると、その肩がびくっと跳ね上がる。
おそるおそる振り向いた少女は、焔の姿を見て声も上げずに、ただ静かに瞳を見開いた。
予想よりも静かな反応に、やはり童の方が接しやすいと思いながら、先ほどの空き家を指差す。
「あれはお前の家か?」
焔の言葉に少女が小さく頷く。
彼女の返事に、焔は「そうか。」と呟くと諦めたように踵を返そうとした。
「っ……。」
しかし、離れようとする焔の服の裾を小さな手が掴んで、彼の動きは止まる。
引き留められた焔が、振り向くと少女は少し戸惑ったように顔を背けた。
「なんだ。言いたいことがあるならはっきりと言えばいいだろう。」
その様子に苛立ったのか、棘のある声色で焔が言うと、少女はびくっと身体を震わせて下を向く。
先ほどからまったく物を言わぬ少女に焔は、一つの答えが見つかったように、はっとして少女を見た。
「まさか……声が出ないのか?」
焔の言葉に、少女は顔を上げると、何度も頷いて返す。
「そうか。……すまなかったな。」
掴まれた手を振り解くこともなく、地面に片膝を付け、少女と同じ目線まで屈んだ。
真っ直ぐに焔に見つめられた少女は、不思議そうに何度も瞬きをする。
「文字は覚えているか?」
今度は声色に棘も含まれていなかった。
少女は首を横に振る。
「名を、教えることはできるか?」
焔の問いに、少女はふと考えると、木々に留まる鳥を見て、すっと小さな指で差した。
「……千鳥?」
山では珍しい、千鳥が周囲を見渡して、忙しなく動いている。
唇から零れた単語に、少女は僅かに微笑んで頷いた。
「千鳥、というのか。私は焔だ。」
焔がそう言うと、少女--千鳥--は小さく頭を垂れる。
そして、一生懸命に何か伝えように、自分の家を指差し、自分を差し、人差し指を一本立てた。
それをじっと見て考えていた焔が「ああ。」と納得したように声を零した。
「あの家に一人で暮らしているのか?」
焔の言葉に千鳥は頷き、彼の着物の裾を遠慮がちに引っ張る。
「……宿を借りても構わない、と?」
またも少女は頷いた。
彼女の対応に焔はふっと笑むと、小さな頭を優しく撫でる。
「恩に着る。」
優しい穏やかな声に千鳥は倒木から腰を上げ、家へと向かって駆けだした。
その後ろ姿を見ながら、焔は懐かしい思い出を見るかのような瞳で微笑む。
「ヨウは元気だろうか……。」
そう呟くと同時にふっと自嘲気味に笑った。
「心配することもないか。」
独り言を重ね終えると、焔は千鳥の向かった方向へと足を進める。
空は紅く染まり始め、紅葉した葉は、さらに燃えるような赤色へと色を変えていた。
 
 家の中は必要最低限のものしかなく、薄暗く湿っぽい。
千鳥は中に家に入ると小さな申し訳程度の火を灯す。
先ほどの鳥のように忙しなく動く少女を焔は何をするでもなく、ただ見ていた。
夕飯の準備だろうか、少女が台所と居間を行ったり来たりする様子を見て、ようやく焔が口を開いた。
「千鳥。」
少女は、ぴたりと動きを止めて焔へと体を向ける。
「両親や兄弟はいないのか?」
こくり、と小さく頷いた。
「一人で生活をしているのか。」
こくり、もう一度小さく頭が動いた。
焔は続けて口を開いたが、言葉を飲み込む。
そして、少し寂しげに「そうか。」と呟いた。
 質素な食事が終わり、千鳥はつぎはぎの布団にくるまる。
焔は壁に壁にもたれて、座ったまま目を閉じた。
夜更け頃になると、小さな体がくしゃみで何度も動く。
冬の近付きを告げる夜風は、すでに肌寒さを感じさせる。
隙間の多いこの家で、この小さな少女は何度冬を越したのだろうか。
くしゃみをくり返す少女に焔はそっと近づき、自らの姿を変えた。
それは、人と関わるために封じた姿だった。
薄い金色の、秋に実る穂のような色をした狐は、体を丸めた少女を包み込む。
銀色の月に照らされながら、温もりに安心した顔の少女を優しく見守り、眠りについた。
満月まであと二日。

