▼勝てやしない



「どうしたァ坊主?」
「名前…」
「今日はやけに大人しいじゃねぇか」

名前はいつだって、少し探せばちゃあんと見つかる場所にいる。口では何と言おうとも、それはまるでバギーやエースの訪問を歓迎しているかのようだった。

賭博場で今日の勝ち分であろう札束を無造作にテーブルの上に散らかして、悔しそうにしているおそらく海賊であろう相手に楽しげに笑っていた瞳がエースを捉える。

その瞳が笑みを消して、エースの方に向き直る。なおも言い募る相手の海賊をしっしと追い払う仕草をすれば、そいつは怒りに顔を染めたまま大人しく立ち去った。こういったところで、名前の力の片鱗を見ることはままある。この男の実力は未知数だ。それはモビーに乗る家族でさえ。

「場所変えるか?」
「変な気遣いすんな。ここでいい」
「そうか」

うるさい酒場の中で、エースと名前の居る場所だけは静かだった。いつもへらへら笑っているくせに、とエースは心のうちで悪態をつく。

「ガープのことだろう」
「………」
「違ったか?」
「…そうだよ」
「俺なぞに言わずに本人に言えばいいだろうに」
「うるせえ」

酒を煽ってからからと笑う口は、エースがいらつくほど真実を言い当てる。

「じじいが泣いた顔が、頭を離れねぇンだ」
「そうか」

なぜわしの言うように生きなんだ。そういった。エースは自分の意思で海賊になった。自分の意思で白ひげの下についた。背中の刺青は誇りだ。
それでも"家族の言葉"は耳に残る。

「子供なんぞみなそんなもんだ」
「………。」
「親の背ェみて育つか、逆の道にいくか。でもちゃあんとそうやって悩んでる。そんだけで十分だろうよ」
「でもよ、」



「お前は親より先に死ぬ親不孝をしなかった。それだけで十分だろう」


はっとして顔を上げたエースに、んな下らねぇことで悩んでたのかと言った名前はまた大きく酒をあおった。

「気にいらねぇならニューゲートにも聞いてみろ。あの老いぼれでもおんなじ答えだろうよ」
「オヤジのことを悪くいうな!!」
「おーおーそんだけ元気がありゃ大丈夫だ。とっととお家に帰りな」

なおも言いつのろうとしたエースに名前は話はおわりだとばかりに背を向ける。そしてにやりと人の悪い笑みを浮かべて何を言うのかと思えば、振り返った名前からはき出された言葉にエースの感情はまた爆発した。


「俺がしっかりガープに伝えといてやるから安心しろよ、エース」



「や め ろ !!!!!!」



悩んでいた心はどこへやら。




***


「さすが名前さんだぜ…」
「我らがキャプテンバギーがほれ込むのも仕方ねぇ…!」

そして流れ弾はあらぬところで誤爆。




140131




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