▼探していたのは。



後ろから話しかけると怖がる。突然の物音に固まる。咄嗟の時にはアーダルベルトにすら怯えた。夜に隠れて泣いていた。1人で眠れていなかった。捨てられることを恐れて、いつだってアーダルベルトの顔色を伺っていた。そのくせ雛のように後ろをついてまわっていた。そんな状態から、それでも少しずつ、ほんの少しずつ、己の力で前を向けるようになってきていた。自分の言葉で話せるようになってきていた。笑顔が見れた。

はじめは利用するつもりだった。例え死体だとしても交渉材料になる。双黒には価値がある。雨の中で拾って、生きていたから飼った。それが始まりだった。

「なぁ坊ちゃん、お前は本当に運が良かったなァ」
「な、んの、話だよ!」

目の前の新王は、あいつよりも、きっと運が良い。同じ地球とやらから来たのだろうに、この扱いの違いだ。ユーリ陛下の後ろでは、コンラッドが剣を構えていた。

「言葉が分かるようになっただろう?」

鼻で笑えば悔しげな顔をする。表情が豊かだ。この王の魂はコンラッドの思惑通り、ちゃんと守られて真っ直ぐに育ったのだろう。
しばらく出かけると伝えた時の名前の不安げな瞳が脳裏に浮かぶ。隠しきれないそれを押し込んで笑ってみせた名前は良い女だった。素直にそう思うまでに絆された。きっと情が湧いたのだろう。疑いなく寄せられる好意は心地がよかった。

「アーダルベルト!」
「おっと」

斬りかかってきたコンラッドは、名前の事など知らぬのだろう。そう鷹を括っていた。今までが平穏すぎた。ぬるま湯に浸かっていたのはアーダルベルトの方だった。
突如鳴り響いた警戒音。身体が強ばるのがわかる。舌打ちして周りを確認すれば、ばたばたと動く兵士達が見て取れる。

「魔力反応感知!みつかりました!」
「やっとか!急いで迎えをやれ」
「おい、何の話だ」
「アーダルベルト、貴様には関係ない」
「そうかよ」

どうにも嫌な予感がした。大事なものを失う度に何度も感じた焦燥。目の前の双黒。探し回っていたコンラッド達。少しずつパズルが組み合わさってゆく。

「探してんのか?」
「関係ないと言っている」

コンラッドの剣からは焦りが見てとれた。それはアーダルベルトの相手などしている暇はないと、如実に語っている。

「どうだかな」
「何を知っている」
「なーんにも?お前はそこの坊主が大事なんだろう」

あの子は救われなかった。もう遅すぎた。今更何を探すというのだろう。腹の中で感情をつけることの出来ないものが渦巻く。
迎えに飛ばされたのであろう骨飛族を目の端に確認し、対峙したコンラッドから剣を引く。自分の予測が外れていることを願うが、総じてこういった時の勘ほどよく当たるものだった。何故今更魔力反応が出たのかはわからないが、あの哀れな子が目の前の男達の手に渡ることはどうにも我慢がならなかった。


2019/06/25
アーダルベルトはユーリのお迎え()に行っていました。


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