***

 朝、千鳥が目を覚ますと、すぐにきょろきょろと辺りを見渡す。
昨日まで部屋にいたはずの姿が見えず肩を落としていると、台所から空腹を誘う匂いが漂ってくる。
少女はぱっと顔をあげると、慌てて匂いの元に向かった。
「起きたのか、おはよう。」
狐の耳と尻尾を持った青年が、千鳥を見て微笑む。
千鳥もとても嬉しそうに笑みを返した。
 この幼い少女はどのように生計を立てているのか、という焔の疑問は食事の後に解決した。
千鳥は、山を指差してから焔にぺこりと一礼する。
「……山に行く、ということか?」
小さな頭が縦に動いた。
このたった数時間で、焔は少女の表情や動きで言いたいことを把握できるようになっていた。
通じたことが嬉しいのか千鳥の表情が綻ぶ。
「山は危険が多い。私も共に行こう。」
焔の言葉に、千鳥は再び嬉しそうに頷いた。
 どうやらこの少女はずいぶんと山に慣れているらしい。
そう考えながら、足取り軽く進む少女の後ろを付いていく。
特に困る様子もなく、千鳥は次々と山菜を籠に入れていった。
実りの季節、というのをよく感じさせる紅い山には、様々な山の幸が育っている。
鮮やかな景色の中を二人はどんどん進んでいった。
「秋はいいな。」
まだ種が飛んでいない松かさを手に焔がぽつりと零す。
少し離れた場所にいた千鳥が振り返って嬉しそうに頷いた。
「いつも山に来ているのか?」
あけびに向けて伸ばしていた手を止めて千鳥は頷く。
どれだけ伸ばしても届きそうにない実を、焔の手がさっと掴んだ。
「これだけあれば十分だろう。もう戻ろうか。」
自身の背負う籠に実を入れて、黒い小さな頭を撫でる。
千鳥は素直に焔の言うことに従い帰路についた。
 家に戻り採ってきた山菜を整理すると、その大半を持って千鳥は村の方に向かった。
先ほど山に行った時とは異なり、重い動きで準備をする少女に焔は同行を申し出たが彼女は首を横に振った。
家に残った少量の山菜を納得がいかない、という顔で眺めながら焔は夕飯の下準備を少しずつ始める。
千鳥が帰ってきたのは夕方になってからだった。
着物のあちこちが土で汚れている。顔にも小さな痣が見えた。
そんな姿にもかかわらず、千鳥は焔を見ると微笑む。
しかし、焔の表情は硬いままだった。
「なぜ村に行くだけにそこまで汚れるんだ。」
少し低い声色に少女は笑みを消して俯く。
「何があったというんだ。」
苛立ちを含んだ言葉に小さな体はびくっと跳ねた。
縮こまる小さな存在に、焔は口を固く結んだまま手を伸ばす。
ぎゅっと強く目を瞑った千鳥は、次の瞬間、頭に温もりを感じてゆっくりと目を開いた。
不思議そうに瞬きをくり返す幼子に焔は申し訳なさそうな表情を見せる。
「すまない。」
その一言を合図にしたかのように、千鳥は涙を流し始めた。
そこに声はない。
しかし、彼女は今まで我慢していた分を吐きだすかのようにひたすら泣き続けた。
焔は片膝を地面に着けて、泣きじゃくる少女を静かに抱き寄せる。
彼女の涙が収まるまで、ただ静かに髪や背中を撫で続けた。 
 「……。」
泣きやんだ千鳥は袖を巻くって白い腕を焔に見せる。そこには、青い痣が点々としていた。焔は、それを唇を噛みながら見据える。
「村人、か。」
半分聞くように、そして、もう半分は決め付けたように呟いた。
視線を左右に動かしながら、千鳥は恐る恐る頷く。
「気にするな。周囲には誰もいない。いたとしても、私がいる。」
強い口調の焔に、千鳥はもう一度、今度ははっきりと頷いた。
「いつもなのか?」
再び頷く。
焔は袖を戻して痣だらけの腕を隠すと、長く息を吐いた。
そして、千鳥の肩に手を置いて真っ直ぐに見つめる。
「分かっていたと思うが、私は人ではない。お前たち人間が“妖怪”と呼ぶものの類だ。」
特に驚く様子もなく、千鳥は頷く。
「私は明日の夜にここを発つ。行くのは、妖怪などの人間の世に居場所のなくなった者たちが住んでいる場所だ。」
明日発つ、その言葉に千鳥は寂しそうに俯いた。
しかし、焔の表情は穏やかなまま、彼女の髪を撫でる。
「もしお前が望むのなら共に来ないか。」
優しい声が、千鳥の心の中にすっと入ってきた。
「……。」
濡れ羽色の目が稲穂色の目を真っ直ぐに見つめる。
嬉しさと不安が混じり合った瞳に、焔はまた優しく微笑んだ。
「私は迷惑とは思わない。私のことは気にしなくていい。」
焔の言葉を合図にしたかのように、千鳥は彼の手にその小さな指で触れる。
「共に来るか?」
千鳥は小さくこくんと首を縦に振ると、俯いたまま唇の両端を上げた。
そして、ゆっくりと唇を動かす。
――あ、り、が、と、う。
彼女の言葉を汲み取った焔は、優しい手で黒い髪を撫でた。

