第八幕
――知らないところで知るということ
目が覚めたとき、とてもすっきりとした気分だった。全てがまとまり、答えが見いだせる。
『私のやるべきことは、"守護者"を見つけ、物怪を討伐すること――』
たったそれだけ。簡単なことのように思える。しかし、現実は違っていた。全てがわからないところから始まる。
全ての人間は、千鶴の存在を否定する。そんな孤独感に苛まれながらも、着々と千鶴は自身に必要な能力を身につけていった。
そんなある日、大地が波打った。
いわゆる、地震、だ。
その地震で、白虎は目覚める。祠の中にある、"銀"を守らんと、自身に蓄えていた力で西の祠を結界で囲った。
しかし、それは罠。守った白虎は再び眠りにつき、結界は解かれた。――物怪は、一瞬の隙をついて銀を奪おうとその洞窟に踏み入れた。
そこで待ち受けていたのは―――。
「そこから、なんです。私が本格的に物怪を狩るようになったのは――。……銀を奪われれば、白虎はもう永遠に目覚めないから……」
「…………」
「そして、このまま"守護者討伐"の連鎖が続けば…………安寧など、夢のまた夢になってしまう」
今はそれしか話せませんと千鶴は頭を下げた。これ以上話しても、今の彼らにはきっと理解することができない。
千鶴が欲しいのは"理解"。理解してもらうには、まだ日にちが足りない。
「……あんたも、そんな事情を持っていたのか」
「え?」
「いや、なんでもない。よく話してくれた、感謝する」
「いえ。私たちに必要なのは"理解"してもらうことですから……」
「それで、あんたの正体は……」
「おそらく巫女、ですね」
―――自分自身にもよくわからない、力。だからこれを巫女の力と呼んでいた。祠を守っているのだから妥当だろうと思ったからだ。
「あんたは聞いたことがあるだろうか」
「え?」
「遥か昔、五獣の守る祠を狙う物怪を討伐していた守護者は、たった五人だったそうだ」
「……っっ!!」
千鶴はバッと斎藤の顔を見た。肩が震える。どうして、どうして斎藤がそんなことを知っているのか、千鶴にはわからなかった。
「まだまだ、未熟なようだな。それにまだ何も知らない……」
「……まさか、斎藤さんは……」
「秘密だ」
意地悪げに笑った斎藤は、いつもの固い雰囲気ではなく、いつにないくらいに穏やかな雰囲気をまとっていて。
千鶴は、そんな表情を見せた斎藤に安堵すると共に、ある可能性を見つけ出す。
「あんたの話はよくわかった。……あとは、状況証拠だな」
「そうです、ね……」
まるで自分のことのように話す斎藤に、千鶴の思考はついていかない。しかし、ただひとつだけわかったことがある。
(斎藤さんは、この方は―――)
**
「斎藤、あいつは何か言ってたか?」
「……いえ、まだこちらを警戒しているようで、何も話しはしませんでした」
報告の際、いつもどおりの無表情でそう言えば、土方はそうかと一言つぶやいた。
「失礼します」
土方の部屋を出て、自分の部屋に戻る。
斎藤は雪村千鶴から聞いた話であることを確信した。彼女から感じた特別な力。普通は一属性しか扱えぬ力を二属性も操っていた昨夜の千鶴。
「あれ、一君じゃん。土方さんに報告?」
「ああ、まあ、な」
「ってか昨日捕まった雪村千鶴……だっけ?あの子さ、もしかして―――」
「やはり平助もわかったか。……おそらく、な。話を聞いて、なんとなく確信は持てた」
「うわ、流石一君じゃん。仕事早いなあ」
「平助よりは、な」
「一言多いんだって」
はは、と笑う平助の笑みにはどこか深みを感じる。何か確信したような斎藤の表情に、平助もまた何かを確信したらしい。
で?と平助が聞いた。
「昨日、雪村千鶴はどんな能力を使ってたんだ?」
「本来の属性は"金"らしい。総司と共鳴していたからな。だが、他属性の力を使っていた。符を媒体にしていたからそれほど強くはないらしいが……」
「へえ、面白そうな奴が出てきたなあって思ったけど、予想通りかな。いつもの雑魚みたいなさ、ただその属性の力を持ってたからって勝手に守護者になった奴らじゃないんだろ?それに"雪村千鶴"……氏名に姿に声までおんなじとくれば」
「ああ。しかも、白虎族の"真の巫女"に導かれて守護者になったと言っていた」
「じゃあ、俺らと同じ"素質"があるんだ。ってことは……もしかしなくても、あいつなのかな。それなら絶対、今度こそ守らなくちゃな……」
もしそれが本当なら雪村千鶴は切り札ってところかな?そう言った平助に、斎藤は無言で頷いた。
「久々に、二人だけではない仕事が出来そうだな」
「ああ!一君、その辺の土方さんの説得は任せるぜ」
そして、また夜がやってくる。早朝へと繋がる闇が、世界を深く包み込んでいった―――。
*(20130811:執筆、公開)