24

なれぬ馬に乗って疲れただろうと気遣われ、何度か休憩をはさみつつ一行はヴォルテールの城に向かっていた。1日もかからない距離だとは言われていたが、この調子で進んではたして1日でつくのかは不明だが。
正直これくらいで疲れるわけもないが、気づかわれることに対し反対する理由もない。

港町を抜ければすぐに、豊かな田園が広がっていた。どこまでも続く緑に、背後で手綱をひく男の手腕を知る。一人の農民がこちらに気づき、ぺこりと頭を下げた。


「到着したら」

「なんだ」

「何か読む物を用意してほしいと言ったらわがまま?」


どうせしばらくは帰れないのだ。こちらで過ごすにたってこちらの教養を身に着けることは必須だろう。発言ひとつで信用を失うこともある。
グウェンダルの胸に背を預けてそういえば、彼は意外そうに口を開いた。


「ほかに望みはないのか?」

「欲を言えば鍛錬くらいしたいけど、こちらのことをまずは知らなければお話にならないでしょう」

「私の城に書庫がある。さすがに王都には負けるが…グリエを共につけるならば、出入りは自由にしてかまわない」

「いいの?」

「ほかのところをうろうろされるよりは書庫に引きこもられた方がましだ」

「まるで私がすぐに脱走するみたいじゃない」

「学びたいのならば教師も付けるが」

「…それは、ものすごくありがたい」


予想外の収穫におどろいて彼を見上げれば、なんだという風にその仏頂面で見下ろされる。しかしその顔でにらまれたところで、別に不機嫌なわけではないことはわかる。

朝からのタンデムで否応なく会話をすることになってから、グウェンダルが思っていた以上に話しやすい男であることが分かった。
正当な理由があれば、ちゃんと理解をしようと努める。あまり心情はよくないと思っていたが、こうして二人乗りをしてりればきちんと気を配ってくれていているのが分かる。

さて、どれほどで私自身の自由が手に入るかはわからない。もともと何のためにこちらに来たのかはわからないのだ。例のアーダルベルトという男のこともまだ引っかかっている。

船上での一件もあり、海軍からの信用…というよりも、あまり詳細を知られていないうえ、双黒という前提があってのことだが、上に立つものとして認めた、程度のことだろうが、得てはいる。
それを危険分子ととらえ警戒されるか、信用と捉えられるかはこれからの行動次第だろう。

もしかしたら、グウェンダル自身は少なくとも好意的にとらえてくれているのかもしれない。

しかしそれとこれとは別だ。もし彼が私であったとしても、同じことをするだろう。
本当に脅威ではないとわかるまでは私情を挟むことはない。それが自国を揺るがすほどのことであればなおさらだ。

何のために呼ばれたとか役割だとか、そんなことは正直私としてはくそくらえなので食客の立場くらいにおいてもらえれば助かるが、最終的には今はいないというこの国の国王次第かもしれない。

双黒というだけで何もせずにいることは、この国の国民の血税を無駄にしていることに他ならない。どんな形であれ、受けた恩はきちんと働いて返すべきだ。

そのことに関してはお飾りの王でないことを祈るのみである。


「城下に入る前に」

「うん?」

「申し訳ないが、黒のお召し物に着替えて頂けるとありがたいのですが?」

「…向こうについたらあのびらびらした服じゃなくてヨザックや貴方が着ている様な服を用意してもらえるなら」

「…正式な場以外でなら、考えておこう」

「さすがに式典のときくらいは我慢しますよ、閣下」


冗談めかしてきいてきたグウェンダルに、笑って返せば安心したように微笑まれる。何か苦労した経験でもあるのだろうか。
うわさに聞く新国王のやんちゃっぷりが何かしらからんでいるのかもしれない。(といっても兵士たちから聞いた陛下トト?とやらの話程度だが)

遠くに見えた城に、しばらくはこの平和な風景も見ることはないのだろうと目を細めた。




**

130527
ヴォルテール城編とかいっときながらまだついてない。



prev next
bkm

index
×