 村の明かりが消え、見えるのは頭上の光りだけとなった。
月の光りを受けたススキが銀色に輝き、風に合わせて揺れる。
満月と見違えるほど丸に近付いた月を見上げ、焔は長く息を吐いた。
脳内に蘇るのは、幼い少女の腕についた無数の青い痣。
「……。」
思い出せば思い出すほど、腸が煮えくり返りそうだった。
焔と親しい少女も、そうやって人間界に居られなくなったのだ。
「……ヨウ。」
懐かしい名前を無意識に口にする。
長い栗色の髪と無邪気な笑顔が瞼に映った。
彼女も、そして、千鳥も、人間なのに、人間世界に居られない。
なぜ、苦しんでいる者ほど笑おうとするのか。
「妖姫様、本当に人間というのは愚かで理解できない生き物です。」
まるで月に相手がいるかのように、焔は上を仰いで報告をする。
言葉を返さない月に、焔は静かに背中を向けた。

***

 翌朝、朝餉を終えた二人は向き合って座っていた。
「いいか、千鳥。今日の夜、私たちは妖怪の世界へと向かう。」
こくり。
「そこは妖姫様、という人間と妖怪どちらにも理解のある方が治める世界だ。」
こくり。
「私はその妖姫様に仕えている。寝床も妖姫様の住まう屋敷内にある。」
こくり。
「千鳥もそこに住まうことになるだろう。」
大人しく焔の話に頷いていた千鳥は、そこで動きをぴたりと止める。
「……?」
そして、焔の目を見て、小首を傾げて、いかにも不安そうな瞳を向けた。
「案ずるな、妖姫様はお心の広いお方だ。きっと千鳥のことも喜んで迎え入れてくれる。」
強張った表情を崩さないまま、千鳥はたどたどしく微笑んで頷く。
緊張する様子を隠せていない少女を窺いながら、焔は少しずつ自分の住む世界についての話を始めた。
基本的には人間界とあまり変わりはないこと。
中には人間にあまり好意を持っていない妖怪もいるので、あまり一人で出歩かないこと。(もし人間になにかした場合は妖姫が黙っていないのであまり心配はないが。)
「最後に、とても大事なことだが……。」
焔が声色を変えて静かに、はっきりと、真っ直ぐに続けた。
「妖怪の中には見たこともないような姿をしている者もいるだろう。しかし彼らを奇異の目で見たり、怖がってはならない。そういった眼差しは、とても寂しい思いをさせ、傷つける。」
声のない千鳥が避けられたように、言葉にはしなかったが千鳥は焔の考えを読み取ったのだろう。寂しさを含んだ瞳で、静かに頷いた。
「私を受け入れてくれたお前のことだ。なにも心配することはないだろうがな。」
不安そうな少女の頭を撫でて微笑む。少女は少しだけ嬉しそうに表情を和らげた。
「そういえば、初めて会ったときに驚かなかったな。」
頭を撫でながら焔は不思議そうに千鳥を見る。
千鳥はこてん、と首を傾げて狐の耳と尾を持つ目の前の青年を見つめ返した。
「こわくはなかったのか?」
小さな頭が縦に揺れる。
「そうか。」
その反応に、焔は嬉しそうに微笑んだ。
 出て行く前にしたいことは、と尋ねた焔に千鳥は掃除を持ち出した。
彼女が生まれてから、いやもしかすると彼女の先祖から暮らしていたかもしれない場所にはやはり思い入れがあるらしい。
しかし、住居の中に物はほとんど無く、千鳥以外の人間の住んでいた痕跡はまったく見当たらない。それでも千鳥は丁寧に作業を続けていた。
これから離れるのになぜここまで、というほど念入りに掃除をすると古びた納屋は少し綺麗になり、終えた頃にはもう空が赤く染まっていた。
「そろそろ向かう準備をしようか。」
そう言うと水に濡らした手拭いを片手に千鳥を手招きする。
「?」
大人しく従い焔の前に立つと、冷たい布が顔に触れた。
「!?」
