第拾九幕
――喪失感
―――ふと感じた喪失感に、その場にいた沖田、斎藤、藤堂はもちろん、黒いローブをまとった者たちまで動きを止めた。
横でじっと立ったまま動かなくなった千鶴。そこから感じる違和感。沖田はハッと目を見開いた。この気配は先程までの千鶴ではない。……違う!
それは沖田だけが感じ取ったわけではなかった。斎藤、藤堂も、その違和感に対して警戒心が疼いてしまう。その時、ふらりと千鶴が揺れた。
……気配が、先ほどと一変した。
先程までの柔和な気配なんかじゃない。どこか懐かしい、それでも鋭い殺気に似ている気配。
「……」
「……」
黙りこくった。
ただ、黙って目の前の彼女を見ていた。
「………………?」
『……風翔様……でしょう?』
「――――っ」
目線が交わる。降り積もり、目の前を真っ白な風景に変えてしまう雪のような目。その目はとても冷淡で、冷静で、真剣で。
そして、今まで感じたことのないくらい強い想いが伝わってくる。
それが、どうしようもなく胸を締め付ける―――。
『"切り札"はもうここにはいません。だから……風翔様も、お戻りください。今はまだ、出番ではないのです……』
悲しげに瞼を伏せ、目の前の"彼女"がつぶやいた。
『今は、あなたのいるべき時ではないのです』
しかし、はっきりと。
彼女は沖田に冷静に真実を告げる。
「……君は、まさか――」
『いいえ、違います。あなたが想像しているものとは違います』
「じゃあ、どうして……」
―――どうして、そんなに悲しそうに言うの―――
それは、言えなかった。
「……って待てよ!お前……千鶴なんかじゃねぇな。千鶴の体使って、何しに来た!」
『………。さすがは藤堂平助とでもいったところでしょうか』
「は?何が、だよ……」
『今は知らなくて良いことです。いずれ……分かる日が来るでしょう。そして、私がこの体から消えたとき――雪村千鶴と沖田総司は先程までの二人とは違う人物に戻っているはずですので、頑張ってくださいね?』
ふう……と空気が抜けるかのように千鶴が地面に膝をつく。
張り詰めた空気が―――溶けた。
*(20131122:公開)