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グウェンダルから見て、彼女―ラシャの印象はヨザックほど悪いものではなかった。

ヨザックに手を引かれ小屋に入ってきたときの彼女は、警戒はしていたが落ち着いていた。話す中で、ラシャは双黒であるが故の扱いを拒んだ。権利と義務が何であるかきちんと把握し、明確な意思表示をしたラシャに、正直グウェンダルは持つ印象は良かった。

ラシャの見ている視点は上に立つ者特有のものだ。同じような立場にあるグウェンダルには何となく、それを感じていた。

ラシャが知れば苦い顔をするだろうが、そういったものは同じような空気を身にまとう相手に隠すことはなかなかに難しい。
当初、彼女はそれを隠そうとした。見知らぬ土地で、見知らぬ者に囲まれたのならば自分の実力を隠すことは当然であり最低限の自衛手段だ。

しかしアニシナの発明品を飲んだときの対処に気づいたヨザックが訝しんだ。そしてその後それに加え、事情を知るにつれ隠す気―というより意味がなくなったと判断したのか、すぐに交渉の体制に移った。その判断力と度胸には感嘆した。アニシナの発明品の犠牲になったその直後に立ち上がったことにも。

グウェンダルにとっては、ラシャは対等に話をしたいと思える相手だった。腹の探り合いではなく、きちんと話をしてみたいと考えるほどには。



だから、隙が出来た。
賊の目的がラシャであったこと、情報が漏れていたこと、彼女の部屋に賊の中の手練れがむかったと言われたこと。彼女を守るはずであったヨザックが戦闘に参加していたこと。

全ての間が悪かった。ラシャの実力を掴み切れていなかたこともある。その一瞬の隙をつかれ、トップであるグウェンダルが拘束されたことにより戦況はどうしようもないほどまでに悪化した。






拘束された縄の中で、ヨザックは大きな悲鳴を聞いて振り返った。見れば、大柄な眞魔国の兵士が一人甲板の上で賊と向き合っていた。
ヨザックには見覚えのある男だった。確か、今回ついてきた兵の中で一番大柄で、しかし一番臆病な男だったはずだ。それが一人、泣きそうな顔をしながらも賊の前に立ちふさがっている。

そのことに、場の空気がそちらへ流れた。

一瞬。
その一瞬だ。

奇襲を受けたかのように、海賊達の陣が崩れた。

我に返り意識を向ければ、流れの中心にいるのは先ほど部屋にいろとあれほど念を押したラシャで、不意をつかれた海賊達が体制を立て直すまでの間、たったそれだけの時間で戦場の色を塗り替えた。その戦慣れした姿に正直舌を巻く。
確実に相手の息を止めることだけに重点を置いた容赦ない戦い方だった。

しかしそれでも女の体で、それも一人だ。徐々に分は悪くなる。そう思い見ていたヨザックの耳に聞こえたのは銃の発砲音。次いで横にいた男―今回の戦いの指揮者だ、が後ろに大きく揺らいだ。

あれよというまに形勢は逆転した。
戦闘が始まっても戦わなかった、ここでも純血様様かと嫌悪しか覚えなかった兵達が剣を持ち、自分の意思で戦っている事実を、ヨザックは呆然と眺めることしか出来なかった。




130307
主人公が頑張ってる間のお二人。





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