びくっと肩をあげた少女の顔を焔は丁寧に拭いていく。
「そのまま行くと妖怪の方が驚いてしまいそうだからな。」
顔を拭くと、次は後ろを向かせて髪を撫でる。
その後、腕や足などの目立つ汚れを拭き終えると、一度手ぬぐいを洗い、自身の汚れもふき取った。
「さて、では向かおうか。」
世話になった手ぬぐいを再度洗い干した焔に、千鳥は小さく頷く。
二人で家を出て、二人で家に一礼する。
そして、焔は千鳥の小さな手を握って山の方面へと歩き出した。
 夜の山道はさすがの千鳥も怖いようで、一歩一歩確かめるように歩いていく。
焔は暗さなど気にしない様子で、彼女を気遣いながらも迷いなく歩を進めていった。
村から離れて人目がなくなると、焔は足を止める。
「千鳥、今から私のもう一つの姿を見せよう。」
突然の焔の言葉に千鳥は瞬きをくり返す。
焔は言うが早いか、金色の巨体へと姿を変えた。
「……!」
驚く千鳥に、大きな狐は微笑む。
「乗りなさい。」
声は確かに焔のものだった。千鳥はそれを聞くと安心したらしく、そっと稲穂色の毛に触れて、ゆっくりと獣に跨った。
月光を受けて煌々と波打つ身体が森を駆け抜ける。
少しの欠けもない綺麗な満月が、二人の道を照らしていた。
しばらくすると、獣は失速して足を止める。
「ここだ。」
そう言われた千鳥の目に映ったのは、水面が輝く池だった。
千鳥が地面に足を着けると、焔は姿を人型に戻り隣に立つ。
硝子の破片を散りばめたように光るそこに、ゆっくりと焔の足が向かう。
つま先が水に触れる。波紋が広がり、紅く鮮やかに色を変えた木々が映った。
「……!」
驚く千鳥に、焔は手を差し伸べる。
池から風が吹き上がり、髪や耳、尾が揺れる。
千鳥は小さな手をおそるおそる伸ばすと、そっと大きな手に触れた。
「……いいんだな。」
短い言葉だった、それでも千鳥の耳にはしっかりと届く。
少し目を伏せると、彼女の瞳に青い痣らだけの腕が映った。
「……。」
腕から目を離し、真っ暗な山に目を向ける。
千鳥を探す声も、頭を過ぎる温かい思い出も、何もなかった。
今度は焔を瞳に映す。池からの逆光で表情はよく見えなかった。
それでも、微かに触れている手からは温かさが伝わってきた。
小さな手に力が入った。
それが合図だったかのように、小さな人間の少女を引き寄せる。
そして、そのまま後ろに倒れた。
「……さよなら!」
音にならない声が山に響いて消えた。

 目を開けて、最初に映ったのは微笑んだ焔の顔だった。
「どこも痛くはないか?」
こくり、と頷くと焔の後ろに空が見え、千鳥は慌てて起き上がる。
「ったく、普通後ろから倒れこんで来るか?!」
聞き慣れない声に、千鳥は驚いて声の主を探す。
栗色の長い髪の人物が焔を見ていた。
「その場の勢い、というやつだ。」
「お前らしくねーな。」
「毒されたのかもしれないな。」
千鳥の前に片膝を着いたまま、その人物と言葉を交わす焔は、どこか楽しそうだった。
「……。」
「ヨウ、焔。この子が困っているんだが?」
呆然としていた千鳥の背後から、また別の声が聞こえる。
振り向くと、そこにはとても優しそうな妙齢の女性が立っていた。
その声に弾かれたように、二人は口を閉じて千鳥に目を向ける。
焔と言い合いをしていた女性が、膝を曲げてかがんで、千鳥に手を伸ばした。
戸惑いながらもその手を取ると、ゆっくりと立つよう促される。
「ようこそ、ってなんか変だな……うーん、あ、そうだ。」
女性がにっこりと千鳥に笑みを向けた。

「おかえりなさい。」


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