伍 | ナノ

第伍幕


――目覚め、優しさ 







「……っていっても、こんなにぐるぐる縛るかなあ」

 もうそろそろ、物怪討伐の時間帯になる。しばらく千鶴がいなくなる予定だったからこの間はいつもの二倍討伐させてもらった。
 だが、先ほど千鶴は一瞬だけ沖田と共鳴してしまっている。その共鳴から状況が変わったとて、不思議ではない。物怪は力の弱いものを先に狙う。それは今も変わらないから。
 共鳴すれば、大地に流れる白虎の波動に微々たるものだが影響する。それが物怪を導く鍵にならなければいいと、今はそれを願うしかなかった。

「……特に早朝、なんだよね」

 物怪が活発に活動する時間帯――それは夜ではなく、早朝だ。そして、今はそれに当てはまる。

 ――カタン!

 物音に、びくりと肩を震わせた。いくら千鶴が物怪を討伐する側だとしても、今はぐるぐる巻きの猿轡を噛まされている状態だ。
 口が使えないことは呪術が使えないことを意味する。そうなれば、自身の持つ"風"で対抗しなくてはならない。
 ……だから、千鶴はそこで冷静になった。

「……おやおや総司は全く……」
「………?」
「痛かっただろう?今外してあげるからね」

 猿轡を外されたあと、その穏やかな男性は千鶴をぐるぐると巻きつける縄を外しにかかった。

「……あなたは……?」
「私はこの新選組の六番組組長の井上源三郎だよ。すまないね、こんなひどい扱いで……」
「あ、昨日沖田さんに宣告されてましたので大丈夫です」

 ぱさりと音がして、縄が畳の上に広がる。井上が外してくれたのだ。千鶴がぺこりとお辞儀して礼を言えば、井上は笑った。

「じゃあ、私と一緒に来てくれるかね?」
「はい!」

 広間へ移動する最中に、井上にたくさん話をしてもらった。
 昨日助けてくれた襟巻きをつけた男の人のこと、沖田のこと、そして副長の土方歳三のこと。
 
(……冷酷な人斬り集団、ってわけじゃなさそうだな。そういう面もあるといえばあるみたいだけど……)

 でも、京の皆が噂しているくらいひどい集団ではない。それが分かった反面、どうして知ろうとしないのかが不思議だった。

「失礼するよ」
「……失礼いたします」

 丁寧に井上のあとに続いてそう言えば、襖のむこうの話し声がぴたりとやんだ。

「………」

 広間の中心に正座し、千鶴は真っ向から近藤と土方を見据える。 
 まるで、全てを見通すかのような、そんな千鶴の射抜く目線に、近藤は何も言えなかった。

「まずは状況説明だが――ここは総司が適任か」
「僕ですか?……仕方ないですね」

 まあ、昨晩千鶴とまともにやりあったのは沖田ひとりだけだったのだからこの展開は仕方がない。しかし、沖田はため息をつくばかりだった。
 まだ、自分の中でも整理しきれていないのだ。いきなり現れた少女に"風使い"呼ばわりされ、攻撃を受けた。
 しかも、実際に風が総司を守った。これは半信半疑だった沖田も信じるしかなくなる。だからこそまだ整理がついていなかった。

「……昨日の夜、そこの……雪村千鶴ちゃんが【新撰組】の失敗したところを目撃した。千鶴ちゃんはそれを攻撃したようですけど……あれの回復はそれ以上だったみたいですね。本格的にまずい状況になった時に一君があれを殺して―――そのあと、彼女が何かに気づいたらしく、僕に攻撃を仕掛けてきました」
「……お前にしてはまともな説明じゃねぇか」
「何です、僕がいつも不真面目だとでも?それに、この話はとても不可解すぎるんですよ」

 不真面目なのはいつもじゃねぇか、と土方は不満をこぼしそうになる。しかし、今はそれを抑え――部屋の中央に座る、雪村千鶴に目を向けた。




*(20130810:執筆、公開)  

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